骨の話を例にして精神医学の未来

ついでがあったので、骨の話を読んでみた。
医学生物学はこんな方向に行って、
遺伝子解析から生体の分子生物学になるべきで、
精神医学も、このモデルに進化するしかないだろうといわれている。
心理学は医学へ、医学は生物学へ、生物学は生化学へ、
さらに生化学は物理学へという一貫した流れである。
還元主義である。

しかし、逆に、物理学→生化学→生物学→医学→心理学と
必然的にたどれるわけではない。
そこには偶然があり、歴史があり、時間がある。
必然として構成できるものではない。

薬を飲んで眠れたり、気分が軽くなるのは、
半分は還元主義で説明できるが、
半分は心理学だけでしか説明できない。

だからわたしはカウンセラーをしている。

しかし心理学の方向は、還元主義的であり、生物学への還元がいまさかんである。
フロイトを生物学・脳科学で翻訳するというのが、
ここしばらくの米国の主流で、まだしばらく続くだろう。
何かというと、海馬とかセロトニンとか聞くと思う。
しかし50年もすれば、次に紹介する骨の話のような話になってゆくだろう。
どのような話かといえば、つまり還元主義的な話なのだけれど、
その感覚は、読んでみたらいい。
「骨」のところに「神経」が代入され、
進化論とDNA、そしてたんぱく質、神経細胞の話になるはずだ。
全部読まなくてもいいけれど、ざっとそんな話だ。

つまらないでしょう?
どうしてわたしが職場でいじめられなくてはならないのかとか、
どうしてわたしが失恋して泣かなければならないのかとか、
いつまでわたしは眠れないのかとか、
どうして食べてしまうのかとか、
どうしてアルコールがやめられないのかとか、
どうして妻にだけは興奮しないのかとか、
そんな話のほうがいい。

やはりわたしはカウンセラーでいるほうが好きだ。

カウンセラーに話を聞いてもらうとほっとするでしょう?

50年後に精神医学がどうなっているか、
そのとき存在しない私にとってはどうでもいい話だが、
多分、心理療法は、科学と位置づけられず、
小説家が文章を書く技術のようなものとして、
心理の技法として、考えられているのではないかと思う。
予想である。

古武道のようなものかな。

*****
1.人体の十大元素と海水の十大元素
生命が海から誕生したという考えは今日ではほとんど定説のようである。この結論

を支持する最も強い根拠は、生物を構成する十大元素のリストと海水のそれが大変

よく似ていることである。人体を構成する十大元素は、順位こそ違うが、その顔ぶ

れは1つの例外を除くと海水のそれとまったく同じである。1つの例外とは、人体

の十大元素にないマグネシウムが海水中にはあり、人体には代わりにリンが入って

いることである。ちなみに、マグネシウムは人体にとって第11位の元素である。一

方、地球表層の構成元素をみると、実に十大元素のうち5つまでが人体の十大元素

のリストに入っていない。このことは、生命の誕生がいかに海と深い関係にあるか

を如実に物語るものである。次のように考えるとうまく説明できる。最初の生命体

は海で生まれ、また初期の進化は海水のなかで行われた。そこで生物は海水中にた

くさん存在する元素を利用して、自らの組織を作ったと考えられるのである。
2.炭素原子の重要性
ヒトのからだを構成する十大元素のリストをもう少し詳しくみてみよう。ヒトの体

