古いうつ病と新しいうつ病

ハッブル宇宙望遠鏡を宇宙で修復するということになっているらしい

それで思い出したのだが
ドイツと日本の精神病理学は世界の中でも非常に先進的なもので
DSMなんていうものは野蛮人のものなのだということを
説明してみたい
宇宙望遠鏡で考えたことだが
現在我々は星空を見上げて
惑星と恒星は動きが全然違うことを知っている
それは惑星は太陽系の内部の話なのだし自分では光らない
恒星はそのずっと向こうの話で自分で光っていて太陽よりずっと大きいものもあるし星雲などもある
そんな我々の前に
星空のことを世界的に研究するからいうことを聞け、
まず夜に空にあるものが星だ
その一つ一つについてデータを集めて統計処理をする
大切なのはエビデンスでそれも蓄積してきたらメタ解析などしてみよう
なんていう野蛮人が現れたとする
どこまで戻るんだよ、とため息が出る
ドイツ・日本精神医学にとってアメリカ精神医学はこんな感じ
DSMはこんなもの
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うつ病について「診断基準」という途方もないものがあって、
二週間以上のなになになどと並んで全部で7つのうち何個以上ならなになにとか言っている
診断基準というものは実際には
病理標本の裏付けがあり、
病理所見を実際に理論上も忠実に反映する臨床上の所見を過不足なくあげて成立するものである
現在のうつ病の「診断基準」はまったくそのようなものではなく
土台、うつ病の本質が分かっていない
夜空にあるものはみんな星だなんて言うものだから
失恋してもうつ病だし、子どももうつ病になるというし、上司に怒鳴られればやる気がなくなってうつ病となり、
診断学上の退化なのである
そこまで退化するのかと思うが
それが政治力であるから仕方がない
うつ病の本質を提示できない以上
あとは政治力なのである
普通に考えてうつ病研究の予算を一番多く出している国の研究者の発言が尊重される
最近ではうつ病の病前性格とうつ病について従来関係あると言われてきたものが
本当は関係ないのではないかと言われたりする
うつ病とは何かの定義が変化しているのだから
病前性格が取り残されてミスマッチになるのも当然と言えるだろう
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何だか出し惜しみしているようになったけれど
うつ病というのはどういうものかといえば
たとえば、あなたは次のどちらをうつ病と思うだろうか
1.会社ではいじめられ、妻には邪険にされ、子どもは不良になり、借金が返せなくなり、親は難病になり、
これだけ不幸が重なれば、「うつ病」になるのも当然ですね。という言い方での「うつ病」はうつ病だろうか。
2.普通は、会社で部長にその程度のことを言われたくらいで、そんなに落ち込むなんておかしいですね。
あなたのこれまでの人生で言っても、もっとつらい試練もあったわけだし、それは乗り越えているわけだ。
それなのに今回は非常に落ち込んでしまい、どうもつらい状況からだけでは説明できない。だからうつ病だ
という場合の「うつ病」はうつ病だろうか。
最近の診断学は1.である 説明できる、共感できる、だからうつ病だというのである。
昔の診断学は2.である 了解できない、共感できない、だからうつ病だというのである。
両者は逆であるように見える。
つらいことがあって落ち込むのはうつ病ではない。正常反応である。
その人の人生全体をたどり、このような遺伝素質を持った人がこのような人生を歩んできた、
そして今日がある。
その人が、今回、これだけのストレスにさらされた。
そしてこれだけの抑うつ反応を呈している。
これは当然考えられる自然な反応だろうか、
それとも、うつ病の成分が混入しているだろうか、と考える。
その人の人生全体をなぞって考えても
やはり過剰な抑うつであるという場合に古いうつ病である
その人の人生全体を土台にして了解しようと思っても
なお了解しきれないものが古いうつ病の成分である
ストレスを横軸に、抑うつ反応を縦軸にとると、
ストレス.JPG
ここにある青の矢印分がうつ病による抑うつ成分ということになる。
引っ越しうつ病とか昇進うつ病については何となく分かりやすい
本当は喜ばしいのにどうしてそんなに悲しいのか分からない
だからうつ病だろうというのである
これは古典的にうつ病の定義によく合う
失恋して悲しいのは分かるけれど、
落ち込み具合がそれ以上だ、
あいつはナイーヴなたちだからとは思うけれどそれを考え合わせても
はやり説明しきれない
うつ病か何か別のものか要因があるのではないかと考える
うつ病の分だけ、差が出ていると考えるのである。
その、普通の抑うつ反応では説明しきれない成分がうつ病である
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ここまで話は進んでいたのに、
ストレスが続けばうつ病になるでしょう
というところまで退化してしまうのは
やはりよくないのだと思うが、どうだろうか。
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わかりにくいですか?
わかりにくいなら分かるように書き直しますね。
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  古いうつ病  新しいうつ病  もっと新しいうつ病 
 病態レベル   精神病  神経症  性格反応
 現実把握  ズレがある  ズレがない  ズレがある
 原因  脳  ストレス  自己愛性性格
 特徴  疲労の延長  
 了解  不可能  可能  不可能
 妄想  あり  なし  なし
 別の言い方    ストレス反応  自己愛性性格反応
       
       

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うつ病になったのでハワイに行ってきますという場合。
評価する人の頭の中にどのような判断基準があるかが問題。
1.「うつ病になったのでハワイに行ってきます」なんて信じられないし、
どう考えても分からないという人(A族)にとってみれば、
それは了解不能だから、精神病の一種ということになる。
2.「うつ病になったのでハワイに行ってきます」というのも分かる、
了解可能と感じる人(B族)が判断するとすれば、
それは了解可能であるのだから、反応性の病態ということになる。
A族とB族の間には共通の言語がない。
A族にとっては了解可能の領域は狭い。B族にとっては了解可能の範囲は広い。
結局のところ、どちらの場合でもそれぞれにとっての「うつ病」ということになる。
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その人の身になって了解しようとしても、なお了解しきれないうつ成分があるという場合、
昔の意味で言ううつ病である。
難しいほうのうつ病と言っていってもいい。
簡単なほうのうつ病は、憂うつで興味がなくなって二週間以上、そして意欲がない、食欲がなくて不眠、そんなところ。
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「憂うつです」と快活に語る
「興味がわかないんです」とうつ病について大いに興味を示している
「判断力がない」と断定的に判断している
「食欲がない」と顔色も良く充実して太っている
「上司がいる限り意欲がわきません」と意欲満々に批判する
「疲れたので休みたいんです」と精力的に説明する
「元気がないと言われます」といつまでも元気に話し続ける
「いつも人に気を遣っている」とあとに待っている人のことを考えない
「几帳面です」とでたらめな字を書く
このような批判は世間には受けるが
専門家としては重視しない
そのもう一つ奥にあるものを診て診断している
不随意運動成分が問題なのだ
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「誰でもかかる心の風邪」という言い方だと
たぶん了解不可能部分はないということになるのだろう。
でも了解不可能部分がないとただの疲労なんだけどな。
ぶつぶつ。