慰むる 心はなしに 雲隠り 鳴き行く鳥の 音のみし泣かゆ 山上憶良
(なぐさむる こころはなしに くもがくり なきゆくとりの ねのみしなかゆ)
あれこれと思い悩んで気が晴れることもなく、
雲に隠れて飛んで行く鳥が声高く鳴くように
私も声をあげて泣きたくなって来る。
「年老いた身に病気を加え、長年苦しみながら
子供を思う歌」という題で詠まれたものです。
この歌の前に状況を説明した長歌があります。
この世に生きてある限りは無事平穏でありたい
し、障害も不幸もなく過ごしたいのに、世の中
の憂鬱で辛い事は、ひどい傷に塩を振り掛ける
というように、ひどく重い馬荷に上荷をどっさ
り重ね載せるように、老いたわが身の上に病魔
まで背負わされている有様なので、昼は昼で嘆
き暮らし、夜は夜でため息をついて明かし、年
久しく病み続けたので、幾月も愚痴ったりうめ
いたりして、いっそうのこと死んでしまいたい
と思うけれど、真夏の蝿のように騒ぎ廻る子供
たちを放ったらかして死ぬことも出来ず、じっ
と子供を見つめていると、逆に生の思いが燃え
立って来る。こうして、あれやこれやと思い悩
んで、泣けて泣けて仕方がない。
山上憶良は珍しくパーソナルな悲しみを歌う人だった