花粉症には小青竜湯が第1選択

花粉症には小青竜湯が第1選択
 花粉症の季節、まだしばらく続きますね。私は今、かゆい目をこすり、ティッシュペーパーを近くに置いて、原稿を書いています。今年は昨年より花粉が多いようです。黄砂も舞っていますので、よけいに症状が悪化します。今回は、花粉症についてお話ししたいと思います。
 花粉症によく用いる漢方薬は、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)です。総合医として漢方を用いる場合はあまり証を気にせず、花粉症と診断したら小青竜湯(ツムラTJ-19)を処方する、いわゆる「病名漢方」でも、多くの場合、問題ないと思われます。
 しかし、小青竜湯にはエフェドリンを含有する麻黄(まおう)が含まれていますので、高齢者や胃腸の弱い方、体力のない方(虚証)では、動悸、胃腸障害などの副作用が生じ、使いにくい場合があります。このような方には、麻黄の入ってない苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう、ツムラTJ-119)がお勧めです。
  ここで方剤の番号をみてください。小青竜湯の19番に対して、苓甘姜味辛夏仁湯は119番です。この例からも分かるように、漢方方剤の番号は、ある程度、意味を持って付けられています。体の丈夫な人(実証)に用いる方剤(表処方)の小青竜湯が19番、体の虚弱な人(虚証)に用いる方剤(裏処方)の苓甘姜味辛夏仁湯が119番、覚えやすいですよね。
花粉症と一口にいっても症状には個人差があります。西洋医学では、目の充血やかゆみ、涙目などはアレルギー性結膜炎、鼻水、鼻詰まりなどはアレルギー性鼻炎、喉の違和感、クシャミなどはアレルギー性咽頭炎などといった病名が付きます。
 しかし漢方では、そのような解剖学的、病理学的な病気の分類をせず、漢方のものさし(気・血・水、寒・熱など)で病気を分類します。花粉症は水代謝異常(涙目や鼻水など、水毒の症状が出現している)と、春の寒暖差すなわち寒冷刺激で体が冷える(寒証)によって誘発されることが多いので、「水毒と寒証」といった病態認識になります。実際、アレルギー体質の人はむくみやすいようです。
 小青竜湯は元来、体が冷えて鼻水が出ている人に用いる風邪薬ですので、花粉症のように体が寒くなり、鼻水が出る人にも応用可能です。
 通常、私は患者さんに例年通りの抗アレルギー薬を処方しますが、「眠気が来ない花粉症の漢方薬があるけど試してみない? すっぱいけど(小青竜湯は酸っぱい)」と患者さんに持ちかけています。7割程度の患者さんは承諾し、その中の7割は翌年も漢方薬を希望します。前シーズンの様子を聞いてみると、漢方薬だと眠くならないと好評でしたが、花粉の飛散が多い年は、漢方単独ではしんどかったということでした。
 花粉症に用いる漢方方剤を教科書などで調べてみると、体力のある順番に、大青竜湯(だいせいりゅうとう、エキス剤はなし)、越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう、ツムラTJ-28)、小青竜湯、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう、ツムラTJ-127)、桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう、ツムラTJ-18)、苓甘姜味辛夏仁湯と記載されています。6方剤に共通するのは、冷えと水毒に対応している点です。また、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん、ツムラTJ-23)も花粉症に有効という文献があり、これも冷えと水毒に対応しています。
多くの患者さんと同様、何の前触れもなく7年前に突然発症、鼻水、鼻詰まり、目のかゆみ、涙目に悩まされました。しばらくはシーズン中に抗アレルギー薬を服用していましたが、漢方に取り組むようになってからは、主に小青竜湯を服用し、時に抗アレルギー点眼薬を用いています。
 昨年調子が良かったので、今年は小青竜湯の準備を忘れていました。このまま無症状で行きたかったのですが、2月中旬から突然、目のかゆみが出現しました。手元に小青竜湯がなかったので、風邪薬として持っていた麻黄附子細辛湯を服用したところ、体が温かくなり、症状は改善しました。
 別の機会に当帰芍薬散を服用したところ、長続きはしませんでしたが、やはり症状が良くなりました。麻黄附子細辛湯は、丁度、夕方に気温が下がり、体が冷えたために花粉症の症状が出現したためか、体が温まりとても気持ちよく感じました。同僚に小青竜湯を処方してもらうまでは、手持ちの麻黄附子細辛湯で過ごし、効果を実感できました。
 前述の教科書の記載を読み返してみると、麻黄附子細辛湯は小青竜湯体力よりも体力の低下した方に有効であると説明がありました。そのため、学会準備などで忙しく、体力が低下して冷えに傾いていた私にとって、麻黄附子細辛湯がちょうど身体に合っていたのかもしれません。また、麻黄附子細辛湯と小青竜湯を併用すると効果があると言われており、このことも今回試して見ましたが、そのとおりでした。
 今後、花粉症に対しては、小青竜湯だけではなく、「寒証、水毒」という“漢方のものさし”を指針に、もう少し使用する方剤の幅を広げるように研究したいと思います。