姉が自閉症の妹に贈る「映画」という「抱擁」
第60回カンヌ国際映画祭 ─ 監督週間で国際批評家連盟賞を受賞し、観た人全ての胸が締め付けられたという一本のドキュメンタリーが話題にのぼった。
『仕立て屋の恋』の主演などで知られるフランスを代表する女優サンドリーヌ・ボネールの監督デビュー作『彼女の名はサビーヌ』である。25年の歳月をかけて撮影された自閉症の妹 ─ その映像によって観客は、過去の生き生きとした若かりし頃の妹と、入院を経た現在の彼女の「変化」を容赦なく見せ付けられる。同時に、その「視点」は今も昔も変わることなく愛に満ち溢れた姉の「眼差し」であり、完成された映画は妹への「抱擁」である。
『彼女の名はサビーヌ』
監督・脚本・撮影:サンドリーヌ・ボネール
出演:サビーヌ・ボネール
2007年/フランス/85分/video/カラー/1:1.66/フランス語
原題:Elle s’appelle Sabine
何かを嘆くのでもなく、非難するのでもなく、
ただ「この私を見よ」と迫ってくる目、
これまで映画がこのような目をとらえたことはなかったと思う。
―黒沢清(映画監督)
11人兄弟の七女に生まれたサンドリーヌ・ボネールには一歳違いの妹、サビーヌがいた。陽気で美しく、芸術的才能が豊かなサビーヌは幼い頃から特別なケアを必要としてきた。─彼女は自閉症である。同級生から「バカ・サビーヌ」とからかわれる日々。やがて姉妹兄弟がそれぞれの人生を歩み出す中、一人、母親と暮らす彼女。兄の死をきっかけに彼女の孤立感は増し、不安は家族と自分に対する衝動的な暴力として現れた。そして自閉症としての適切な診断を受けることなく28歳で精神病院へ。入院は5年に及ぶが、退院時の姿は変わり果てていた。
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