科学哲学
サミール・オカーシャ
廣瀬 覚 訳
直江 清隆 解説
輝かしい成果を上げ,現代社会を動かす科学の営み.だがそもそも〈科学〉とは何だろうか.本書は,科学的方法の特徴についての考察や,生物学や認知科学の基礎にある哲学的問題,パラダイム論や科学万能論をめぐる論争など,考え方の基本から科学哲学の前線のテーマまでをバランスよく概観する.予備知識無しで学べる1冊.
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岩波書店〈1冊でわかる〉シリーズ で、この手のものは書くのが難しい。クーンのパラダイム、カール・ポパーの話などと、現代の科学の状況を解説するのだろう。とくに生命倫理などはホットな科学哲学論争がある。
科学の内部にいると、クーンも、ポパーも、分かるけれど、科学の成果を相対化するのも、無理があると思う。科学の成果は、現実に人間の生活を変えてしまう。キリスト教が2000年かかってここまで来たが、電気の発達は激しく人間を変えたし、自動車も大きく変えた。コンピュータのおかげでみんな寝不足で、みんな仕事に追われうつ病になっている。哲学者は何か言っていればいいが、実際に食べるものは遺伝子操作による作物で、病気になれば、万能細胞から作った臓器の移植を希望するだろう。その現実の威力を知る立場で、しかも、それを思想的に相対化することは、かなり難しい。クーンもポパーも偉いと思うし、作文ならいくらもできそうだけれど、現実の問題を治療してくれる人はもっとありがたいと感じる。
虫歯を治してもらって、しみじみありがたいと誰しも経験があると思う。虫歯の痛みの前には、パラダイムも、科学哲学も、無価値だと思ってしまう。価値があるのは、論文を量産できることだろう。科学はしばらくは人間にとっての、セントラル・ドグマであり続けるから、それについて語り、批判することは商売になり続ける。
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〈1冊でわかる〉シリーズ にはハバーマスとかカフカとかがあり、読み始める前に、概略の見取り図を手に入れておくほうが理解が早いと思う。
シリーズの中に、
狂気 ロイ・ポーター 田中 裕介,鈴木 瑞実,内藤 あかね 訳 鈴木 瑞実 解説
神ないし悪魔のしわざとされた古代から,精神分析と抗鬱剤の現代まで,西洋文化の歴史の中で狂気は驚くほど多様な扱いを受けてきた.どのような人間が「狂った」と判断され,原因は何に求められたのか? 治療や保護はいかになされてきたのか? そもそも狂気は社会が捏造した産物にすぎないのか? 社会史の第一人者がたどる狂気の歴史.
という本がある。
鈴木 瑞実氏とは一時期同じ場所で勉強していた。
ミシェル・フーコーの本「狂気の歴史」や一連の書物を読む前に、一読しておけば、少しはいいかもしれない。