重の60%は体液(H2O)であるから、水素が十大元素の1位を、酸素が2位を占めるの

はよく理解できる。重要なのは3位を占める炭素である。炭素原子は周期律表の第

IV族に属し、電気陰性度が大きくも小さくもなく、丁度中間の値(2.5)をとる。食塩

(NaCl)のように、電気陰性度の大きい元素Na+と小さい元素Cl-はイオン結合によっ

て化合物を作るが、中間の値をとる炭素原子はイオン結合によって化合物を作らず

、共有結合によって化合物を作る。共有結合は熱力学的に最も安定な結合で、しか

も炭素の原子価は4なので、他の多くの元素と共有結合を作ることができる。また

炭素は典型的な非金属元素であることから、炭素が地球生物のからだを構成するタ

ンパク質、核酸、糖質、脂質などの中心的な元素になった理由が窺われる。偶然の

ことながら、炭素は海水中にも豊富に存在し、海水中における生命の誕生の過程で

利用しやすかったと思われる。炭素と性質の似ている硅素(Si)がもし海水中に豊富

に存在したら、炭素と同じⅣ属に属する硅素を骨格元素とした生物が誕生していた

かもしれない。
3.化学進化の時代
ロシアの生物学者オパーリン(Aleksandr I. Oparin, 1894-1980)は、1936年に発

表した「生命の起源」(Origin of Life)というタイトルの著書のなかで、 “生命

の誕生を地球上の物質の化学進化の結果”とする考えを提唱した。 この本はダーウ

ィン(Charles R. Darwin, 1809-1882)が1858年に発表した名著「種の起源」

(Origin of Species)に匹敵する歴史的な著作である。地球の年齢は約45億年、地

球に最初に生物が誕生したのは約20億年前と考えられているが、 「種の起源」が扱

っている時代は20億年前から現在までで、この期間を“生物進化の時代”と呼んで

いる。一方、オパーリンが研究の対象とした最初の生命誕生までの期間 (45億年前

から20億年前まで)を“化学進化の時代”と呼んでいる。
 オパーリンは生命を構成する高分子化合物の構造には一定のルールがあると考え

た。オパーリンはこの考えに沿って生命誕生のステップを次の4つに分けた。

1.蛋白質、核酸などの高分子化合物を組立てる低分子化合物の誕生
2.高分子化合物の誕生
3.原始細胞(コアセルベート、液滴)の誕生
4.生命の誕生

 オパーリンの仮説を実証しようとしたシカゴ大学の大学院生ミラー(S.L. Miller

)は、ユーリー教授(H.C.Urey)の指導の下で化学進化の時代を想定して、原始大

気と同じ組成の混合ガスを入れたフラスコに火花放電(雷のモデル)をして、原始

地球のモデルを実験室内に構築した。このモデルを使ってユーリーとミラーはNH3、

H2、CH4等の還元型大気から僅か1週間でアミノ酸、糖、塩基などを作ることに成功

したのである。

  このようにして地球上に誕生したアミノ酸は重合してタンパク質となり、塩基と

糖とリン酸はヌクレオチドとなり、それが重合して核酸を作ったと考えられる。 こ

れらの高分子化合物を含む溶液は濃度の高い相と低い相に分離し、高い相は濃厚な

ゾルとなって小液滴(コアセルベート、Coacervate)を形成し、 それが脂質で被わ

れることによって“細胞”が誕生したと考えられる。
 地質学の研究によると、最初に誕生した生物はガンフリント層(20億年前)に見

出される微生物の化石で、最古の動物の化石は古生代カンブリア紀(6億年前)の

地層に見出されている。 “生命”の基本的な特徴については科学者の間でも様々な

意見があるが、(1)自己複製能力があること、(2)エネルギー代謝を行うこと、(3)外

界との間に境界を持ち、 自己の独立性を獲得していることを最低要件としているよ

うである。いずれにしても、地球外における生命物体の存在の有無などのホットな

問題を含めて、 生命誕生のミステリーは研究者の夢を大きく膨らませてくれる研究

テーマである。

1.脊椎動物に見る骨格系の進化
  この地球上で最も進化した生物はいうまでもなく脊椎動物である。そして、脊椎

動物の最大の特徴は骨組織を持つことである。骨組織はこの地球上でなぜ進化して

きたのであろうか。英国の有名なSF小説家ウェルズWells,HGは、彼の著書「火星人

の襲来」のなかで火星人の姿を欄外に示す挿絵のように画いている。高校生のとき

に読んだこの火星人の姿を私は妙に忘れられず、 永い間、頭のなかに残っていた。

火星人は地球人よりも頭脳が秀れているので頭を大きく画いたとウェルズは説明し

ているが、私は軟体動物のように画かれた火星人の姿をみたとき、無重力の宇宙環

境では骨格系が要らないのでないかと考えたのである。筋系とともに、脊椎動物の

骨格系は1Gという重力の環境下で動物が活溌に活動するために進化した器官であろ

うと考えられている。「動物の棲息環境と骨組織の進化」については次回に譲ると

して、骨に対する私の興味は若い頃にみたこの火星人の挿絵が原点となっていたよ

うな気がする。
  有名な生物学者であったグッドリッチ Goodrich, Aは脊椎動物の骨格系の系統進

化を調べて、骨は軟骨から進化したものであると考えた。この考えは、現存する脊

椎動物の骨格系の進化(表2-1)をみるかぎり妥当な結論であった。現存する最も原始

的な脊椎動物は、約4億年前、古生代オルドビス紀に誕生したメクラウナギ(円口類

)である。円口類は石灰化しない軟骨を持っている。サメやエイなどの軟骨魚類はそ

れより遅れて3億6000万年前(古生代デボン紀)、マグロなどの硬骨魚類は3億年前(

古生代デボン紀)になって初めてこの地球上に現れている。その後、古生物学者達の

化石の研究から、4~5億年前(古生代オルドビス紀)に棲息していたと考えられる

最も原始的な脊椎動物(甲皮類)の存在が報告された。甲皮類は外骨格として鎧のよ

うな骨性の甲羅を持っていたが、この甲羅を脱ぎ、皮膚からも鱗を失って裸

となったのが現存の円口類である。

2.アスピディン発見と骨の起源
甲皮類の甲羅はグロス Gross, WによってアスピディンAspidinと名づけられた。ア

スピディンの甲羅の構造を調べると、最表層に認められる多数の結節状の構成物と

、その下に海綿状のアスピディン(中層)と層板状のアスピディン(基底層)の合計三

層を区別することができる。層板状のアスピディンはヒトの緻密骨のハーバ

ース氏管に似た構造を持ち、その組織内には骨芽細胞、骨細胞、破骨細胞

に対応した、アスピディン芽細胞aspidinoblast、アスピディン細胞aspidinocyte、

破アスピディン細胞aspidnoclast と名づけられた細胞の存在が観察される

。それらの細胞は骨の場合と同様に、アスピディンの形成・改造・吸収に関与する

と想像されている。

 アスピディンの発見によって、最近では「骨は軟骨よりも系統発生的に古い時代に

誕生した」とする考えが有力になっている。この考えに従えば、高等動物の骨化方

式に膜性骨化と軟骨性骨化の二通りの方式がある意味も理解できる。すなわち軟骨

の助けを借りない膜性骨化はもっとも古くから存在した骨化方式で、骨が外骨格と

して体表面に作られる限り、この骨化方式で十分であったのであろう。ところが、

