振り回されない鍵は、“心の余裕”にあり

無意識に上司を挑発するワガママちゃんに 振り回されない鍵は、“心の余裕”にあり
 職場のワガママちゃんには、論理的に説教、説得をしても無駄であり、むしろ、そのことが彼らの持っている攻撃性を煽ってしまい、結果としてトラブルを招くことになる、というメカニズムを、前回、お話ししてきました。
  上司である皆さんは、彼らのワガママな行動や多罰性の根っこにある「赤ちゃん返り」のメカニズムを理解したうえで、成長を支援する姿勢を崩さずに対応することが大切です。ただ、そうは言っても、ワガママちゃんに対して、感情を抑えきれないこともあるでしょう。今回は、皆さんの心の中に沸々とわき上がる「陰性感情(怒りや憎しみなどのネガティブな感情)をどのようにコントロールしたらよいか」 についてお話します。
渋滞中に横入りされると「戦闘モード」になりますか?
 まず、皆さんご自身で振り返ってみてください。通常、「嫌なこと」に直面したときに、どのように反応しているでしょうか。
 人は、嫌なことに出会うとそれを認識し、五感が反応します。しかし同じ嫌なことでも感じ方は人それぞれです。つまり「嫌なこと」や「ストレス」は、主観的なものだということです。ですから、まずこの認識(認知)のステップで、「嫌なこと」の度合いをことさら大きくしないようにすることが効果的です。
●「まあ、こんなこともあるさ」と認識できるか?
● 「これは一大事だ」と認識するか?
 もちろん緊急性にもよりますが、実は日頃から私たちが直面している問題は、一拍おいて、一息おいて、対処しても大丈夫なことが多いものです。
 しかし精神的な余裕がないときほど、私たちは自分にとってネガティブに感じる状況に対して過剰に反応します。
 たとえば、道路渋滞中に他の車に横入りされる場合です。もし家族でのんびり、日曜日のドライブで、和気あいあいと楽しく、時間の制約もなく運転していれば、横入りの車がいても、「イラッ」ときませんね、寛容になれます。しかし、営業のアポイントに遅れそうで、ギリギリの時間で急いでいるときに横入りされれば、クラクションを鳴らす、睨むなど、不快な感情を行動に表すはずです。
 つまり私たちは、情緒的余裕があれば、陰性の事態に対しても、寛大な認知(もののとらえかた)ができますが、情緒的に切迫していれば、視野は狭くなり、寛容さはなくなります。ですから未熟なワガママちゃんの「イラッとする行動」に対して重要なのは、実は、私たち自身の情緒的な余裕なのです。
 上司である皆さんは、自分の仕事だけをこなしていればよいわけではありませんから、日頃からお忙しいことでしょう。しかし忙しい中にも、いつも心に余裕を持てるということ、それは個人の重要なストレス対処能力でもあるのです。
桃太郎と浦島太郎。あなたは、どちらのタイプが好きですか?
 私はJAXA併任研究員として宇宙飛行士の選抜にかかわっていますが、飛行士選抜面接の最後の精神科面接で投げられる、最終の質問をご紹介しましょう。
 「桃太郎と浦島太郎の物語を知っていますね、どちらのほうが直感的に好きですか?」なのです。皆、一瞬あっけに取られます。この質問は河合隼雄先生や牛島定信先生が考え出された、見事に人間の本質を探り出す質問です。
 皆さんは直感的にどうでしょう?
■桃太郎派:論理的でソリューション指向
 桃太郎派のあなたは、例えば、ダイヤモンド社で発行している本のなかでも、コンサルティングファームで実践されているノウハウを扱ったような内容のものがお好きではないでしょうか。桃太郎は鬼ヶ島に攻め入るために戦力分析を行い、雉・犬・猿に対して吉備団子というインセンティブで契約を結び、戦略的に攻め込むことで見事勝利し、金銀財宝を手に入れる、戦略的な成功談なのですから。
■浦島太郎派:儚い人間の性(さが)に親和性があり情緒的
 浦島太郎派のあなたは、情緒的世界に親和性があります。亀を助けなければいけないという義憤に駆られ、危険を顧みず悪ガキに割ってはいる。お礼に、乙姫様のいる竜宮城で酒と鯛やヒラメの舞い踊りの日々、まさに人間の欲望ですね。あげくに、お土産の玉手箱は、決して開けてはいけないと厳命されます。しかしそう言われると、どうしても開けたくなるのが人情というもの。開けたら煙が出てきてお爺さんになってしまった。儚いですね、人間の、論理では計りきれない情緒性に溢れています。
 宇宙飛行士は、浦島太郎派を採用します。最終選抜まで残る候補生は皆、極めて優秀です。論理的解決能力は日本でもトップクラスであることに間違いはありません。そこで求められる資質は、物事を柔軟に認識して、マニュアルにない不測の事態に遭遇しても焦らず柔軟に対処できる能力、つまりは情緒的な余裕なのです。
 「浦島太郎的な情緒的世界にどれだけ親和性があるか」がその人の情緒的な心の余裕に通じています。車に横入りされたからと言ってすぐにクラクションを鳴らすような人は、いくら頭脳明晰でも採用できません。
浦島太郎的な情緒を持つことで不測のトラブルに対処できる
 非常事態・嫌な出来事・失敗があっても、まず一拍おいて情緒的な余裕をもって、自己の認識にクッションを入れること、そして冷静さを取り戻したうえで、正しく論理的な分析に基づくソリューション指向のステップに着手できること、この2段階の対応が自然にできることが大切なのです。皆さんは、情緒的なクッション無しに問題を腕力(論理)で片付けようとしていませんか?
 追い込まれても「火事場の馬鹿力」が出せるのは、情緒的な余裕に基づいた認知の柔軟性が基本なのです。ですから、優れたビジネスマンには「論理性」と「情緒性」のバランスがとれていることが多いのです。「言っていることは間違っていないけれど……」「確かに仕事はできるんだが……」と揶揄されるようなタイプには情緒性が欠如していますから、確かに仕事はできても、限界が見えていて決して大人物にはなれません。