鉢かづき

鉢かづき
 昔々、あるところに、たいそう美しいお姫様がいました。
 家はもともと裕福でしたが、お母さまは少しからだが弱く、観音様を熱心に拝んでいました。
 ある日、お母さまはふとした病気がもとで寝込んでしまいました。
(もう、私はこのまま儚くなるのかも知れない)
 そう思うと、お母さまは枕元に娘を呼び寄せました。
「姫、私はもう観音様の元へ旅立たねばならぬようです。後へ残すあなたのことが気がかりだけれど、観音様のお告げの通りにしますから、どうぞ、あなたも観音様をよく拝むのですよ。」
 そう言って、お母様は、姫の肩まで届くほど大きな鉢を姫の頭にすっぽりとかぶせました。
 そして、しばらく姫の手をしっかり握っていましたが、ふと力が抜けたと思ったら、お母様はお亡くなりになってしまっていたのです。
 姫は悲しくて悲しくて、ずっと泣いていました。でも、泣いてもお母様が帰ってこないのがわかったので、お母様の代わりに、観音様とお話しすることにしたのでした。
 頭の鉢は、お父様が取ってあげようとなさったのですが、どうしても取ることができません。まるで、姫の頭に吸い付いたように、がっちりとくっついて離れないのです。
 観音様のお告げの通りと、お母様はおっしゃいました。
 いったい、どうしたことでしょう。




 時が過ぎ、北の方のなくなったお父様は、新しい北の方をお迎えになりました。
 北の方が最初になさったのは、やはり、姫の頭の鉢を取ることでした。
 引っ張ってもたたいても、姫が痛がるだけで、いっかな取ることはできません。
「何と強情な娘だろう。」
 北の方は、頭の鉢が取れないのは姫が何かたくらんでいるせいだと思いましたので、何かと姫につらく当たりました。
 姫は、自分が北の方にかわいがっていただけないのは、きっと、この頭の鉢のせいだと思いました。いくら観音様のお告げでも、このように化け物じみた姿では、かわいがっていただけるわけがない、と。
(いっそ、このまま儚くなって、お母様の元へ参りましょう。)
 悲しく切ない気持ちを抱いて、姫は、川へ身を投げました。
 ところが、頭の鉢が浮き袋のようになって、姫の体は沈まないのです。
 そのまま川を流されて、都の近くまで漂っていきました。

 川の近くで魚を捕っていた村人が、上流から流れてくる鉢を見つけました。
「なんだか変わった物が流れてきたぞい。」
 手元の竿をのばして引っかけ、岸へたぐり寄せましたところ、鉢の下に娘の体が付いているではありませんか。
「ば、ば、化け物ーーー!!!」
 村人は腰を抜かして逃げていきました。
(やはり、私は化け物としか見られないのですね……。あさましの身の上や。なぜ、命が絶えなかったのでしょう。)
 姫の目から涙がこぼれました。でも、助かってしまったのは、観音様の思し召しかもしれません。濡れた体を、村人が起こしていたたき火で乾かしながら、姫は思いめぐらしていました。
 そこへ、立派な身なりの貴族のお殿様が通りかかりました。
「娘、何をしている。」
 姫は、それまでのいきさつを語りました。お殿様はなんだか姫がかわいそうに思えて、
(邸に一人くらい変わったのがいてもいいだろう。)
と、姫を連れて行きました。
 邸へ連れては来たものの、何もさせずに置くわけにはいきません。
 姫はそれまで本当に「お姫様暮らし」をしてきたので、お殿様の北の方がおっしゃる料理とか裁縫とかは何一つできませんでした。
「何もできなくても、お風呂でお湯をわかすくらいはできましょう。」
 姫は、風呂焚き娘として邸に置いてもらうことになりました。
 井戸から水を汲んできて風呂桶を満たし、薪を割って火をくべる。
 慣れない仕事で腕も肩も腰も痛みましたが、誰かの役に立ち、喜んでもらえるのがうれしくて、姫は一生懸命勤めていました。