動物は水中から陸上生活に移行するようになって、1Gの重力下で素早く動くことが

要求されるようになった。その結果、筋肉の発達と相俟って、外骨格に代わって脊

椎や四肢の骨のように、身体の内部に骨組織を形成する必要に迫られたのである。

そのために、本来軟骨で作られていた内骨格が骨で置き換えられるようになったと

考えられる。

3.アスピディンの進行と歯(象牙質)の起源
  歯の発生がまだ認められない甲皮類の甲羅(アスピディン)の最表層の結節状の構

造物の組織を調べてみると、結節の下に存在するアスピディンの中心腔より放射状

に走る多数の細管が観察される。結節中にはまったく細胞が認められない

が、これはアスピディン芽細胞が突起を伸ばしながら後退し、結節形成を行ったた

めと考えられる。細管によって貫かれた結節の構造は、歯の象牙質の構造と似てい

る 。つまり、現存の脊椎動物の歯の象牙質に似た構造物が、顎も歯もな

い最古の脊椎動物にすでに認められるのである。
  アスピディンの構造をオルドビス紀からデボン紀までの1億5000万年にかけて地

質年代順に調べてゆくと、初期のアスピディンほど象牙質型のものが多く、後期の

ものほど骨型のものが多いという。つまりアスピディンの形成過程は象牙質型から

骨型へと漸次進化して行ったと思われる。象牙質型のアスピディンの存在は骨と象

牙質の役割の違いについて、色々なことを考えさせてくれて興味深い。

1.動物の棲息環境と血中リン酸濃度の関係
  第1回目では最初の生命は海水中で誕生したこと、第2回目では最も高度に進化

した生物である脊椎動物の最大の特徴は体内に硬い骨組織を持つことであることを

述べてきた。この骨組織こそ、脊椎動物が海を詰め込んだ生命維持装置なのである

。生命維持に必要なミネラルを骨組織に蓄えるというシステムが備わってはじめて

、生物は海から河口、河川を経て陸地に移り棲むことが可能になったのである。そ

こで、今回は私たち脊椎動物の祖先が辿った海から自立するための進化の歴史を考

えてみたい。
  ヒトをはじめとする脊椎動物の血液中には1~2mMのリン酸が存在するが、海水

中にはリン酸濃度が0.001mMとヒトの血中濃度の1,000分の1しか含まれていない。生物がどのような機構で血液中のリン酸濃度を高めていったのかは明らか

でないが、高等動物のあらゆる生命現象に果すリン酸イオンの重要性を考えると、

進化に伴う血中のリン酸濃度の上昇は脊椎動物の生命維持のために極めて重要であ

ったに違いない。一方、海水中に含まれるカルシウム濃度は10mMで、ヒトの血清カ

ルシウム濃度(2.5mM)の4倍である。このように動物は進化に伴って血

液中のカルシウム濃度を低下させ、逆にリン酸濃度を高めてきたが、このことが脊

椎 動物の骨の役割を考える上で重要なヒントになっている。
  ところで、溶液中に存在する陽イオンと陰イオンの総量を示すイオン強度(ionic

strength)という値は、海水では0.68で、ヒトの体液のイオン強度(0.16)の約4

倍である。つまり、生物はその棲息環境を海→河口→河川→陸地と移す間にイオン

強度とカルシウム濃度を4分の1に低下させ、逆にリン酸濃度を1,000~2,000倍に

上昇させたのである。
  このイオン組成の変化を反映して、海に棲む無脊椎動物の硬組織、たとえば貝類

(軟体動物)の貝殻、甲殻類(節足動物)の甲羅がすべて炭酸カルシウム(CaCO3)

でできているのに対して、脊椎動物の硬組織(骨、軟骨、エナメル質、象牙質など

)は、鳥類の卵殻(CaCO3)を除くと、すべてリン酸カルシウムでできている。炭酸

カルシウムからリン酸カルシウムへのこの変化は、なぜ脊椎動物の骨にとって有利

だったのであろうか。

2.アパタイト結晶としてつくられた骨の進化
  無機リン酸は溶液のpHによって3段階に解離する。酸性領域では第一リン酸イオ

ン(H2PO4-)、中性領域では第二リン酸イオン(HPO42-)、アルカリ領域では第

三リン酸イオン(PO43-)として主に存在するが、そこにカルシウムイオン(Ca2+

)が存在すると第一リン酸カルシウム[Ca(H2PO4)2]、第二リン酸カルシウム

(CaHPO4)、第三リン酸カルシウム[Ca3(PO4)2]がそれぞれ沈殿する。中性領域で

生じる第二リン酸カルシウム(CaHPO4・2H2O)は肉眼でみることができるほどの大

きな結晶で、これは加水分解され熱力学的により安定なヒドロキシアパタイト

[Ca10(PO4)6(OH)2]に変化する。アパタイト結晶は電子顕微鏡でやっとみえる程度

の極めて小さな結晶である。そのためにアパタイト結晶の表面積は膨大な大きさと

なり、結晶をとりまく組織液との間で、活溌なイオン交換を行うことができる。第二リン酸カルシウムという大きな岩を砕いて、ヒドロキシアパタイトとい

う砂にした状態を想像すればよい。
  海は豊富なカルシウムを含むが、河川のカルシウム濃度は海水中の数十分の1と

なり、さらに動物が陸に移り棲むようになると食物としてカルシウムを摂取しない

限り、体内にはカルシウムが取り込まれなくなった。その結果、カルシウムの貯蔵

庫としての骨組織の役割が確立したのである。貝類の貝殻のように動物の硬組織が

炭酸カルシウムからできている限り、一旦沈殿したカルシウム塩を再利用すること

はできない。脊椎動物の骨組織のカルシウムがいつでも必要なときに再利用できる

ミネラルの貯蔵庫として機能するようになったのは、骨がアパタイトという形のリ

ン酸カルシウムで作られるようになったためである。

3.外骨格から内骨格へ
   進化に伴う骨組織のもう1つの大きな変化は外骨格(exoskeleton)から内骨格

(endoskeleton)への変化である。脊椎動物の骨は身体の表層に形成される外骨格

(皮骨ともいう)と、四肢の骨、椎体の骨、肋骨などのように身体の内部に形成さ

れる内骨格に分類される。前回の「骨の起源」でも触れたように、最古の脊椎動物

は古生代オルドビス紀からデボン紀にかけて棲息していた顎のない甲皮類であっ
た。初期の甲皮類は身体全体が鎧のように皮骨(外骨格)で被われ、この外

骨格は貝類の貝殻や甲殻類の甲羅と同様、外敵の攻撃から自分を守るために役立っ

ていたことは容易に想像できる。
  甲皮類の皮骨(外骨格)は哺乳類まで引き継がれて行ったが、興味深いことに、

デボン紀中期に出現した板皮類、デボン紀末期の両生類、新生代第三紀に出現した

ホモサピエンス(人類)と進化が進むにしたがって、皮骨は退化してゆき、ヒトで

は頭蓋骨と鎖骨を残すのみとなった。しかし、ときには甲皮類に祖先返り

するように皮骨を 発達させた動物も出現する。爬虫類のカメ類は角質で被われた皮

骨からなる甲羅を持ち、哺乳類でも更新世のアルマジロは巨大な甲羅を発達させて

いる。

   しかし、脊椎動物の進化の歴史を大きく俯瞰すると、外骨格として形成される皮

骨が進化とともに退化していったのに対し、現存の大部分の脊椎動物は内骨格とし

て骨格を作るようになったことであろう。内骨格は軟骨性骨とも呼ばれ、

軟骨性骨化(endochondral ossificaion)によって骨組織を形成している。この場合、骨はまず軟骨として形成され、その骨幹部に血管が侵入して軟骨を破

