抗うつ剤の飲み方

第1回目 つまり初診の日

もし、「うつ病」「うつ状態」であると診断されたら、治療と抗うつ剤について、説明があります。

1. うつ病、うつ状態は、必ず治る病気です。きちんと治療しましょう。薬は勝手に増やしたり、また、勝手に減らしたり、勝手に中止したりしないで下さい。 

2. 脳の中で伝達物質の不具合が起こっている、身体的な疾患です。「怠け病」「気の病」や「性格が悪いから」ではありません。自分を責めないで下さい。 

3. 病気を治すことは医師に任せ、なるべく休養をとりましょう。 

4. 辞職、離婚、引越し、財産処分など、重大な決定は延期しましょう。 

5. 抗うつ薬は効果が出るまでに時間がかかります。効果が出て楽になる前に、副作用が出ることがありますが、薬をやめないようにしましょう。4~5回かけて、だんだん増やしていって、標準量まで到達します。

6-1. 不眠、食欲不振、めまい、肩こり、全身疲労など、身体症状もつらいものですから、総合的にケアしましょう。気になることは、気軽に相談してください。うつ病やうつ状態の場合には、不安やイライラをともなうこともあり、抗不安薬を併用することも多いものです。また、抗不安薬は、不眠、食欲不振、めまい、肩こり、頭痛などにもよく効くので、全身状態を楽にしてくれます。さらに、一部の抗不安薬は、うつに対して速効性があります。以上のように、抗うつ剤に抗不安薬を併用することも検討に値する選択肢です。

6-2. 漢方薬が全身状態を楽にしてくれることがあります。相談しましょう。

7. 知識のない人に、「根性だ」「気合だ」と言われることがあります。世間とはそういうものです。がっかりしないで、科学的に治療しましょう。

8. 治る過程は一直線でなく一進一退を繰り返すものです。三寒四温といいます。焦らないで、2~3ヶ月先を目標にしましょう。 

9. 治療の中盤に入ると、「頑張ってもっと早く治したい。何とかしたいのに、一日動くと次の日は動けない。どうして気力が出ないのか。」と悩むことがあります。ここで焦らないで、辛抱することです。

10. クリニックは、仕事が終わったあとの夜の時間帯は混み合います。できれば、空いている昼の時間帯に通院しましょう。 

11. 時間のない人は、薬局に処方箋を提出して、あとでお薬を受けとってもいいでしょう。

12. 最初は一週間に一回の通院を予定して、不具合や不安があったら、それ以外でもお話をしましよう。薬だけを漫然と飲んでいるのは、慢性化につながります。本当に必要なのか、判断しましょう。本当に必要なら、一年でも二年でも飲みましょう。合理的に対処しましよう。

などと説明があります。

抗うつ剤の最初の副作用は、吐き気、眠気、めまい、下痢、便秘などです。体質、全身状態、薬の種類、量に応じて、これらの副作用に対応するお薬も併用します。

第2回目

症状は服用開始1~2週間後から徐々に改善していきます。うつ病の薬物療法は、計画的で継続した服薬が重要です。効果が現れるまで徐々に増やして患者さんに合う量に調整します。これは決して悪くなったからではありません。段階的に増やして標準量まで到達します。そして、数カ月、その量を維持します。薬を減量するときにも、段階的に減らします。そのほかにも飲む時間を変えるなど、微調整を加えていきます。

風邪薬や痛み止めは、最初から量が決まっていますが、メンタルのお薬はそうではありません。少量からはじめて、調整していきます。

第3回目

うつ病は、ストレスなどが原因となって、脳の中のセロトニンやノルアドレナリンといった神経伝達物質が足りなくなったために、疲れたり気力がなくなったり、気分が落ち込んだりする病気です。

このお薬は、足りなくなっているセロトニンを増やして脳の中のバランスを整えてくれますが、効果が出てくるまで少し時間がかかります。これで2週間経ちましたので、そろそろ少しだけ楽になっているのではないでしょうか。 少しよくなったかな、と感じられるようになるまでに1~2週間、あるいはもう少しかかることもあるわけです。セロトニンが増えてきちんと脳の中で働くようになれば症状は我慢し易くなりますから、焦らずにゆっくりと治療をしていきましょう。

詳しく言うと、SSRIは、セロトニン(5-HT)の再取り込みを選択的かつ強力に阻害し、シナプス間隙の5-HTを増加させることによって抗うつ作用を発揮します。投与後は比較的速やかに5-HTの再取り込みを阻害しますが、抗うつ作用を発揮するまでには1~2週間、あるいはそれ以上の時間がかかることがあります。これには、5-HT放出に関するフィードバック機構が関与しており、SSRIの効果発現には、うつ病でアップレギュレートされている5-HT自己受容体の脱感作が必要で、それに1~2週間かかるためだと考えられています。

難しいかもしれませんが、そのような、脳内の物質メカニズムの問題なのだということを理解してください。「気合」の問題ではないのです。

第4回目

薬剤量が増えていくことが不安になるかもしれません。
だんだんと薬の量を増やしていくのは、標準量まで持っていこうとしているためです。飲み始めに多い吐き気などの副作用に注意しながら、少量から始めて少しずつ服用量を増やしていきます。病気が悪くなっているのではありません。

悪心、嘔気などの消化器症状は、嘔吐中枢の5-HT3受容体刺激によるものです。投与初期に一過性に現れることが多い症状です。処置をしなくても消失する場合がほとんどですが、これによって服薬を中止してしまう人もいます。また、通院をやめてしまう人もいます。

