自己洞察瞑想療法(SIMT)=マインドフルネス心理療法

 SIMT 目標6大技法*** 問題を改善する6つの目標技法 ***
 疾患や問題行動は、6つの心理的柔軟性の欠如から起きる。これを改善することを焦点とした技法である。「形式技法」を実行する時に、どのような標的を改善するか、「形式技法」を「いかにして」行なうかを指示する。
①直接体験注意傾注法重要なスキルは「自己の精神作用の自覚と価値実現のことへの注意集中」である。自分の精神作用を自覚しており、価値実現の直接体験に注意を集中して観察して、推移をモニタリングする。不要な機能に移らない抑制、不要な対象の解放を含む。
②価値(自分の願い、人生の目標)保持法重要なスキルは「自己の信頼、自己の尊重」にもとづく「価値保持」である。自分の願い、人生の目標を保持し、瞬間瞬間に参照確認するスキルの習得。
③機能分析法(自己と機能の洞察)重要なスキルは「感情の制御」である。精神作用の全体と部分を理解して、現在の瞬間に意識している作用(機能)を自覚し、先行の機能を知り、後続の機能を推測し、本人の価値実現の方向にあるものを選択する。自己の精神作用についてのコントロール可能性への信頼を向上させる。
④徹底的受容法重要なスキルは「不快事象の受容」である。不快事象があってもそれを包む心を成長させて、起きるものを拒まず、不快な事象を無評価で体験して、受容する。 最終的に、価値にそった行動を選択する。
⑤連合解消法効果ある行動の強化と効果ない行動の消去のスキルである。重要なスキルは「抑制、解放、注意転換」などである。価値の崩壊になるような固い反応(「価値崩壊への反応パターン」)を解消して、柔軟性をもって価値実現の方向にある多様な選択肢を想起して選択し、実行する(「価値実現への反応パターン」)。
⑥叡智活性化法重要なスキルは「直観的な叡智の開発」である。叡智を開発し価値実現への反応パターン、解決技法を教育、助言する。自己の種々の精神作用を自覚」して、不快事象があろとも種々の精神作用を包み受容しながら、自己の人生の価値を崩壊させないことを強く想起して、建設的な行動を決意する意志作用を活性化させる。
目次:自己洞察瞑想療法=マインドフルネス心理療法
◆自己洞察瞑想療法(SIMT)の概要
 呼吸法はお産の時に緊張を緩和するために指導されたり、心療内科医が心身症の患者のストレス緩和のために用いている呼吸法です。簡単なものですが、これに6つの心理的柔軟性スキルを織り込むと精神疾患を治療、予防する心理療法になります。6つの「心の柔軟性スキル」を開発してうつ病、不安障害などを治す、予防する
 うつ病、不安障害、種々の悩みや問題行動は、6つの「心の柔軟性スキル」が充分でないことから起きる。これは、マインドフルネス心理療法の仮説です。心理的柔軟性スキルは誰でも向上させることができる。トレーニングして身につけて、悩みや問題が軽くなっている。課題を実行する時「形式」だけにとらわれて形だけを実行するのではなくて、問題解決の6つのスキルを向上させるトレーニングであることを自覚して行います。  呼吸法の時、日常行動する時、家庭や職場などで人に会う時、対話の時、一人でいる時、運動する時、つまりは、すべての時に、この6つのスキルの練習であることを見失わずに考え、会話し、行動します。もちろん、人が完全にできるはずがないので、少しでも多くの時間に実践できると心の病気が軽くなる。再発も予防できる。また、回復不能の過去、回復不能の病気・障害、大切なものの喪失などのつらさを、包みこんであるがまま観察してみるという意志作用の 実践も繰り返しトレーニングします。 今という瞬間(他の時間は過去や未来です)を大切に観察して自分の願いを崩壊させないような行動をとっていきます。
<第1>直接経験注意傾注の心のスキル
