氷だにとまらぬ春の谷風にまだうちとけぬ鶯の声

源順 みなもとのしたがふ 作

自然と恋愛の照応が示されている。

春の風
それは氷さえじっとしていないで溶け始めるくらいだ
氷も溶けるというのに、まだうち解けずいい声で啼いてくれない
鶯である

別訳
私の得意な 春の谷風 をもってすれば、
氷でさえも溶け始めじっとしていられずに声をあげるというに、
私の可愛い鶯よ
まだ喜びの声を聞かせてはくれないものか

源順の得意技「春の谷風」とは何か、文献にもないので分からない。
しかし山風ではなく谷風なので、「くぼんだ場所」に対する術であったろう。
風とあるので、空気の移動を含むものであったかもしれない。
いずれにしても、源順の得意技「春の谷風」は、
氷を溶かして水浸しにし、
鶯をいい声で啼かせたのである。

水浸しとなりいい声が出ているなら、
効果はよかったはずなのだ。
再訪を期待されたものであろう。

古来、「まだうちとけぬ鶯」こそは、
もっとも興趣をそそる対象である。
また逆に、うち解けぬ間のみ寵愛されるのもまた習いである。