未来を恐怖し、過去を後悔する

未来を先取りして悩むとき、
それは恐怖につながる。
恐怖症は未来の病理である。

パニックは不安の極端な形で、未来型である。

中井久夫氏は徴候型知覚という言葉を提唱していて、
わずかの徴候から、
未来を、それも多くは、悪い未来を予測する知覚能力で、
敵が来たとか、嵐になるとか、
微細な徴候をとらえる。
統合失調症型の人間に特徴的である。
これも未来の病理である。

過去を後悔して、
取り返しがつかないと悩む。
それはメランコリー型うつ病の特徴である。
これは過去の病理である。

PTSDのフラッシュバックは過去が現在に蘇る。
過去型の病理である。

てんかんは現在型の病理である。
過去にくよくよしないし、未来にくよくよしない。

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過剰に予測する人と
過剰に振り返る人と。

最近では、
会社恐怖のうつ病という人がいて、
それは未来を恐怖しているうつ病ということで、
どう見ても、定義からいって、矛盾しているように思われるが、
恐怖症は現在症で、うつ病は根本にある病理と考えてもいい。

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恐怖症は、妄想と違うのかといわれれば、難しいところもある。

その怖いものが、蛛ではないのに「蛛」だというなら、妄想幻覚であるが、
蛛を蛛といって、「怖い」というなら、妄想はないように思うが、
それを妄想ではないとどうして言えるだろう。

高所恐怖なら恐怖症だが、
平地恐怖は妄想ということになってしまうのかもしれない。

異性恐怖は妄想かもしれない。
被害妄想との境界線は難しいところがある。

症状は恐怖症で、
性格構造はメランコリータイプとか、
そんな言い方もできる。

しかし昔ながらの言い方で言えば、
メランコリータイプは恐怖症を症状とはせず、
むしろ過去を悔いることを根本とする。

そこの変化が現代的と言えば現代的だし、
うつ病ではないと言えばうつ病ではないとも言えるところだ。

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最近は、過去を悔いる人にも、未来を恐怖する人にも、効く薬があって、
まことに便利である。
だから、病理が相互乗り入れするのも、特に問題は、ない。