 貴族は、橘の家のお殿様でした。若君が5人にて、それぞれ宮廷でときめいておいででした。
 中でも真ん中の若君は、麗しい見目かたちと管弦や詩作の優れた才で帝のご寵愛篤く、左近衛府少将のお役目を賜っておそば去らずにおいでになり、あちらこちらの姫君といつも噂が絶えないという華やかなお方でした。
 その夜も、若君はどこかの姫君との逢瀬を楽しんで、夜明け近くにお帰りになりました。
(寝る前に湯浴みすることにしよう。)
 湯殿へ行くと、頭に鉢をかぶった不思議な娘が控えていました。
(これが例の鉢かづきか。)
 宮中の宿直と毎夜の夜歩きでほとんど家に居着かない少将様は、鉢かづきを見るのが初めてでした。
 頭こそ鉢をかぶって妙ですが、よく見ると、水仕事や薪割りで荒れているとはいえ、手入れをすればほっそりと優雅な手、上品な物腰など、ただの村娘とは思えません。
(返事をさせてみよう。)
 少将様は姫の声を聞きたくなりました。
「今日は少し疲れているから、少し熱めの湯に入りたいのだよ。わかしておくれ。」
「かしこまりました。」
 何と細い、透き通るような声! それまで逢ったどの姫君よりも美しい声でした。少将様は、もっと鉢かづきをよく知りたくなりました。
「背中を流してもらえまいか。」
 お湯に体を浸しながら、少将様は外の火焚き口にいる姫に声をかけました。
 姫はびっくりしました。背中を流してもらったことはあっても、他人の背中を流したことはないのです。でも、主である館の若君には逆らえません。姫はおずおずと湯殿に入りました。
 少将様は、湯殿に入ってきた姫の手を取り、自分の方へ引き寄せました。
 初めて男の腕に抱かれた、しかも裸の男に抱きしめられた姫はもうどうしていいかわかりません。少将様のなさるとおり、されるがままになるしかありません。
 少将様も、邸の下働きの娘などに遠慮はありません。どんどんとことを進めて、とうとう、姫を我が物となさってしまいました。
 姫のすべてを知った後に少将様が感じたのは、姫への限りないいとおしさでした。
(この人のために自分はあったのだ。もう、離さない。)
 心から何度も愛を誓う少将様のお言葉を、姫は夢うつつで聞いていました。
「君の、本当の名前を知りたい。」
「……あかね、と、申します。」
「あかね……!」
 少将様はあかね姫を強く抱きしめました。二度と離したくない。でも、夜明けを告げる鶏の声が遠くから聞こえてきます。
「若君さま……夜が明けます……」
「友雅と呼んでおくれ、いとしい人。もう、君なしではいられないよ。今宵はどこへも行かない。君の所へ来よう。」
「友雅さま……」
 離れがたい気持ちをこらえて、二人は今宵の逢瀬を約束して別れたのでした。




 それから、深夜、人が寝静まってから、二人は湯殿で逢うようになりました。
 だんだん大胆になって、姫を少将様のお部屋へ連れて行くようなこともありました。
「結婚してくれるね。君がいない生活など、考えられない。私の北の方になっておくれ。」
 何度もいわれながら、あかね姫ははっきりと返事をできないでいました。自分の化け物じみた外見。いくら観音様のお告げとはいえ、友雅さまにご迷惑がかかることに間違いはないと思ったのです。
 少将様の気持ちは、すぐにお殿様や北の方の知れるところとなりました。
「何を考えているのだ、下働きの、しかもあのような姿の娘を北の方にすえるなどと。」
「あなたにはもっとふさわしい縁談がいくつも来ているのですよ。鉢かづきなどおやめなさい。」
「鉢かづきなどと……父上母上はあの姫の本当の美しさをご存じない!」
 両親の反対は、かえって、少将様の姫への気持ちを強めるだけでした。
 北の方は何とかあきらめさせようと、あることを思いつきました。
「嫁合わせをいたしましょう。息子たちの嫁の君と私はきちんと会ったことがない。この機会にみなさんに集まっていただいて、楽しくお話することと致しましょう。」
 あの不思議な姿の娘をさらしものにするようなまねはできないでしょうから、さすがの少将様もあきらめるだろうと、北の方はお思いになったのです。




