嗜癖では医療依存を避ける事が大切です 信頼に基づく治療関係と依存的治療関係とを区別します

嗜癖では医療依存を避ける事が大切です。嗜癖治療の特徴と困難の中心は、この治療関係を確立、維持することにあります。嗜癖問題治療では、信頼に基づく治療関係と依存的治療関係とを区別します。逆説的ですが、医療依存、専門家依存を避けるために嗜癖問題専門家が必要なのです。
 嗜癖問題の治療では、以上の原則を守りながら、初期介入、家族介入、家族療法、教育的治療、力動的精神療法、認知行動療法、集団療法、ネットワーク療法、脱習慣のための行動修正、多重衝撃療法、自助グループ、再発予防など、いろいろな治療と技法を組み合わせて対応します。使えるものを、すべて使うといって良いでしょう。
[嗜癖問題という視点]
  飲酒もかつては、犯罪行為と見なされた時代がありました。現在でも世界の一部では飲酒行為は犯罪です。また、アルコール症を道徳的問題と見なす人は現在でも少なくありません。アルコール症を病気の一つだと知っている人でも、たとえば薬物乱用やギャンブル依存症はどうでしょうか。この種の問題を犯罪とか、道徳的な視点からのみみると、精神衛生の問題、健康の問題としてみることが難しくなってしまいます。この種の問題をみる際には複眼的な視点が必要です。
 アルコール問題以外のいろいろな社会問題も、嗜癖関連問題として対処することが可能な場合があります。たとえば、家庭内暴力、子どものいじめの問題、青少年の薬物問題、援助交際、ドメスティック・バイオレンス、 虐待、喫煙問題(ニコチン依存症)、摂食障害などは、有効な対策を考えるうえで嗜癖問題としての視点が欠かせません。 筆者自身は、盗癖(クレプトマニア)、痴漢常習者、性虐待者などの治療にも直接、間接的にかかわっています。もちろん、嗜癖問題という視点は万能ではありませんし、これらの問題を治療可能な病気とみなすからといって、このほかの視点(道徳、犯罪、人権、経済問題など)からの対策を否定するものではありません。