壊し、破壊されたスペースが骨組織によって置換されるのである。軟骨形成を介さ

ないで直接骨を作る外骨格(皮骨)の膜性骨化(membranous ossification)とは著

しく異なる骨化方式で ある。陸棲の両生類や爬虫類の肋骨と四肢の骨は骨端部のみ

が軟骨(骨端軟骨epiphyseal cartilage)として残っているが、成熟した哺乳類で

は骨端部もすべて骨になる。ヒトの骨の個体発 生はまさに骨の系統発生

を繰り返している。

1.骨を作る遺伝子の発見
   いまから5年前(1997年5月)、ライフサイエンスの領域で最も権威のある

科学雑誌“Cell”の表紙に“ある遺伝子”を人為的に欠損(ノックアウト)させた

ネズミ(マウス)の骨格標本が掲載された。白血病に関連した転写因子を調べるために、いくつかの関連遺伝子をノック

アウト(KO)したマウスをつくって研究をしていた。そのなかにruntと呼ばれるペ

ア・ルール(pair-rule)遺伝子があった。“ペア・ルール”というのはそれだけで

は機能せず、ペアになって働く遺伝子がもう1つほかにあり、2つの遺伝子がペア

になって働くという意味である。runtファミリーに属するCbfa1、Cbfa2、Cbfa3の3

つの遺伝子はそれぞれCbfbとペアになって働く。このなかでCbfa1遺伝子を欠損させ

たマウスがまったく骨を形成しない“骨なしネズミ”だったのである。Cbfa1が骨形成に極めて重要な役割を演ずる遺伝子である。
 Cellの表紙を飾った2匹の新生仔マウスの骨格標本の内、上段が正常マウス(野

生型マウス)、下段がCbfa1ノックアウトマウスである。この骨格標本では軟骨はア

ルシアン・ブルー(Alcian blue)で青色に、石灰化した骨はアリザリン・レッド(

Alizarin red)で赤色に染め出されている。遺伝子(DNA)は2本鎖から成るが、2

本とも欠損したホモ変異体(Cbfa1-/-マウス)では軟骨は形成されるが、石灰化

した骨格はまったく形成されない。このことからCbfa1は骨形成に必須

の遺伝子と考えられるようになったのである。Cbfa1は現在Runx2とも呼ばれている

(Cbfa1/Runx2)。

2.Cbfa1は骨芽細胞の成熟に働く遺伝子である
  Cbfa1は骨形成に必須の遺伝子であるが、この遺伝子は骨芽細胞の分化とどのよう

に関連するのであろうか。骨芽細胞の分化段階は、骨芽細胞の産生するタンパク質

によりある程度推定できる。骨芽細胞は前駆細胞の段階よりI型コラーゲ

ン、アルカリホスファターゼ(ALP)、オステオネクチンを産生する。前駆細胞が幼

若骨芽細胞まで分化するとオステオポンチンを産生し始め、その後成熟細胞に分化

するにつれて、骨シアロタンパク(BSP)、オステオカルシン(BGP)の産生を始め

る。Cbfa1ノックアウトマウスの骨芽細胞はI型コラーゲン、ALP、オステオネクチン

を産生するが、オステオポンチン、BSP、BGPの産生を殆んど認めなかった。このこ

とから、Cbfa1は骨芽細胞が成熟するために必要な遺伝子であるということができ
る。

3.鎖骨頭蓋異形成症はCbfa1遺伝子のヘテロ欠損症である
   この連載の3回目に、私は脊椎動物の骨の起源は外骨格(皮骨)としてはじまる

こと、外骨格は軟骨を経ないで直接骨をつくるいわゆる“膜性骨化”によって形成

されることを述べ た。ところが外骨格は脊椎動物の進化とともに退化し、ヒトでは

僅かに頭蓋骨と鎖骨を残すばかりとなった。代わりに出

現した骨化方式が“軟骨性骨化”であった。この骨化方式では、ヒトの骨の大部分

はまず軟骨原基として形成され、それが骨に置き換わるという方式をとっている。
  ヒトの遺伝性骨疾患として有名な鎖骨頭蓋異形成症Cleidocranial dystosis(CCD