ですから、できるだけ少ない量から開始し、その後も副作用の発現に注意しながら段階的に増量し、効果が現れるまで充分に増量することが普通です。必要に応じて、制吐剤を使用することもあります。うつ状態の場合には、食欲不振となっている場合が多いですから、胃薬を併用することは合理的です。

投与初期に発現する副作用は、SSRIの作用を実感できない時期に発現するため、患者さんは「副作用が強く、効果が少ない薬」という印象を持つことがあります。副作用は最初の2~3日から一週間がピークで、効果そのものは、2週間以降くらいに出てきます。この差をよく理解して、自己判断で服薬を中止しないようにしましょう。

薬剤血中濃度が少なくても、当座は楽になりますが、体質を改善するためには、標準量まで上げて、それを一定に保つことが重要であると考えています。薬に何を求めるかによるわけです。一時的なリリーフでいいなら、低用量でいいと思いますが、長期的な見通しを持って対処するなら、標準量を維持してみることが得策でしょう。このあたりは、人生観や価値観とも関係しますので、お考えを聞かせてください。また、医学の現状もお話します。

第5回目

抗うつ剤は標準量まで到達して、服用開始初期に感じていた悪心や傾眠の副作用もすっかり消えていると思います。 心配ないようなら、副作用対策のお薬は、中止にします。

治療の初期から使っていた抗不安薬や睡眠導入剤は、継続したほうが安全な場合が多いと思います。

このお薬を飲むと、死んでしまいたいと思うことがあると聞いたので心配だという人もいます。確かにこのお薬を飲み始めてしばらくの間は、まれに不安感やイライラ(焦燥感といいます)した気分が強くなることがあります。また、うつ病の患者さんの、死んでしまいたいという気持ち(希死念慮といいます)を強めてしまうこともあります。しかし、こうした気分は一時的なもので、治療を続けていると自然におさまってきます。不安感やイライラした気分が強くてつらい場合には、しばらくの間、抗不安薬を一緒に飲むことで、この時期を上手に乗り越えることができます。抗不安薬を上手に併用しましょう。抗不安薬を合理的に利用することによって、抗うつ剤を飲み続けることができれば、大変有用です。

第6回目

自己判断で服薬の減量や中止をしないようにしましょう。この時期になると、かなり落ち着いてくるものです。したがって、一部の人は、自分で薬をこっそりやめていたりします。薬をやめられれば完治が近いと考えるようです。しかしそんなことはありません。せっかく順調に回復していた脳内物質の流れが、また滞ってしまいます。

薬の効き始めに二週間くらいかかったことでも分かるように、薬を中止した影響が出てくるのも、中止してからしばらくたってからになります。そのときに反省してまた薬を飲み始めたとして、それだけ治療が遅れてしまいます。完全に治って会社に復帰して、業務も通常通りにこなせるところまでしっかり薬を飲んで、その後に、減量していくようにしましょう。

脳が自分の力で十分なセロトニンを作ることができるようになるまでには少なくとも半年はかかるといわれています。薬を飲み続けることによるマイナスは何もありませんから、焦らずに治療を続けていきましょう。

SSRIを急激に中止すると、めまい、嗜眠、ぴりぴり感覚、嘔気、鮮明な夢、焦燥感、気分の落ち込みなどの中止後発現症状が出現することがあります。中止後発現症状のほとんどは一時的で軽度ですが、まれに重篤になることがあります。自己判断による薬剤の急激な減量・中止は危険なので、決して行わないようにしましょう。

症状が改善してきたときや、逆に効果が実感できないときに、自己判断による服薬中止は起こりやすいものです。症状が改善してきた場合、せっかく有効なお薬が見つかったのですから、少なくとも半年程度、できれば年単位の治療継続が必要であることをご理解いただきたいと思います。もしそれが不安で不快で、意に沿わないなら、話し合いましょう。どこかに誤解や思い込みがあるかもしれません、また、我々治療者の側に、患者さんの人生についての理解の不足があるかもしれません。よく話し合えば、一致点が見つかると思います。

第7回目

おおむねこの頃には、生活リズムも整い、復帰に向けて何かしようかと思う頃です。復職に向けて、時間割を決めて、作業や読書に取り組んでみるのがよいでしょう。あくまでも少しずつです。

新聞を二時間も読み続ければ、かなり疲れます。図書館で雑誌を数冊、二時間も読めば、それなりに疲れるものです。その疲れの程度を測定するつもりで、最初は一時間、次には二時間、集中読書をしてみて下さい。

しかし一方で、今ひとつ効果がないと感じる人もいるはずです。
ひとつの抗うつ剤について、標準量まで増やして、その量を維持し、約6週間たって、改善が見られないようならば、その薬は無効であると考えてよいでしょう。抗うつ剤を変更する場合にも、徐々に入れ替えることが原則です。場合によっては、一度に交換する方法もありますが、やはり原則は、部分的に入れ替えてゆく方法になります。

効果が実感できない場合、改善が得られるまでに約6週間という時間が必要であることをご理解ください。それを過ぎて主観的に効果が実感できず、客観的にも効果が認められない場合には、薬剤変更を検討します。
また、不眠、食欲不振、頭痛、身体のだるさなど身体症状の変化を注意深く報告してください。抗うつ薬の効果発現の経過は「少し眠りが深くなった」「少し食欲が出てきた」「イライラすることが減った」などわずかな変化として現れることも多いので、本人の自覚としては、「よくなっていない」と感じてしまうこともあるようです。

不安や焦燥感が強い場合や、うつの改善が今ひとつ思わしくない場合には、抗不安薬や漢方薬を調整してみることも選択肢に入れて相談します。