「月の兎」の話です。
ずっと昔の時代にあったという。猿と兎と狐とが
ともに暮らすことの約束をして、朝には一緒に野
山をかけ回り、夕方には一緒に林へ帰って休んで
いた。このようにしながら、年月がたったので、
天帝がそのことをお聞きになって、それが事実で
あるかどうかを知りたいと思って、老人に姿を変
えてその所へ、よろめきながら行って言うことに
は「お前達は種類が違うのに、同じ気持で仲良く
過ごしているという。本当に聞いた通りである
ならば、私の空腹をどうか救ってくれ」と言って
杖を投げ出して座りこんだところ、「それは、た
やすいことです」と言って、しばらくしてから、
猿は後ろにある林から、木の実を拾って帰って来
た。狐は前にある河原から、魚をくわえて来て、
老人に与えた。兎は、あたりをしきりに飛び回っ
たが、何も手に入れる事が出来ないまま帰って来
たので、老人は「兎は気持が他の者と違って、思
いやりがない」と悪し様に言ったので、かわいそ
うに兎は心の中で考えて、言った事は「猿は柴を
刈って来て下さい。狐はそれを燃やして下さい」
と。二匹は言われた通りにした所、兎は炎の中に
飛び込んで、親しくもない老人に、自分の肉を与
えた。老人はこの姿を見るやいなや心もしおれる
ばかりに、天を仰いで涙を流し、地面にひれ伏し
ていたが、しばらくして、胸を叩きながら言った
事は、「お前達三匹の友達は、誰が劣るというの
ではないが、兎は特に心がやさしい」と言って、
天帝は、兎のなきがらを抱いて月の世界の宮殿に
葬ってやった。
この話は、今の時代にまで語り続けられ、「月の
兎」と呼ばれている。
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そこまでするなと言ってあげたい。
そこまでするなと言ってあげたい。