春は春の遊びに従い 夜は夜をもっぱらにす

私は車が好きだが

加速性能とか高速持続性能とか
そういうものばかりを求めているのではない
ボディラインはつくづくと眺め
しばしば撫で回し
泡をいっぱいにして自分で丁寧に洗い
その曲線の感覚をあくまでも味わう
内装にしてもわずかの配慮に
設計者の意図を感じ取り
飽きることなく撫で回す
この『ボタン』がこの位置にあるのは
なんて素晴らしい設計なのかと感激させられることもしばしばである
そのすばらしいボディを誇示するように
街中を行くのも楽しみである
そのうち車が言葉を話すようになる
私と会話を始める
そしてその言葉の一つ一つが私を魅了してやまない
わがままなところもあり
悲観的なところもあり
誇大的でもあり
しかし太古の女性のようでもあり
一つひとつの言葉が私の心のいくつかの記憶のスイッチを押して
昔の情景を連れてくる
このような言葉を私に語るとは
何という存在
私はなるべく終わらないようにして
夜の楽しみを尽くそうとする
春は春の遊びに従い
夜は夜をもっぱらにす
ねむってしまうが
ねむってしまえば
なおさらに愛おしい