)では鎖骨がまったく形成されず、頭蓋骨の大泉門も閉鎖されない。  CCDの患者は

両側の鎖骨が欠如するため、左右の肩をくっつけることができる。Cbfa1

遺伝子を2本とも欠損したノックアウトマウスは“骨なしネズミ”となったが、1

本だけ欠損したヘテロ欠損マウス(Cbfa1+/-)はCCDに類似した症状を示した。こ

れらの知見は、頭蓋骨と鎖骨だけが膜性骨化により形成される外骨格由来の骨 (皮

骨) であることを如実に物語っている。CCD患者の姿は未来の人間の姿を予言するの

であろうか。

4.骨格系細胞の分化の振り分けは転写因子により制御される
  軟骨と骨を形成する細胞は、いずれも多分化能を持った未分化間葉系細胞から分

化する。この未分化間葉系細胞は、骨や軟骨の細胞ばかりでなく、脂肪細胞、筋細

胞、線維芽細胞などの共通の前駆細胞であると考えられている。分子生物学と細胞

生物学の研究の最近の進歩によって、未分化間葉系細胞から組織特異的な骨格系の

細胞への分化は、それぞれ組織特異的な転写調節因子によって制御されていること

が明らかになりつつある。すなわち、骨芽細胞への分化は前述のCbfa1、軟骨細胞へ

の分化はSox9、筋細胞への分化はMyoDファミリー、脂肪細胞への分化はPPARγと呼

ばれる転写調節因子が特に重要な役目を果している。高齢者の骨髄は脂肪

細胞が増加して黄色髄(yellow marrow)になりがちであるが、未分化間葉系細胞の

分化の振り分けを司る転写因子の研究の進展によって、お年寄りの方々の骨芽細胞

の分化を促す方策が今後見出されることが期待される。

1.破骨細胞とはどんな細胞か
  本シリーズの第3回で記したように、骨組織はカルシウムを利用できるカルシウ

ム(available calcium) として貯えている。血清カルシウムが正常レベル(9~

10mg/dL)より低下すると直ちに骨のカルシウムが血中に動員され、血清カルシウム

の恒常性が保たれる。破骨細胞は骨のカルシウムを血中へ動員する能力がある唯一

の細胞で、生理的な骨の改造現象(骨のリモデリング)に関与するばかりでなく、

骨粗鬆症、慢性関節リウマチ、炎症性骨吸収、癌の骨転移などの際に認められる骨

の破壊にも主役を演じている。
  破骨細胞は骨組織にのみ存在し、高度に石灰化した骨組織を破壊・吸収する。破

骨細胞の起源は単球・マクロファージ系の造血細胞に由来するが、破骨細胞は骨吸

収という重要な目的を遂行するために、マクロファージには認められない形態学的

ならびに生化学的な形質を獲得するようになった。すなわち、破骨細胞は沢山の核

を持つ大型細胞で、この細胞が骨表面に接着すると波状縁(ruffled border)を形

成する。また破骨細胞は骨ミネラルを溶解するプロトン(H+)と骨基質を分解する

リソゾーム酵素(カテプシンKなど)を産生し、これらを骨表面との間に形成された

Howshipの吸収窩に分泌する。

2.破骨細胞形成の司令塔は骨芽細胞であった
  将来破骨細胞となるマクロファージ系の造血細胞が全身至るところに存在するの

に、破骨細胞はなぜ骨組織にのみ存在するのだろうか。その鍵を握っているのは骨

組織にのみ存在する骨芽細胞ではないかと考えた。今から14年前のことで

ある。2人は破骨細胞形成における骨芽細胞の関与を明らかにするために、骨芽細

胞と造血細胞(脾臓細胞あるいは骨髄細胞)から成る共存培養系を確立した。骨芽

細胞あるいは造血細胞をそれぞれ単独で培養した場合は、どんな骨吸収促進因子が

あっても破骨細胞は形成されなかったが、両細胞の共存培養系では種々の骨吸収促

進因子の存在下で多数の破骨細胞が形成された。共存培養で破骨細胞を形成させる

ためには、骨芽細胞と造血細胞の直接的な細胞接触が必要であった。

3.破骨細胞分化因子(ODF)の存在の提唱
  骨芽細胞と造血細胞の共存培養系の実験をさらに推し進めることによって、我々

は骨吸収促進因子はすべて骨芽細胞を標的細胞とし、その細胞膜上に破骨細胞の分

化を促進する因子(破骨細胞分化因子 : ODF)を発現させるという仮説を提唱した

(図5-2)。骨吸収促進因子はシグナル伝達の上で3種類に分類された。すなわち、

ビタミンDレセプター(VDR)を介してODFを誘導する活性型ビタミンD [1α,25(OH)

