親朋無一字老病有孤舟

登岳陽楼(がくようろうにのぼる)

 杜甫(盛唐)

 昔聞洞庭水(むかしきく どうていのみず)
 今上岳陽楼(いまのぼる がくようろう)
 呉楚東南拆(ごそ とうなんにさけ)
 乾坤日夜浮(けんこん にちやうかぶ)
 親朋無一字(しんぽう いちじなく)
 老病有孤舟(ろうびょう こしゅうあり)
 戎馬関山北(じゅうば かんざんのきた)
 憑軒涕泗流(けんによれば ていしながる)

☆乾坤-天と地。戎馬-戦争。涕泗-なみだ。

昔から洞庭湖のことは聞いている。今、岳陽楼に登っている。東南の呉と楚の地はこの湖によってひきさかれている。天地が昼夜の別なく、浮動している。私には、一字の手紙すら無く、老いて病む身には一そうの舟があるだけ。戦争が関所や山の北方では続いている。手すりによりかかっていると涙が流れるばかり。