常に自己の作用を自覚、覚醒しており(つまり自覚ないままに苦しみを生み出す思考や行動をしていないことを自覚)、直接体験(感覚、感情、身体反応など)を自覚して大切なことに注意を集中して、無評価で観察して、価値実現の行動に真剣にかかわることができる心のスキル。注意を対象2つ以上に分配することもできる(分配性注意=意志作用)。見ることと聞くこと(たとえば対話中)、(従来なら回避、逃避するような出来事が起きた時など)不快事象の観察と呼吸法の実行、(同じくつらいことが起きた時)不安・怒りの観察と願いの想起と行動の探索など。大切なことに注意を持続して、苦の結果を生み出す他の機能に移らない(嫌悪的評価、回避行動欲求など)集中のスキルも重要であり、これもトレーニングする。 仕事や通勤行動など価値実現の実行中に、不快な事象(他人からの言葉、パニック発作の前ぶれ、視線恐怖、仕事の嫌悪感、過去の不快体験の思考など)が起きても価値実現の行動を放棄(回避、逃避、中断)しないように、価値実現の行動(仕事、遊び、対話、通勤行動=電車に乗り続ける)に注意を持続できる(意志作用の活性化)スキルを向上させる。一方、不快な事象が起きた時、その不快な事象を嫌悪して非機能的行動に移る反応パターンを修正するために、不快事象を包みこみあるがまま無評価で観察してその事象を洞察し、建設的な行動を決意する意志作用のスキルを向上させる。
<第2>価値(自分の願い、人生の目標)確認の心のスキル
自分の願い、人生の目標を保持し、瞬間瞬間に参照確認できる心のスキル。個人の価値実現、願いであって、治療者の価値ではない。たとえば、ある人が 仕事によってうつ病になって治らなくて、仕事は無論であるが家事ができない、他人と会話ができない、外出もできないという状況だとしよう。こういう時、価値・願いは必ずしも「仕事への復帰」ではない。個人個人で違ってよい。 ある人は、仕事の復帰、ある人は「もう仕事への復帰は望まない、家事ができるようになればよい」というならば、それを目標として治療をする。そのような現実的な価値を確認して持ち続けることが治療の動機づけとなる。この目標は治療がすすんできたら、さらにすすんだ価値実現をめざすことはかまわない。 マインドフルネス心理療法の「価値」は現実的で生きる上で効果的なものでなければならない。「がんが治る」ということは心理療法の目標ではない。「がんであっても心理的な苦悩によって余生をうつの中ですごすのではなくて充実した心で生きたい」というのであれば、現実的で効果ある「価値」である。価値をほとんど自覚意識しない場合、問題を持続させたり、治療参加への動機づけが失われたり、悲劇的な事態(自殺、非行犯罪等)に発展することがある。つらいことがあろうと、自分の願いを崩壊させるような無茶なことをしたら、自分が苦しむだけである。一時的な回避、逃避したり、一時的に楽になる方法でまぎらしても、家族や社会にあたりちらしても、後の長い人生を長期間苦しむ可能性がある。長期的な視野で自分の願いをしっかりもって、その実現のために、無茶な行動、無益な行動、逃避行動はしない。すぐにはできないので、その方向でトレーニングしていく。(注)ヨーガにも呼吸法がありますが、6つの心理的柔軟性の向上、精神疾患の治療の原理はないでしょう。 呼吸法に似た指導法を行なう宗教団体がありますが、そういう宗教は「団体としての価値」を規定しています。たとえば、「目的のない実践」とか「悟りをめざすくふう」とか。だから、個人個人の多様な価値実現を認めないところがあります。従って指導方法も全く違っています。ところが、マインドフルネス心理療法は「個人の願い、価値実現」を目標にします。「精神疾患を治す」「自殺したい気持がある、治したい、強く生きるようになりたい」「精神疾患を予防する」「ひきこもりを治したい」「子を虐待する心があるのを治したい」「スポーツ選手だがメンタルに強くなりたい」「精神科医、心理士だが効果ある心理療法を併用して患者さんを治したい」「家庭の不和を改善したい」「がんになってつらい。闘病の心構えを身につけたい」など、個人、個人の願い、価値実現を目標にします。 これは、アメリカのマインドフルネス心理療法も同じです。だから、マインドフルネス心理療法は組織の統一した価値実現を目標としている宗教とはほど遠いものです。マインドフルネス心理療法は1人1人違う個人の願い(価値)を達成するための精神疾患を治療する心理療法ですが、予防法、職業上のメンタルスキルの向上、ターミナルケアなどにも充分に応用できます。アメリカはキリスト教の人が多いのでしょうが、そういう中にあって、発展しているマインドフルネス心理療法ですから、宗教とは違う医療法、メンタルスキルの向上法です。
<第3>機能分析(自己の存在と種々の精神作用、精神機能の洞察)の心のスキル