 いよいよ明日がその嫁合わせの日となった夜。
 少将様は心を決めました。
「ここから逃げよう、あかね。遠くへ行って二人だけで暮らそう。観音様のお告げが本当なら、そのご加護で私たちは生きていけるに違いない。」  
 あかね姫も、もう、離れて生きていくなど考えられないくらい、少将様を想っていました。二人、手に手を取って邸を出ようとしたとき。
 姫の頭の鉢が急に取れて、地面に落ちました。
 鉢は二つに割れて、中から、金糸銀糸で縫い取りをした華麗な衣装ひと襲と、瑠璃や翡翠の珠、真珠、珊瑚といった宝玉がどっさり出てきたのです。
 二人はびっくりして、しばらくそれを見つめていました。
 それから、少将様は、あかね姫の顔を見ました。
(美しい……)
 抜けるように白い肌が、月の光を受けて、さらに白く美しく輝いています。
 姫の目は、それ以上にきらきらと輝いて、そして、真珠のように光る涙がぽろりと一粒こぼれました。
「なぜ泣くの、いとしい人。私の大切な人……」
 少将様は姫を固く抱きしめ、涙を吸い取ってあげるのでした。
 もう、嫁合わせから逃げる必要などありません。
 初めての口づけを交わし、二人は少将様のお部屋で夜明けまで過ごしました。




 嫁合わせが始まりました。
 美人と誉れ高い長男の嫁の君。気だての良さが評判の次男の嫁の君。少将様の弟君の嫁の君もみなさんお集まりになって、それぞれ、お義母さまである北の方におみやげをわたされます。
 いよいよ、あかね姫の番です。
「お噂では、たいそうかわった身なりの姫君だとか。」
「お生まれも、不思議なお方だそうですわね。」
 皆が興味津々で眺める中。
 得意満面の少将様に手を取られて、あかね姫が入ってきました。
 観音様の鉢から出てきた衣装できらびやかに装ったその上品な美しさ。どの嫁の君にも負けません。負けるどころか、ぬきんでて美しいのです。
 皆、息を飲んで見つめるだけでした。
 おみやげとして、やはり鉢から出てきた宝玉を北の方に差し上げます。
 かろうじて、北の方がお声をかけられました。
「おまえ、本当に、あの、鉢かづき、かえ?」
 姫はにっこり笑ってうなずきました。
「何と今まで、知らなかったとはいえ、むごい仕打ちをしたのだろう。」
 北の方はあかね姫の前に手を付きました。
「私を許してくださるか。少将殿も、こんな立派な嫁の君を迎えて、なんと果報者だろう。どうか、少将殿をよろしくお頼み申しますよ。」
 はらはらと涙をこぼす北の方の手を取り、あかね姫は優しく声をかけました。
「どうか、お手をお上げ下さい。こちらこそ、ふつつか者でございますもの。よろしくお導き下さいませ。」
 嫁の君たちも、口々に姫の美しさを褒めそやします。みんなで仲良く楽しい時を過ごしました。


「よくやったね、かわいい人。私の白雪。」
 お部屋へ戻ると、少将様は大喜びで姫を抱きしめました。
「ご褒美は、何がいい?」
 真っ赤になってうつむく姫の顔をすくい上げ、少将様は口づけなさいました。
 お二人で御帳台に籠もって、甘い時を過ごされます。
 幸せそうなお二人の声が、帳の隙間からもれ聞こえるのでした。


