万里悲秋常作客百年多病独登台

登高(とうこう)

杜甫(盛唐)

 風急天高猿嘯哀(かぜ きゅうに てんたかくして えんしょう かなし)
 渚清沙白鳥飛廻(なぎさ きよく すな しろくして とり とびめぐる)
 無辺落木蕭蕭下(むへんの らくぼくは しょうしょうとして くだり)
 不尽長江滾滾来(ふじんの ちょうこうは こんこんとして きたる)
 万里悲秋常作客(ばんり ひしゅう つねに かくとなり)
 百年多病独登台(ひゃくねん たびょう ひとり だいに のぼる)
 艱難苦恨繁霜鬢(かんなん はなはだ うらむ はんそうの びん)
 潦倒新停濁酒杯(ろうとう あらたに とどむ だくしゅの はい)

◎この詩は全聯(律詩は二句を一聯という)が対句になっている。七言律詩の最高傑作といわれるほどのみごとな作品。

風が吹いて空は高く澄み、猿の鳴き声が哀しい。渚は清らかに砂は白く光り、鳥が飛び回る。見渡す限り、葉がそよそよと散り、つきることのない長江はたぎるように流れている。都から遠く離れた彼方で悲しい秋の季節にあい、いつも旅人である私。人生は百年、それも病気がちの身で独り高台に登る。辛いことや悲しいことが多く、霜のような髪になってしまったのがうらめしい。せめて酒でも飲みたいが、濁り酒の杯もやめなければならなくなった。