過食・嘔吐について

過食・嘔吐については

診断カテゴリーとしてもいろいろと議論があると思う
従来は、これを症状の一つであると考えて、
その背景にある病理を治療するのがわたしの考え方だった
衝動コントロールが悪いとの側面からとらえれば
Ⅱ軸の性格障害のいくつかに分類できるし
Ⅰ軸でいえばなんといっても双極性障害はどうかが問題になり
とうぜん統合失調症が問題になる
不安性障害の系統から考えたほうがいい場合もあり
てんかんの系列で考えたほうがいい場合、
また生理周期と関係したりなど生物学的な側面を重く考えたほうがいい場合もある
なかには発達障害の観点から診断すべき例もある
このように考えた方が薬剤選択もしやすいし
精神療法もしやすいのだけれど
それにしても
あまりにも多くの人が
同じタイプの拒食・過食を訴えるので
これはもうそのもので一つのカテゴリーとしてたてていいのではないかと
思うようになった
どうしてこんなにも同じことを言うのか不思議なところもあって
生育歴とか環境とかDNAにより
もっと多彩な症状があってもいいように思うのだけれど
まさにどんぴしゃりみんな同じというのは
不思議だ
これが同じ原因が同じ場所に発生しているのか
あるいは同じ情報源があってそれに同期しておなじ症状を語っているのか
分からないところもある
考えてみれば
過食・嘔吐という症状が実に現代的で
飽食の時代にあって
経済的には恵まれ
手作り食はせずに買い食いが主体、
甘いものが好き、甘いもので満足感を感じる、
しかし痩せ願望は強く、そこに強い上昇志向が内在している
道徳性は厳しい場合が多く
仕事には熱心
会社での適応はよすぎるほど
しかし帰りのコンビニで過食のスイッチが入り
過食まで一直線
夜間の意識レベルの低下または
血糖値の低下がトリガーになっている可能性もある
過食が一段落すると
こんどは嘔吐の発作
これは発作と言うべきようなもので止められない
家族も無力
普段の昼の人格がAなら
夜の過食の人格はBで
過食後の嘔吐の人格はCで
昼にはまたAに戻ってというサイクルを反復している
もっとも統合性の高い人格はAで
一番低いのがBだと思う
多重人格の場合の精神療法で荻野恒一先生の提示した典型例があるけれど
そのようにうまくはいかないとしても
人格の統合が問題なのだろうと思う
ここまで書いた中では
Ⅰ軸で考えると症状としては双極性障害の特徴が強いのだが
発症年齢などから見ると統合失調症のタイプに近い
Ⅱ軸の障害は何となく二次的なもののようにも思える
元来適応は高いような気がする
あんなにうまく適応しておいて今度はその適応が苦しいという
食べてしまうのは仕方のないことで
たいていの普通の人は肥満になる
それでおしまい
CPまたはACが強いタイプだと
痩せ願望が強くなり
吐いてしまうようになる
何度か繰り返しているうちに
血糖値をも巻き込んだ身体反応が起きているような気がする
そのようにして多重人格に類似したメカニズムが固定する
このように見てくると
根底にあるものが双極性障害、統合失調症、性格障害のいくつか、身体性の強い精神障害など、
いろいろなタイプ要素をもち、または、時間的に変遷していて、
診断はそのどれかを重く見ているだけのような気もする。
ーー
理論的側面では
多重人格と言わないで
超ラピッドサイクルの双極性障害と構成することもできないではない
過食はマニーにあたり、嘔吐は激しい後悔と自責を伴い、典型的にうつ的である
しかしながら双極性障害の本質としてそのような超ラピッドサイクルというものは
考えにくい面がある
マニーによる疲弊の結果としてうつが発生するとする古典的な思考から言えば、
充分なマニーがなければうつも発生しようがないのだから
ーー
上のような典型例を
どれか一つのⅠ軸で解釈しきれないなら、新しいカテゴリーで
考えるのが妥当だろうと思われる
ーー
デフレ飽食+痩せ尊重、こうした時代の病理とも見える
アメリカ人でとっても太ってしまって平気で生きていて、
そらにテレビを見ながらポテトチップスを食べ続け、
さらにステーキを食べ続けている人たち
本質的には同じ食生活を続けて、
なおかつ、痩せなければならないという命令に従うのである
食べることも強力な力で
吐くことを導く力もまた食べることに拮抗する程度の強力な力である
食べたものを吐いてしまうのだから、次はもっと食べたくなり、
するともっと吐きたくなる
このサイクルは拡大サイクルになることが必然的であるようで、
だからシステムとして不安定になる
どこかで均衡があるなら
そこで症状は落ち着くのだ
ところが均衡点に納まらず
拡大して放散する
ますます不安定になる一方のループである