 めでたしめでたし。
ーーーーーこれは現代風に大幅に脚色されていて『甘い時』だとかわけの解らんことを書いている
鉢は苦悩の源泉であるが身を守るものでもある
母親が残したもの
ばけものと呼ばれる原因
死のうとしたが、頭の鉢が浮き袋のようになって、姫の体は沈まないというわけで、自分を守ってくれるもの
この矛盾を生きなければならない
「何もできなくても、お風呂でお湯をわかすくらいはできましょう。」というわけで才能とも資質とも関係のないところで社会関与が始まりそこで性的関係になりそこから婚姻という社会関係に発展するなんじゃ?
誰かの役に立ち、喜んでもらえるのがうれしくてとか書いているな
ーーーー一般にパニック障害でも過食嘔吐でも社会生活を大きく制限することになる鉢である
しかしそのことがあるからいろいろと面倒なことを免除されるという面はある、命を救ってもくれるそれが鉢である
王子様が現れて鉢が取り除かれて円満な幸せに至る
ここでは、鉢は王子様の出現の前提条件となっており、しかも、王子様が鉢の困難を解決してくれる。
たぶん、症状の一部は王子様が現れれば解決するもので、しかも、症状を解決するために王子様が必要という心理はある
そのようにして王子様が選ばれ王子は男なので、いつものとおり、自分が選んだと錯覚して、配偶行動を行う
ーー ここで読み取ることができるのは症状を盾にして案外有利な立場を確保している人達がいることである
それを家族は痛感している
症状または鉢は最大の免罪符であり、強いカードであり、そのカードをどう使うのか、難しい問題がある
大抵の人はわがままと非難され非難されると無理解と応酬しますますこじれる
世界に王子様の数は少ないから鉢かづき的解決は難しい
ーーーこの話、そもそもの始まりが「たいそう美しいお姫様」なんだからその後は楽勝に決まっているんですよね
たていての人は「別に見栄えのしない庶民階級の女」なんですから
もとの話を調べてみなくては
ーー鉢かづき(原文) 春の日長しと思へども、その日もやうやう紅の、たそかれ時や夕顔の、人の心は花ぞかし。かの宰相の君、いつよりもはなやかに装束して、湯殿の傍の柴の臥所にたたずみ給ふ。鉢かづき、これを知らずして、暮ればと契りしかねごとの、はや宵の間もうち過ぎぬ。人を咎むる里の犬、声するほどになりにけり。来んまでとのかたみの枕と笛竹をとり添へ持ちて、かくなん、 君来んと 黄楊の枕や 笛竹の など節多き 契りなるらんとうちながめければ、御曹司とりあへず、 幾千代と 臥し添ひて見ん 呉竹の 契りは絶えじ 黄楊の枕にさて、宰相殿は、比翼連理と浅からず契らせ給ふ。 包むとすれど紅の、洩れてや人の知りぬらん、「宰相殿こそ、鉢かづきがもとへ通はせ給ふ、あさましさよ。もとより高きも賤しきも、男はあるならひ、立ち寄り給ふとも、あの鉢かづきめが、近づき参らせんと思ふ心の不徳心さよ」と憎まぬ人はなかりけり。 ある時、よそより客人来り、夜ふけ方まで隙入り、遅く入らせ給ひければ、鉢かづき、おぼつかなく思ひて、かくばかり、 人待ちて 上の空のみ ながむれば 露けき袖に 月ぞ宿れると、かやうにうちながめければ、いよいよやさしくおぼしめし、契り深くはなりけれども、捨つべきやうはましまさず。
(現代語訳) そうこうしているうちに、春の日は長いと思ってはいても、その日もだんだん暮れていって黄昏時ともなると世間の人の心は、夕顔の花のように変わりやすいものだが、あの宰相様は、いつもより華やかに衣服を着こなして、湯殿のそばの柴の寝床に来てたたずんでいらっしゃる。鉢かづきはこれを知らず待っているうちに、「日が暮れたら」と前に約束してくれたけど、もう宵の口も過ぎてしまったし、怪しい人をとがめる村里の犬が声を上げる時分にさえなってしまった。そこでまた来る時までという形見の枕と横笛を並べて持って、こんな風に歌を詠んだ。 
あなたが来ると告げてくれる、黄楊(つげ)の枕なのでしょうね。この横笛の竹のように、どうして節が多い…、間の短い契りなのでしょう、あの方と私の仲は。
と詠んだので、物陰にいた坊ちゃまは、即座に、 
何千年もの間、黄楊の枕で添い寝をして見届けて欲しい。横笛の材料の呉竹のような、長い二人の仲は、決して絶えません。
