肩の痛みに葛根湯

同じような検査を繰り返したり、専門と思われる診療科に次々と紹介するたらい回しをしないためにも、当科では初診時から漢方治療を行っています。漢方では、西洋医療とは全く異なった視点で患者さんを診察・治療しますので、なかなか診断がつかない患者さんには有効なことがあります。

 先日、3カ月前にクルマに乗っていて追突され、頸椎症と診断されて近くの整形外科で治療を受けている64歳の女性が来院しました。この方は、首と肩の痛みが軽減した1カ月ほど前から、鼻の周囲が痛くなり始めました。脳神経外科や耳鼻科での、血液検査やMRI検査などでは異常が認められなかったものの、症状は全く改善しないため、当科を受診しました。

 この患者さんには、「曲池(きょくち)」「手三里(てさんり)」「身柱(しんちゅう)」と呼ばれる経穴(つぼ)に対し、円皮鍼による鍼治療を外来で行いました。肩の痛みに対してよく行われる治療です(図1)。鍼治療の約20分後には、症状が3割ほど軽快したと笑顔が見られたため、同じく肩の痛みに対してよく使われる葛根湯を処方しました。

 1週間後に再診した時には、時々痛みを感じるが、症状が気にならないことが多くなったということでした。前回と同じ場所に円皮鍼治療を行い、さらに葛根湯を2週間処方しました。

 私たちはこのような患者さんに対して、西洋医学的な評価を行った後に、積極的に漢方薬や鍼灸の治療を行うようにしています。腰痛を訴える患者さんに鎮痛薬を処方しても、心下部痛や食欲不振で患者さんの苦痛を増やすことがあります。それよりは、漢方薬や鍼灸治療の方が患者さんには優しいと思います。

肩の痛みの鍼治療でよく用いられる経穴である「局池」「手三里」「身柱」
 これからの医療において、プライマリケアに携わる医師は、漢方エキス剤を使いこなし、できれば鍼灸も実践していくことが患者さんのニーズにマッチすると思われます。幸い、日本の医師は西洋医療と漢方、鍼灸のすべてを行える世界で唯一の資格を持っています。中国や韓国では西洋医と中医(韓国では韓医)の医師免許は全く別です。米国でも東西医療を融合した医療に対する関心が高まっていますが、内科医は鍼灸師の資格を新たに取得する必要があります。最近、中国・韓国も日本の医師免許制度の利点に注目しており、将来的には両者を融合させる方向だと聞いています。