年をとってきて
だんだんよれよれになってきた
道を歩いていて自分の姿が鏡に映ると
驚いてしまう
老人である
そこでまず姿勢を良くすることを考えた
背筋を伸ばして胸を張りあごを引く
歩行も正しい感じで歩く
ダンスの呼吸である
しかしそこでまずつまずいた
人生で姿勢が良かったことは一度もなく
頭と口の悪い祖母にさんざん言われたものだった
いままで一度もできなかったことが
いまさら出来るはずはないのでやめた
猫背の方が本を読んだりするには好都合で
講義などで人の話を聞くときにも好都合である
姿勢が悪いおかげどうか、肩はこらない
猫と寝ているし猫背もしょうがない
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次に服装を「ばりっと」しようと考えた
男性の場合はあまり考えなくても
スーツを着れば良いだけなので難しくない
ネクタイをすれば少しはましになる
銀座のスーツ専門店に行けばいいし
新橋には量販店もある
アドバイスを取り入れてピンクのシャツも良い
新宿の伊勢丹のメンズに行ってまとめて買えばいいのだけれど
その伊勢丹でも外資系金融マンや不動産紳士好みのブランド品が
売れなくなってしばらく経つというので
そのくらいの不況ということになるらしい
若い頃にはスーツや白衣が似合うといわれた
軍服を着ていた昔だったら軍服が似合うといわれたかもしれない
そう思うと憂うつになる
似合わない方が自分らしいと思う
結果として、これもあきらめた
もともとネクタイの意味が全く分からない
スーツは頻繁に洗濯する気にならないので
すこしだけ不潔な感じがする
「ばりっと」していなくてもいいから
清潔な方がいいし
無意味なものは付けたくない
祖母はネクタイを「イカ」と呼んでいた
ネクタイが感染の元になると言うので
ネクタイの必要のない白衣がいいといわれている
ネクタイをするのなら洗濯をしてアイロンをかける
胸元を大きく広げて金のネックレスをして
少し日焼けしてというのも
ファッションだけれど
もちろん似合わないのでだめ
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他に出来ることは
3ヶ月くらい伸び放題の髪の毛である
老人になったけれど髪の毛だけは良く伸びる
白髪も多いので伸びると目立つ
白髪と黒髪は伸びる速度が違うのかどうか
なんだか白髪が全体に外側にはみ出てくるような気がする
白髪の方が硬いのかもしれない
思い切って1000円の床屋に行って10分で切ってもらった
最近で一番おおきな出費である
帰りにトイレによったときに鏡を見たけれど、
特に代わり映えもしない
妻がいなくなって食事が貧しさの極致なので
顔にも張りが無く
しなびているからなのだろう
このまま栄養が悪いと早く死ぬだろうと思うが
栄養不良で放置している妻には罪がないのだろうか
合法的な長期的な寿命圧縮のような気がする
年をとってから別居すると
男は早く死に女は長生きすると言うから
妻にとっては合理的な選択なのだろう
同居しないということは
早く死ねというメッセージなのだと思う
それとも浮気を公認するというメッセージなのだろうか
この局面で浮気をすることは自分の命を守る正当防衛のような気もする