神田橋條治先生双極性障害1

神田橋先生は講演の初めに次のように述べておられます。(注:すべて口語のまま記録されています)

「お久しゅうございます。講演は、あまり得意じゃないんですが、あえてお引き受けしましたのは、双極性障害の治療の現状が誠に悲惨な状態にあって、いたたまれない思いをしているからでございます」

■はじめに

お話をする前にお断りしておかなきゃいけないことが2点ございます。1つは、私がこれからお話しすることはEBMの評価基準ではいちばん信用度の低いエキスパートの意見に過ぎません。ちっともEBMでの地位が上がりはしないんです。

しかし、EBMのもうちょっと信頼度の高い研究というのは行き当たりばったりにやるわけではなくて、その研究のデザインが作られるときのアイデア源は、「エキスパートがこう言っているけれど、本当にそうかいな」ということで研究デザインが組まれるのです。だから『パロキセチンと七味唐辛子の二重盲検法を用いた有効性の比較』なんてリサーチはしませんでしょ。

さらにまた、みなさんが私の話を聞いて、やってみて、自分の経験ではだめだったとなったとしても、それが私の経験を否定するものではないんです。

なぜかと言うと、多くの精神疾患は環境因子によって誘発されます。そして薬物が使われる場であるところの治療者・患者関係というものは非常に強力な環境因子です。その環境の中に薬物・診断が投入されているのですから、私のやり方がそのまま、みなさんにとって有効なやり方にはならないかもしれないのです。

それを近ごろ、しみじみ思いますのは、全国から患者さんが来られますので、私が治療をして、ほとんど気分安定化薬単剤になって、これでいいということで添書を書いて、あちこちの懇意にしている先生に紹介します。そして1年か2年か経って会ってみますと、薬が増えているんです。増えてて、それでちゃんといい状態が保たれているんです。

だから、どうも私の作っている治療者・患者関係は、なんだか薬の種類や量が少なくなるような関係であるらしいんですね。それをどんなにやって作っているのか、自分でもわからんのです、3分間診療ですから。今、大体1日に50~60人の患者を診ていますので、薬だけの人がその他にまだ20人か30人いますから、3分もありゃいい方で、30秒診療なんていうような人もいるわけです。

だからわからないのですが、あるいは短くしか診ないからかもしれないと思います。少ししか接しないから、有害作用がなくて、薬が少なくなるのかもしれない。丁寧に診ると、有害作用が起きて、マッチポンプ式に薬の量が増えると言うことがあるかもしれない。昔、私はそうだったの。私が一生懸命に診ると、どんどん悪くなっていく。まあそれは、昔話です。

それから第2点は、私が双極性障害と診断して治療している患者は、DSMの基準で見ると全然、双極性障害なんかではありゃしません。それは‘診断’というものについての姿勢が、スタンスが異なるからです。

私の理解するところでは、DSMは共通言語を作ろうという、お互いに話が通じ合うようにしようという目的で作られた言語体系です。私はいちばんその患者にいいサービスができるように、いいサービスができるとは、薬が少ないとか、早く薬がない状態になるとか、医療との縁が早く切れるようになるとか、というようなことが本人にとってよかろうと考えて、毎日やっています。その私の治療行動の指針としての診断なのですから、全然、スタンスが違います。

言いかえると‘双極性障害’と診断して、診療行為を行うことが、その患者にとって最も利益があるだろうと思われる人々群、という意味で診断名を用いています。ですから1回きりのエピソードの人もいれば、躁エピソードなど一度もない人も含まれています。

現在、情けないと思いますのは、DSMの基準からは正しくきちんと診断されて、治療されて、その結果、もうほとんど今のイラクみたいなメチャクチャな状況になっている患者さんが多いことです。患者さんの自然治癒を求めての言動、例えば中断とかリストカットとかが、医者の側から見ると自爆テロのような感じになっている患者さんがたくさんいます。診断が治療を壊しています。

ですから双極性障害という診断名も、私はDSMを無視して、勝手きままに使っていると思ってください。