認知症 成年後見 アドバンス・ディレクティブ(事前指示書)

毎日新聞の記事より引用 アドバンス・ディレクティブ(事前指示書)の言葉が説明されているので採録
なんとも憂うつな話

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認知症300万人時代にむけて

◇「自立力」を高める--後見人制度の活用

 私たち日本人は、死について語ることは縁起でもないと遠ざけ、老後について考えることを先送りしてきた。しかし、高齢者の生活環境が激変している。現実には、高齢化、少子化、非婚化、親族関係の希薄化などが一気に進行、「老いじたく」さえ怠っていなければ避けることができたはずの悲劇がおこっている。老いへの備えが不可欠な時代となろうとしている。【岩石隆光】

中間法人「市民のための成年後見センター(銀のつえ)」代表 中山二基子さん 「高齢の夫婦2人世帯は、非常時にもろい」と、社会福祉士の池田恵利子さんは述べる。認知症の80歳の夫を70歳の妻がみる老々介護世帯があった。妻ががんで死亡、子供もなく残された夫は後見人も決まっていなかったため、医療・介護の利用などについての決定がだれもできず困った。このような例はいとまがないという。

  「元気なうちに後見人を決めておく任意後見の契約をしていない一人暮らしの人が認知症にかかってしまうと、まず生活が困難になり、悪質な訪問販売などの消費者被害にあうことが本当に多い」と弁護士で、中間法人「市民のための成年後見センター」(銀のつえ)代表である中山二基子さんはいう。それを防ぐための老いじたくとは、①「年をとって体が不自由になり、寝たきりになったらどうしようか」、②「認知症になったらどうしようか」、③「子供との関係をどうしようか」-に備えることだと語る。

 親の財産をめぐり、子どもたちが争う例は少なくない。「老後は子どもに任せておけば安心」とは、必ずしもいえない時代だ。年をとったらどのように暮らすか。財産の管理ができなくなったら誰に頼むか。しっかり準備をし、子どもにきちんと伝えておくことが重要だ。 NPO法人いきいきフォーラム2010(理事長=川橋幸子)が、昨年末にまとめた「老い支度システム研究会報告―自分の老後は自分で備える」では、自分を知る、地域を知る、制度を知ることからはじめ、公的支援制度として用意されている介護保険、成年後見制度、日常生活支援事業の3つを使いこなせれば、心配がない老後を迎えることができるとしている。

 オーストラリアでは、50歳を過ぎたら、①遺言、②代理人、③後見人、④アドバンス・ディレクティブ(事前指示書)を用意することが推奨されている。

任意後見について相談を受ける中山弁護士 遺言は相続争いなどを防ぐために死後の財産配分を明示しておくものだ。代理人は、意思表示・判断能力を喪失してしまった時に、本人に代わって財産管理を支援してもらうためのもの。それに対して後見人は、生活の支援をするもので、どこに住みたいか、どのような援助(ケアプラン)を受けたいか、医療行為の決定などでの支援者である。

 事前指示書とは、リビング・ウィル(尊厳死の宣言書)とほぼ同じ意味に用いられることが多いが、終末期だけに限定せず、より長い期間の広い範囲の医療に対する希望を指している。また判断能力を失った場合には、自分の望む治療を受けるために、誰に後見人になってもらうかの指定が含まれることもある。オーストラリアでは、病院、ナーシングホームへの入院(入所)時、後見人と事前指示書を指定・用意することが、法律によって定められている。

 もちろん日本とオーストラリアでは、医療・福祉制度に大きな違いがあるが、私たちが老いじたくを考える時には、大いに参考になる方法だ。
 
 私たちは、東京大学の医療政策人材養成講座から高齢者医療に対する提言書をまとめるため、昨年の6~7月に終末期医療に関するアンケート調査を行い、健康セミナーの出席者たちを中心に489人から回答を得た。性別は男性47%、女性53%、年代別に見ると、30歳未満15%、30歳代 17%、40歳代15%、50歳代 40%、60歳代10%、70歳代以上3%であった。

 家族が認知症になったことがある人は26%、知人、友人が認知症なったことがある人は27%で、認知症の家族を介護した経験のある人は17%だった。

 リビング・ウィルを知っていたのは38%、アドバンス・ディレクティブは7%だった。どちらについても既に用意しているとの回答は1%でしかなかった。しかし事前指示書について解説を加え、将来について尋ねたところ、用意する32%、用意するかもしれない60%となった。

 事前指示書の必要性は理解できても、実行までにいたっていないのが平均的な日本人像かもしれない。介護保険利用者は300万人を越えているが、成年後見制度(法定後見)昨年3月までの累計でも約12万でしかないという事実もある。

 年をとって心身の能力が低下しても、預金や年金は、自分のために使い、最後まで自分が望むような暮らしをしたい。しかし年をとり自分で財産管理ができなくなったとき、支援してもらう後見人制度がなくては、自立した生活はおぼつかない。また自分の死後にまで思いをめぐらし、遺言を書くようになれば、老いの独立度はますます高いものになる。 最近では、支援の継続性を高めるため、銀のつえのように弁護士と社会福祉士が集まった法人が後見人となることもある。同様に遺言の作成を銀行が支援し、確実に内容が実行されるよう遺言執行者に就任するなどさまざまな形での老いじたく支援策が用意されていることを最後に付け加えておく。