冷蔵庫、コンビニ、水洗トイレがもたらした病気

我々の祖先であるホモ・サピエンスが15万年ほど前にアフリカで誕生し、全世界へと展開して行きましたが、その過程で様々な環境へ適応して行きました。 
特に飢餓との戦いは想像を絶するものがあったと思われます。 
飢餓環境への適応として、1962年にミシガン大学のジェ-ムズ・ニールは「倹約遺伝型(Thrifty genotype)仮説」を提唱しました。 
これは食物供給が不安定な環境に置かれると倹約遺伝子型のヒトはエネルギーを倹約して生存する確率が高くなるが、非倹約遺伝子型のヒトは飢餓で死亡する確率が高くなるとい う仮説です。 
これが食物供給過剰な現代では逆に倹約遺伝子型の人は肥満になりやすく、その結果糖尿病などになりやすいというものです。
近年遺伝子解析が容易になったことから倹約遺伝子型仮説に関する研究は次々と進み、多くの遺伝子がその候補として報告されました。 
特に脱共役蛋白質(UCP)やβ3アドレナリンレセプター(β3AR)遺伝子における一塩基多型性(SNP)の研究が有名です。 
また倹約遺伝子には、脂肪細胞の肥大を起こすPPARγ遺伝子もあります。 
これらの遺伝子の一定の部分にSNPを持った人は基礎代謝量が低下し、エネルギーを蓄積することから肥満になりやすい体質になります。 
しかし、これらの遺伝子変異は我々の祖先が永年にわたって蓄積してきた飢餓に対応する大事な遺伝子であると言われているそうです。
縄文時代は今から約1万2千年前から2500年前まで,約1万年間も続いた長い時代です.当時の平均寿命は15歳くらいだったと言われています。 
縄文人の生活は非常に厳しく、常に飢えや感染症の危機にさらされ、生きることだけで大変な時代だったと言われています。 
しかし、これは縄文時代だけに限ったことではなく、人間の歴史を見れば、ほとんど飢餓との戦いの歴史でした。約15万年前に現生人が誕生し、農業をはじめたのが約1万年 前、日本では約2千年前です。農業といっても、とても原始的なもので、もろに気候の影響を受け、飢饉が頻繁に起こりました。 
現在のように、昼夜問わず、いつでもコンビニは開いているし、食べたいものはいつでも自宅の冷蔵庫はいっているような飢餓を知らない時代など、ほんのここ30年から40年 の間なのです。 
人類の歴史からすれば、時間にして計算するとほんの数秒間にすぎません。 
ところが人間の遺伝子というのは1万年前の、飢餓時代と同じ、すなわち縄文時代の遺伝子とほとんど変わらないのだそうです。 
人間の遺伝子が新しい環境に適応するように変化するには、10万年くらいはかかると考えられているのです。 
この飢餓から飽食の時代への急激な変化に、遺伝子が対応しきれずに、現代人はいろいろな病気にかかっていると言われています。