「酔ってるの?あたしが誰かわかってる?」「ブーフーウーのウーじゃないかな」
穂村弘
弘というなまえが渋い
小学校の先生の名前と同じだ
終バスにふたりは眠る紫の〈降りますランプ〉に取り囲まれて
体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ
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もう私の周囲の風景は固定してしまっていて
終バスにも乗らないし
体温計も使わない
酔うこともないし
ブーフーウーを知ろうともしない
世の中に散らばっている宝石を
多分あるのだろうなと
思いつつ探検しなくなっている
ただベッドに横になり
古い本を読んでいる
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落語の本を読んでいたら、
「鼻ほしい」と「おかふい」という話があった。
粋なお道楽が過ぎると
鼻の障子がなくなってしまう。
夏座敷と言って、
言葉が鼻に抜けて具合の悪いことを言う。
余り出来のいい話とも思えないし、
第一、発声の不自由な人の事を笑うようにも受け取られるので、
もう演目としては難しいだろう。
しかしどうやって芸人が稽古をしたものか、
不思議ではある。
和歌を読んでしかもそれが鼻に抜けているので
分かりにくいから笑えない。