と詠んだ。そうして宰相様は、比翼連理の比喩どおり、鉢かづきと浅からぬ契りを交わされたのであった。 包み隠そうとするけれど、灼熱の恋は、漏れて人の知るところとなったのであろう。 「宰相さまが、鉢かづきのもとへお通いになっているとか。あきれることだねえ。もともと身分の上下を問わず、男にはつきものの色恋沙汰だから、男に方はお立ち寄りになるのはともかく、あの鉢かづきめが、宰相さまとお近づきになろうと思うのが、納得いかないことだわ」と、憎まぬ人はいなかった。 
あるとき、他所からお客様が来て、夜更けまで時間がかかり、宰相の君が遅く湯殿にお入りになったので、鉢かづきは不安に思ってこんな歌を詠んだ。 
あの方を待って、上の空で物思いをしていると、悲しみの涙で濡れた袖に、あの空の月の光が輝いていることだと、
こんな風に詠んで待っていたので、宰相の君は、ますます可憐なものをお思いになって、契りは深くなるのだが、鉢かづきを捨てる気配はまったくおありではなかった。
(語釈)比翼連理 : 「比翼」は、翼を並べること。「連理」は、木の枝に別の木の枝がくっついていること。比翼の鳥とは、雌雄ともに目と翼が一つずつしかなくて、いつも一体となって飛ぶという中国の想像上の鳥である、連理の枝は、根や幹は別で、枝がつながっているものである。つまり、男女が仲睦まじいことのたとえ。特に夫婦仲が良いこと。
(全体のあらすじ) それほど古くない昔のこと、河内の国、交野のあたりに備中の守さねたかという人がいた。教養深い奥方との間に姫君が一人いたが、その姫君が十三歳のとき、奥方はあっけなくこの世を去った。今際の際に、奥方は、娘の身の上を、日頃信仰していた長谷観音に祈念するとともに、なにかを入れた手箱を姫君の頭に載せて、その上から鉢をかぶせた。すると不思議なことに、その鉢が全く取り外しができなくなってしまった。 
何年かして、父は、人の薦めでしかるべき女性と再婚したが、その継母はわが子を身ごもると、鉢かづきの存在が邪魔になり、夫に何かと悪く言った。そして、とうとう鉢かづきは、自ら家を出ることとなってしまう。死のうとして、川に身を投げるが、鉢が浮いて死ぬこともできない。
さすらううちに、山陰の三位の中将の情けに救われて、その家の風呂焚きとして雇われることになった。 相変わらず鉢は頭にくっついたままで、鼻から上は全く見えないという奇妙な姿であるので、誰も言い寄ってはこなかった。中将の家には四人の息子がいたが、上の三人は既に結婚している。宰相である四男は、美男で才能がありながら独身でいた。ところがある夜更け、一人遅れて入浴したとき、鉢かづきの声に魅せられ、初めてその優れた姿態(手足の美しさや振る舞いの優雅さ)に気づき、契りを交わす間柄となった。 
その後も二人の仲は深まり、毎夜、宰相の君は鉢かづきの部屋を訪れた。いつしか人の噂になり、鉢かづきの身分の低さ(風呂焚きの女中)を心配した父である中将夫婦は、乳母の知恵を借りて仲を裂こうとするが、宰相の君は承知しない。
では、上の三人の兄嫁たちと嫁比べをして、鉢かづきが恥ずかしさのあまり、いたたまれないようにしてやろうということになった。 その前夜、宰相と鉢かづきは、それなら駆け落ちをしようということになり、邸を出ようと手をとって、一歩踏み出したとき、鉢かづきの頭の鉢がぱっくり割れて地に落ちた。鉢かづきの顔立ちは美しく、宰相がうっとりしていると、鉢の中から手箱が出てきて、数々の財宝が出てきたのでびっくりしてしまう。 
翌日、二人は勇んで嫁比べの場に赴いた。三人の兄嫁たちは、それぞれに美しく、父母への引き出物も立派であった。しかし、最後に登場した鉢かづきの、鉢がとれた容姿の美しさには到底かなわなかった。加えて父母への引き出物も、あの財宝を使ったので群を抜いて立派なものだった。それではと、兄嫁たちは和歌の教養を競って圧倒しようとしたが、これも鉢かづきの優れた才能を披露する結果となった。 
感嘆の余り、中将は、時分の所領の大半を宰相の君夫婦に与えて、一族の総領とし、兄たちもこれに従うようにと命じたのであった。幸福な身分となった鉢かづきは、母の祈念で自分を守り続けてくれた長谷観音へ参詣する。そこで一人の修行者と出会う。それは、落ちぶれた父であった。その後、我が儘で浪費癖の継母のために暮らしが立たなくなり、妻も召使いも、家屋敷も全てを失い、かつて自分の弱さのために追い出してしまった娘のゆくえを探していたのである。再会した親子は感激の涙を流す。中将は、河内の国を、この鉢かづきの父と自分の息子の二人領主に任ぜられた。