2D3]、Aキナーゼ系を介してODFを誘導する副甲状腺ホルモン(PTH)やプロスタグラン

ジンE2 (PGE2)、gp130を介してODFを誘導するIL-11やIL-6の3種類で、これらの骨

吸収促進因子のシグナルはすべて骨芽細胞(または骨髄ストローマ細胞)に入り、

その細胞膜上にODFを誘導させる。一方、造血細胞(破骨細胞前駆細胞)の細胞膜に

はODFを認識するODF受容体が存在し、ODFがODF受容体に結合することによって、マ

クロファージ系の造血細胞は破骨細胞への分化を始める、という仮説である。また

破骨細胞前駆細胞の増殖と分化過程には骨芽細胞(または骨髄ストローマ細胞)の

つくるマクロファージ・コロニー刺激因子(M-CSF)も必須であることが明らかにな

った。

4.破骨細胞形成抑制因子(OCIF)の発見
  1997年、雪印乳業生物科学研究所の東尾侃二博士の研究グループは、我々の開発

した骨芽細胞と造血細胞の共存培養系をバイオアッセイ系として、3種

のシグナル伝達系による破骨細胞形成をすべて完全に抑制する蛋白質(破骨細胞形

成抑制因子 : OCIF)の精製に成功した。OCIFは腫瘍壊死因子(TNF)の受容体によ

く似た構造を持ち、膜貫通領域を持たないことから、分泌性の蛋白質であることが

判明した。OCIFの標的細胞も骨芽細胞(骨髄ストローマ細胞)であったことから、

OCIFがODFに結合すると、本来のODF受容体にODFが結合できなくなる可能性が示唆さ

れた。ODFをめぐるOCIFとODFレセプターの競争的結合である。同じ頃アムジェン社

によってクローニングされたOPG(Osteoprotegerin)はOCIFと同一物質であることが

判明した。

5.破骨細胞分化因子(ODF)の同定
  1998年、東尾博士は1α,25(OH)2D3で処理した骨髄ストローマ細胞(ST2)のcDNAラ

イブラリーからOCIFと結合する蛋白分子のクローニングに成功した。その蛋白分子

こそ我々が追い求めてきた破骨細胞分化因子(ODF)そのものであった。ODFは316個

のアミノ酸から成るTNFのリガンドファミリーに属する膜結合型の新規蛋白質で、そ

の発現はすべての骨吸収促進因子によって一様に促進された。
  次にODF蛋白の細胞外領域のみから成る可溶性蛋白を遺伝子工学的に作成し、骨芽

細胞(骨髄ストローマ細胞)の存在しない脾細胞の単独培養系にM-CSFとともに添加

したところ、多数の破骨細胞が形成された。このことから、破骨細胞形成における

骨芽細胞(骨髄ストローマ細胞)の役割はM-CSFとODFを供給することにあると結論

された。ODFは樹状細胞(dendritic cell)のcDNAライブラリーからクローニングさ

れたRANKL(Receptor activator of NF-kB ligand)と同一物質であった。

6.破骨細胞形成の分子メカニズム
  ODF/RANKLの発見によって破骨細胞形成のメカニズムが分子レベルで理解できるよ

うになった。すなわち、活性型ビタミンD、PTH、PGE2、IL-11などの骨吸

収促進作用を持つホルモンやサイトカインはすべて骨芽細胞(または骨髄ストロー

マ細胞)を標的細胞とし、その細胞膜上に膜結合型の蛋白質(ODF/RANKL)を発現さ

せる。ODF/RANKLがマクロファージ系の造血細胞(破骨細胞前駆細胞)の持つODF受

容体(RANK)に結合すると、破骨細胞への分化が始まる。OCIF/OPGはRANKと構造が

よく似ているのでODF/RANKLに結合し、おとりの受容体(decoy receptor)として働

くのである。
  その後、腫瘍壊死因子(TNFα)は骨芽細胞を介さないで直接造血細胞(破骨細胞

前駆細胞)に働き破骨細胞形成を促すことから、破骨細胞形成にはODF/RANKLに依存

する経路と依存しない経路の存在することが明らかになった。近年、慢性

関節リウマチ患者の骨・軟骨破壊がTNF抗体(Remicade)や可溶性受容体(Embrel)

の投与によって著明に改善されることが明らかになり、病的骨吸収におけるTNFαの

重要性が注目されている。慢性関節リウマチや炎症性疾患における骨吸収に関与す

るODF/RANKLに依存する経路と依存しない経路がどのような比率で病的骨破壊に関与

するかは今後に残された問題である。いずれにしろODF/RANKLに依存する経路を完全

に遮断できるOCIF/OPGと、依存しない経路を遮断するTNF抗体(あるいは可溶性受容

体)を得たことで、慢性関節リウマチや炎症性骨疾患の新しい治療法に明るい展望

が期待される。

はじめに
  ビタミンDは生体のカルシウム代謝を調節する最も基本的な因子で、1920年代に

くる病を治癒させるanti-rachitic agent(抗くる病因子)として発見された。その

後Windaus博士(独)によってその構造が決定され、有機合成の道も拓かれた。

Windausはその業績によって1928年ノーベル化学賞を受賞している。Windausのお陰

で、ビタミンDは非常に安価に合成できるようになって、米国では牛乳へのビタミ

ンDの添加も義務付けられた(ビタミンD強化牛乳、Caption)。その結果、このビ

タミンの欠乏に起因する骨の病気(くる病と骨軟化症)はこの地球上から殆んど完

全に姿を消したのである。

2.活性型ビタミンDの合成誘導体1α-ヒドロキシビタミンD3の開発
  ラットの腎ネフロンの数を部分切除術によって段階的に減少させてゆく

と、それに平行して血液中の活性型ビタミンDの濃度が低下する。この実験成績は後年、慢性腎不全患者が活性型ビタミンDの投与を必要とすることの理論的根拠になった。
  1α-ヒドロキシビタミンD3[1α(OH)D3](アルファカルシドール)の有機合成に成功した。1α(OH)D3は1α位に水酸基を持つ

が、25位には水酸基を持っていない活性型ビタミンD3の合成誘導体である。1975年、1α(OH)D3が肝臓の25-水酸化酵素(CYP27)により速やかに活性型ビタミン

D[1α,25(OH)2D3]に代謝されることを明らかにした。これは肝臓のCYP27

がビタミンD3そのものであっても、あるいは1α(OH)D3であっても、同じように25

位を水酸化できる基質特異性の低い酵素であることが幸いしたためである。
これらの基礎研究により、1981年1α(OH)D3は慢性腎不全に基づく骨代謝異常

(腎性骨異栄養症)、ビタミンD抵抗性くる病、二次性副甲状腺機能亢進症、胃癌

などで胃を摘出した患者のCa吸収不全症の4疾患に対して厚生省から製造・販売が

認可され、続いて1983年には骨粗鬆症にも適用が拡大されたのである。
1α(OH)D3は活性型ビタミンD[1α,25(OH)2D3]に代謝されてから作用を発現する

ので、活性型ビタミンDそのものより血中半減期が長く、そのために安全性も高い

合成誘導体と考えられている。この薬剤は発売以来既に22年が経過するが、副作用

は殆んど報告されていない。昨年オキサロール(OCT)の静注製剤が発売されるまで

、1α(OH)D3は20年間にわたって20万人を数える血液透析患者の約半分に使われて

きたほか、現在では約800万人に達すると言われている骨粗鬆症患者のうち凡そ100

万人に毎日処方されている。このような理由で、1α(OH)D3は骨粗鬆症の基本的な

治療薬となったのである。

3.ビタミンDと骨の石灰化
  活性型ビタミンDが小腸でのCa吸収を促進することによって、間接的に骨の石灰

化(calcification)を促進させることは異論のないところである。しかし、活性型

ビタミンDが骨芽細胞に働いて、骨形成と骨の石灰化を直接亢進させるかどうかは

永い間不明であった。
   最近、ビタミンD受容体(VDR)遺

伝子のノックアウト(欠失)マウスの作製に成功した。VDR欠失マウスは授乳中は野

生型マウスと同じように元気に生存したが、離乳(生後3週)を過ぎると徐々に低Ca

血症を呈するようになり、成長も停止し、生後20週までにはほぼ全例が死亡した。
  ところが、このVDR欠失マウスを高Caを含むレスキュー食で飼育すると、VDRがな

