認知療法が有効な理由

認知療法はどういうメカニズムで効果を発揮するのか

やはり不思議なところがあるわけです
人間は言葉で傷つくし
言葉で悪い方に影響されます
だからそれと同じ程度に言葉によって癒されることはあるはずです
しかし認知療法はそのようなレベルの話ではないでしょう
病気にもさまざまなものがある
というのは理解していただけると思うのですが
言葉に悪い方向に影響されたりよい方向に影響されたりすることもある一方で
脳の器質的な変化がうつ病をひきおこしているというレベルの問題もあるわけです
発達障害のような場合とか認知症の場合などが典型的です
認知症の場合には余計な物質が蓄積したりして脳の機能不全が発生します
血管の調子が悪かったり、血糖値が不安定だったり、
ミトコンドリアの不調があったりします
そんな事態に言葉による治療がなぜ有効なのかが問題なのです
神経の伝達が変調を来しているとか、物質の過剰や欠損があるといった場合に
いったい言葉による認知療法がどのように有効なのか
SSTという技法の集積があり
これは器質的な病変による機能欠損に対して
具体的な対策を考えるものです
認知療法の一部分はSST的なものですが
しかしそればかりではない
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何度か繰り返して書いていることですが
最近は抗うつ薬の認可がなかなか前進しません
アメリカで使われている薬が日本で使えないのですから不自由です
ベンラファキシンやエスシタロプラムを早く使いたいのですが
ベンラファキシンは治験に失敗しています
エスシタロプラムは現在進行中です
なぜ治験が成功しないかについては
やはり事情があるのです
まず現在、うつ病の定義が拡大していて、反応性のもの、疲労蓄積性のもの、脳病変によるものなど、
様々なものが含まれています
そのようなうつ病に対して、薬剤を投与して
HAM-Dのようなチェックリストでうつの重傷度や回復度を測定しています
治験の担当者・コーディネーターは
HAM-Dの他にも、生活の細部にわたり調査します
睡眠、食事、体重、尿、便、体温、その他細部にわたりチェックを続けます
また治験協力者は予定通りの時間にきちんと通院することを守りますし
守る動機付けもできています
週に一回、きちんと全部、実施します
考えてみるとそのようにきちんとした調査がある程度の期間続くと
程度の差はあっても生活は是正されるものです
実際、プラセボ投与の場合の有効率が思ったより高いのです
高すぎると言ってもよい
その理由として
治験コーディネーターによる丹念な生活チェックが治療としても有効なうつ病がかなりの程度含まれている
のではないかと考えられるわけです
うつ病の定義の批判にもなり
治療とは何かの問題にもなりデリケートな部分を多分に含むのですが
実際に現在、うつ病ではないかと思いクリニックを訪れ、
うつ病と診断され、治療される人の中には
「治験コーディネーターによる丹念な生活チェックが治療としても有効な」症例が含まれています
認知療法の一部分は
生活チェックやスケジュール表の記録を含んでいますから
「治験コーディネーターによる丹念な生活チェックが治療としても有効な」症例に対して
やはり有効だろうと考えられます
この場合は薬剤はプラセボでもいいわけです
そして
認知行動療法だけでは解決しない症例に対しても
薬剤と併用する形で認知行動療法を行えば効果があるだろうことは容易に推定されます
器質性の部分と反応性の部分を別の面として考えることは
昔から行われていて
よく考えるとこのような二分法はたいへん乱暴でもあるわけですが
一応そのように考えるとして
器質性部分に薬剤を
反応性部分に精神療法を
しかもその精神療法は精神分析でもなく傾聴でもなく
生活チェックではないかとの意見があるわけです
これは合理的な考え方だと思います
認知行動療法が目指しているのも
基本になる仮説も
実際の効果も
これだけで説明できるものではなく
もっと大きな領土を覆っているのですが
少なくとも実際のクリニックでの治療では
このような側面があるのではないかと思うわけです
ですから
患者さんにとっては
単純な繰り返しに思えても
一週間の詳細なチェックを
ある程度の期間耐えることが
やはり治療になるわけです
それは結構大切なことですし
ひとりで実行することはやはり難しい
治験の構造がうつ病を治す
だから
認知療法が有効なのだ
と考えます
もちろんこれは現実に起こっていることの一部分でしかないでしょうが
そのような感覚を持つだけでもずいぶん違うと思います