『新釈 四谷怪談』
小林恭二著 集英社新書、700円
虐げられた江戸の全女性のためになされた受難と復活の物語
御家人は、身分的には武士でも俸禄が極めて低く、内職や借金をしてやっと暮らせる「ワーキングプア」のような生活を強いられていた。家計のやり繰りに苦しむ妻たちは、荒れる夫の飲酒や暴力にも悩まされていた。そんな女性たちが、すがるように信仰していたのがお岩さんだった。
江戸後期にしてようやく都市の人口再生能力が上がり、地方からの流入者が暮らす江戸の街に共通の言葉ができあがった。その結果、それまで一部の特権階級が独占していた文学や演劇が庶民にも浸透し、教育も普及、下層民にも「江戸市民」としての自我が芽生えた。
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御家人の貧乏暮らし、さらに抑圧される女性の苦しみ、そのような下部構造をとらえているというのだ。
なるほどそうかもしれない。
文学の受容はいつでも現代の言葉によってなされる。
しかし私にとって興味深いのは、お岩が、貧乏にも暴力にも病にも耐え、子どもが泣いても耐えていたのに、化けて出ようと決意しのは、嫉妬の故だったという点だ。あの女だけは許せないというこの一点である。