微笑しているのである

然し私自身は
今その不快の上に跨がって、
一般の人類をひろく見渡しながら
微笑しているのである。
今までつまらない事を書いた自分をも、
同じ眼で見渡して、あたかもそれが
他人であったかの感を抱きつつ、
矢張り微笑しているのである

『硝子戸の中』 夏目漱石