古本屋で全巻まとめて出ていた本。
昭和27年の初版本で紙質は非常に悪い。
紙にシミが沢山浮いている。
印刷はずれているものもあり、活字が不鮮明になっているところがある。
昭和のその頃とはそのような時代だったということなのだろう。
はじめの方の巻は読んだあとのようなものがあり、
手で触ったところが紙のシミのようになっているようだ。
途中からは読んでいないらしい。
配本ごとに栞がついていたようで、
一緒に綴じ込んである。
読んでみると執筆当時の様子が伝わる感じで面白い。
まじめである。
清盛の話から展開して鞍馬山に移り、
話は活劇じみてくる。
天狗という存在が生々しく感じられる。
このようにも精神的距離を変えてしまう筆力に驚く。
鮮やかである。
牛若と常磐の交流は読む私にいろいろな要素を喚起した。
第六巻「稚子文状」で描かれる幼い手紙と稚子舞の片袖。
私も年をとり親の気持ちに半ばなっていて
しかしまた半ばは
お母あ様のお身につけていらっしゃる物を何か一つくださいとの
牛若の言葉に一体化していて、
おもしろいものだと思う。
麻鳥の繰り返し説く、無用な戦乱はよくないとの話はよく分かるのであるが
それにもましてどうしようもなく牛若を駆動する力もまた描かれていて
その仕方なさが切ない。
吉次とのやりとりの中に見える自己愛の肥大の様子も興味深い。
このような自己愛の肥大と形成が共感を持って迎えられる。
そうだろうと思う。
有名な伎王の話などはむしろさらりとしたもののように思った。
というようなわけで、まだ大分お楽しみがある。