くても(つまりビタミンDの作用発現がなくても)マウスの血清Ca値は正常域に保

たれ、動物は離乳後も元気で生存した。体重(成長)も野生型マウスと比べて遜色

なく、骨の形成と石灰化も正常に起こった。ただ、高Caを含むレスキュー食では、

VDR欠失マウスが示す全身の脱毛状態(alopecia)を改善させることはできなかっ
た。

  これらの実験成績は、授乳期にはビタミンD以外の何らかの因子が小腸でのカル

シウム吸収を助けていること、離乳後の小腸でのCa吸収にはビタミンDが主役を演

ずること、しかし高Ca食飼育により血清Ca濃度を正常域に維持してやると、ビタミ

ンDがなくとも骨の石灰化は正常に進行することを示している。つまり、血清Ca値

さえ正常域に維持してやれば、ビタミンDが働かなくとも骨の石灰化は外見上正常

に起こるのである。

4.ビタミンDと骨吸収
  反対に、薬理量以上のビタミンDは明らかに骨吸収を惹起する。1952年、スウェ

ーデンのCarlsson博士は食餌中にCaを殆んど含まないビタミンD欠乏食で飼育した

ラット(このラットの血清Ca濃度は5 mg/dLであった)に薬理量(100 IU/ラット)

のビタミンDを投与すると、血清Ca濃度が5 mg/dLから8 mg/dLに上昇することを報

告した。餌のなかには殆んどCaが含まれていなかったから、上昇した血清中のCaは

骨組織から溶け出てきたものと考えられた。CarlssonはビタミンDのこの作用を骨

塩動員作用と呼んだ。ビタミンDが何らかの機構で骨吸収を促す最初の報告であっ

た。
 1998年、我々は活性型ビタミンDは骨芽細胞に働くことによって、その細胞膜上に

破骨細胞分化因子(ODF/RANKL)を誘導し、ODF/RANKLはマクロファージ系の造血細

胞の細胞膜に存在するODF受容体(RANK)と結合することによって、この造血細胞を

破骨細胞に分化させることを明らかにした(LECTUREシリーズ第5回、「破骨細胞形

成の分子メカニズムが解明された」参照)。つまり、活性型ビタミンDは破骨細胞

形成を促進することによって骨塩動員(骨吸収)を促すのである。
  それでは、動物やヒトに1α(OH)D3や活性型ビタミンDを投与すると、なぜ骨量

が増加したり骨折率の低下がみられるのだろうか。これまでに積み上げられたいろ

いろな実験成績を総合すると、in vitroとin vivoにおけるビタミンDの骨作用の乖

離は、その用量(投与量)の違いによるものではないかと思われる。実際、実験成績によれば、低Ca・ビタミンD欠乏食で飼育

したラットの小腸のCa吸収の亢進は0.1μg/kgの活性型ビタミンD[1α,25(OH)2D3]

の投与で促進されるのに対し、骨塩動員作用(骨吸収促進作用)は1~5μg/kgの1

α,25(OH)2D3の投与量で初めて発現される。つまり、ビタミンDの骨塩動

員作用を発現させるためには、小腸のCa吸収促進作用の発現に必要な1α,25(OH)2D3

の投与量の10~50倍が必要なのである。
  また、甲状腺と副甲状腺摘出(TPTX

)ラットに50 ng/hの速度でPTHを持続注入するとODF/RANKLが誘導され血清Ca濃度が

上昇するが、この動物に0.01~0.1μg/kgの1α,25(OH)2D3を14日間連日投与すると

、PTHによるODF/RANKL mRNAの発現が抑制されるという。1α,25(OH)2D3投与によっ

てこの動物の骨のODF/RANKL mRNAの発現を亢進させるには0.5μg/kg以上の投与量が

必要であったという。

  つまり、活性型ビタミンDは生理量では主として小腸でのカルシウム吸収を促進

することによって間接的に骨の石灰化を賦活する。また、生理量の活性型ビタミン

DはPTHの骨吸収促進作用を抑制することによって骨吸収を抑制する。ビタミンD3

(または活性型ビタミンD)が骨吸収を促進するためには生理量の10~50倍の投与

量が必要である。このことは、昔から臨床的に知られているビタミンD中

毒の際に激しい骨吸収が惹起され、高Ca血症を招来する事実とよく符合する。
  骨形成に対するビタミンD誘導体の直接作用、PTHと活性型ビタミンDの相互作

用の研究はまだ端緒に着いたばかりである。骨の系統疾患の病因と治療方針を確立

するためには、これらの現象をひとつひとつ分子レベルで解明することが必要であ

る。

はじめに
  本シリーズでこれまでに明らかにしてきたように、現存する脊椎動物の大部分の

骨組織はまず“軟骨”として形成され、それが骨組織に置換される。これを“軟骨

性骨形成”と呼んでいる。今回は、そのしくみについて、最新の研究成果を勉強し

よう。

2.副甲状腺ホルモン関連ペプチドの発見
  よく知られているように、副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone, PTH)は副

甲状腺から分泌される84個のアミノ酸から成るペプチドホルモンである。PTHは腎臓

と骨を主要な標的器官として、血清カルシウムの恒常性を維持するために重要な役

割を演じている。PTH(1-84)の生理活性は、N端の34個のアミノ酸から成るPTH(1-34)

の断片で全ての活性を発現することができる。
  一方、昔から悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症(humoral hypercalcemia of