自己全体の洞察によって主として「思考、感情や行動を制御」する心のスキルである。精神疾患、非行犯罪、他者を苦しめるところには、「曇った観察・判断」によってものごとをみており、自己の全体がわかっていない。自己の精神活動の全体と部分(=機能。感覚、思考、感情など)を理解して、現在の瞬間に生起している機能(要素、部分)を理解し、 先行の機能を知り、後続の機能を推測できる。過去や将来の思考による支配を理解し克服する。各機能(要素)の特徴を知り、問題の理解によって自己信頼を獲得する。要素間の関係を理解し、瞬間瞬間、自己の現在と次の瞬間の行動の結果を推測できるようになる。次の行動が自己や他者を苦しめる結果となる行動をやめて、苦しみを解決する結果となる行動を選択できるようになる。自己の精神活動を「澄んだ観察・判断」の眼でみるスキルを向上させる。今、ここの瞬間は、自己の生命のすべてである。今の瞬間があるのだから、感覚の時は、それが自己全体になる。瞬間、瞬間、種々の働きが移り行くが、いつもそういうものを意識し観察する自己がある。ものごころついてから一貫して観察する自己があって、感覚や思考や身体反応は変わりゆくもので自分自身のすべてではない。そうすると、つらく感じられる思考内容や感情もあまり苦痛に思わなくてすむのかもしれない。嫌悪的自分の評価も変わり行く波のような思考の一種。こうして、思考、感情などのありさまを違う見方ができるならば、感情にとらわれて無益な行動をしていたことが変われるかもしれない。
<第4>徹底的受容の心のスキル
「不快事象の受容」の心のスキルである。自分の意識的な努力をもってしてもやむを得ずして起きる(病気の症状や対人関係における不快な出来事など)ものを拒まず、不快な事象を無評価(「澄んだ観察・判断」)で体験して受容して最終的に価値にそった行動を選択する心のスキル。避けることができない不快な体験が起きるが、起きることを嫌って回避(場所、人、話しを避ける)すると社会生活が障害され、自分の価値・願いが崩壊する。それは、思考(言語プロセス)で拡大していく。そこで、不快な体験をそのまま(言葉で善悪の評価や結果拡大などの連想をせず)無評価で体験して受け入れるスキルを向上させる。無評価で受け入れていれば、その不快な体験の強度が変化するかもしれない。不快事象の強度が変化しなくても、感情が増大せずにすんで、回避や無益な行動をしなければ、社会生活は障害されず、価値は崩壊しない。
<第5>連合解消の心のスキル
感覚や感情、身体反応などの刺激、思考(判断・評価)、感情、行動などの反応パターンが学習されて、非機能的(不適応)な行動が繰り返されて、本人が自覚的な症状(たとえば、抑うつ気分、不安におびえる、など)に苦しんだり、社会生活が阻害されたりする(たとえば、仕事ができない、人とあうことを回避する、など)。 思考が行動に、行動が思考に、感情が行動にと重層的、循環的に連鎖・連合があり、問題が維持される。意識される心理行動と神経生理学的な問題の相互作用もある。抑制、解放、注意転換などの心のスキルを駆使しながら、他の5つのスキルを活用して種々の連鎖・連合の解消を図る。そして 「価値崩壊の反応パターン」の連鎖を修正できる心のスキルである。注意を持続して他の不要無益な行動に移らない抑制、不要な対象を捉えていることに気づいて解放するスキル、価値あることに注意を転換するスキルなどが必要となる。背景に神経生理学的な部位の機能低下や機能亢進があるかもしれないと自覚して、改善効果のあるトレーニングをすることによって、症状や問題が改善するかもしれないと理解して課題を実行する。
<第6>「直観的な叡智活性化」のスキル(叡智活性化法)
4つの智慧を理解して、無評価の智慧にもとづく直観的な叡智、活発な意志作用を開発させる。独特の認知(考え:苦悩の智慧)が障害を維持悪化させたり、治療行動を回避させたりしている場合、認知の修正ができる柔軟な心のスキルを向上させる。たとえば、朝起きるのが症状回復になるという考え、機能低下がしている精神活動は、それをあえて使うトレーニングをすることが回復になるという考え方などがある。合理的な智慧を学習する。これは副次的である。自己の精神作用、自己自身、人、世界に対して苦悩の智慧によって「曇った観察」をしており、無評価でありのままで観察して、建設的な行動を選択することができない。つまり、意志作用が活性化していない。自己の精神作用、対象、内容を 無分別、無評価で包み洞察する智慧を基礎として、直観的な叡智を体験的に開発する。事象をすべて包み「澄んだ観察」により、あるがままの自己の精神作用、自己自身、人、世界のみかたを変えて、直観的な叡智を開花させる。