malignancy, HHM)の患者のなかで、その病態が原発性副甲状腺機能亢進症と類似す

る症例がしばしば報告されていた。このような症例では、血中のPTHレベルは正常で

、腫瘍の摘出により高カルシウム血症が消退することから、腫瘍細胞がPTH様物質を

産生するのではないかと考えられていた。
  1987年、メルボルン大学(オーストラリア)のJack Martinは肺がん細胞(BEN細

胞)の培養濾液からその原因物質を単離・同定し、副甲状腺関連ペプチド(PTH-

related peptide, PTHrP)と名付けた。PTHrPはPTHの約2倍の大きさのペプチドで

、141個のアミノ酸から成っていた。驚くべきことに、PTHrPのアミノ酸配列はN端か

ら14個までのアミノ酸残基の内、8~9個がPTHと同一であった。このN端部

のアミノ酸配列の相同性によりPTHrPはPTH様作用を発現するのである。PTHrPはその

後、がん細胞ばかりでなく、種々の正常細胞からも分泌されることが明らかにされ

、軟骨細胞の分化を初めいろいろな正常細胞でパラクリンとしての作用が注目され

るようになった。

3.PTH/PTHrPレセプターの発見
  PTHレセプターの構造は永らく不明であったが、遺伝子からコードされたPTHレセプターは

585個のアミノ酸より成り、Gタンパクに共役した他の細胞膜受容体と同様に、細胞

膜を7回貫通する領域(ドメイン)を持っていた。
  興味深いことは、PTHrPもこのPTH受容体を介して作用を発現することで、そのた

めにこのレセプターはその後PTH/PTHrP受容体と呼ばれるようになった。系統発生の

立場からみると、PTHはPTHrPよりも遅れて進化し、動物が海から陸に移り住むよう

になって血清カルシウムの恒常性を維持する必要性が増大すると、PTHはすでに骨組

織と腎臓に存在していたPTHrP受容体に結合して作用を発現するようになったと考え

られる。PTHもPTHrPもそれぞれのペプチドのN端の34~36個のアミノ酸で全ての生理

活性を発揮することができるので、PTHとPTHrPの間でN端側の14個のアミノ酸残基の

内、8~9個が同一であったことは、両者が同一の受容体を共有するために決定的に

重要であったのであろう。
  図7-3に示すPTH/PTHrP受容体のアミノ酸残基の内、赤丸で示す7個のシステイン残

基はカルシトニン(CT)受容体にも保存されている。このことは、PTH/PTHrP受容体

とCT受容体が系統発生上同じファミリーに属するGタンパク共役型の受容体であるこ

とを示している。また、 Jansen(ヤンセン)型骨幹端軟骨異形成症の 名前で知られ

る先天性の軟骨組織の発育異常は、223番目のヒスチジン(H, 橙色の丸)がアルギ

ニンに変化したためであることが1997年に明らかにされた。このことは、PTHrPが

PTH/PTHrP受容体を介して軟骨細胞の分化の調節に重要な役割を果していることを更

に確認するものである。

4.PTHrP遺伝子ノックアウトマウスから学ぶこと
  1994年、モントリオール(カナダ)のAndrew KaraplisはPTHrP遺伝子のノックア

ウトマウスの作成に成功した(Caption参照)。PTHrP欠損[PTHrP (-/-)]マウスは生

後数時間で死亡した。胎生18~19日齢のPTHrP (-/-)マウスは肉眼的な異常として四

肢の短縮を示した。組織学的には軟骨の著しい形成不全が認められた。すなわち、

PTHrP (-/-)マウスでは軟骨細胞の増殖と分化が抑制されていて、このことがPTHrP

(-/-)マウスの手や足の長管骨の短縮の原因となっていたのである。また

、肥大軟骨細胞層では、増殖軟骨細胞が肥大化できずに、そのまま肥大軟骨細胞層

に混在するため、軟骨基質の石灰化やそれに引き続いて起こる骨への転化も阻害さ

れるのである。PTH (-/-)マウスは顔面部の発達も悪く、いわゆる鼻ペちゃの相貌を

呈していた(Caption)。
  その後作成に成功したPTH/PTHrPレセプターノックアウトマウスもPTHrP (-/-)マ

ウスと類似した軟骨の異常を示し、しかも異常の程度が大きかった。これはPTHと

PTHrPに共通した受容体が欠損するため、胎生後期から産生、分泌が始まるPTHのシ

グナル伝達も完全にブロックされるためと考えられる。

5.インディアン ヘッジホッグによるPTHrPの産生調節
  軟骨細胞の分化に及ぼすPTHrPの役割が明らかになって、研究者の関心はPTHrPの

分泌細胞と産生調節のしくみに移った。その過程で登場してきたのがヘッジホッグ

(Hedgehog)と呼ばれる分泌性の蛋白質である。ヘッジホッグは動物の発生におい

て体軸の決定、特に前後軸の決定に重要な役割を果たすことが明らかにされており

、脊椎動物では
Sonic hedgehog(ソニックヘッジホッグ)(Shh)、
Desert hedgehog(デザートヘッジホッグ)(Dhh)、
Indian hedgehog(インディアンヘッジホッグ)(Ihh)、
の3種類の存在が知られている。
  Ihhは発育中の軟骨の増殖軟骨細胞層と肥大軟骨細胞層の境界付近(前肥大軟骨細

胞)に局在して発現していることから、軟骨形成におけるIhhの役割が注目されてい

た。前肥大軟骨細胞

から分泌されたIhhが骨幹端の関節軟骨膜に働き、軟骨膜を構成する細胞からPTHrP

産生を促すことを明らかにした。分泌されたPTHrPはPTH/PTHrP受容体が豊

富に分布する増殖軟骨細胞に働き、増殖と分化を促すとともに、増殖軟骨細胞の肥

大化を抑制するのである。つまり、肥大化のプログラムが作動し始めた前肥大軟骨

細胞が産生・分泌するIhhが増殖軟骨細胞層を一定の長さに維持しその肥大化を抑制

する作用のあるPTHrPの産生を促すというnegative feedback loopを形成するのであ

る。
  軟骨の成長を抑制するPTHrPの役割が明らかとなり、今後これらの発見が軟骨の再

生医療に応用されることが期待される。

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すごいでしょう?
よくここまでたどり着きましたね!
エライ!
脳科学もこうなることを想定して、
その仮定の上で、
心理学を脳科学の言葉で語っているふりをして、
ずばり言うとインチキ科学を語っているわけだ。
だって、内容はすっぽり抜けている。
分かっていないんだから。
分かっていないけれど、
多分、こうだろうと、語って欲しがっている欲求に従って、書いているだけだ。
だっていまだに、
ある病気での、脳のある部位、たとえば海馬の体積の変化を
MRIで「測定」しているだけの論文が通用しているんだから。
それが基本だし、誰かがやるだろうけれど、
実際やっているからね。
原始時代だ。
読むほうより、書くほうが、
ずいぶん頭はいいけどね。