20代で言語スキルが高い人はアルツハイマー病になりにくい
若い頃に言語能力が優れていた女性は、アルツハイマー病に特徴的な脳の変化が認められる場合でも、アルツハイマー病を発症しにくいことが明らかにされた。このほか、アルツハイマー病の症状のない女性の脳には大きなニューロンがみられることが判明し、米医学誌「Neurology(神経学)」オンライン版に7月9日掲載された。
研究著者である米ジョンズ・ホプキンス大学(ボルティモア)のDiego Iacono博士によると、アルツハイマー病を示す所見であるプラーク(老人斑)および神経原線維変化を、この大きなニューロンが補っている可能性があるという。また、この知見から20代前半の言語能力が、後の認知症リスクを示す予測因子となることも考えられる。男性を対象とした過去の研究でも、脳にプラークや神経原線維変化があるがアルツハイマー病の症状がない人では大きなニューロンが認められている。
今回の研究では、Nun Study(尼僧を対象とするアルツハイマー研究)に参加し、死亡した尼僧38人の脳を調べ、記憶障害があり、脳にプラークおよび神経原線維変化のみられたグループと、脳の所見の有無にかかわらず記憶障害のなかったグループとに分けた。被験者が10代後半から20代前半で最初に修道院に入ったときに書いた小論文を分析して、10語当たりの発想数などから言語スキルの豊かさを評価した。その結果、記憶障害のなかった女性は、症状のあった女性に比べて、言語テスト(文法を除く)の成績が20%高いことが判明した。
脳内に一定量の病理学的所見があるにもかかわらず、認知機能が正常な人がいることは驚くべきことだとIacono氏はいう。予防機序があるはずで、それが遺伝的因子によるものか、20歳前後までの学習量によるものかはわかっていないが、今回の知見は20~30歳前から認知面の予備力が蓄えられ、高齢になってからこの予備力を使うことによって認知症の徴候が現れるのを避けることができるという「認知的予備力(cognitive reserve)」仮説に一致している。
今回の論文ではこのほか、APO(アポ)E4遺伝子をもつ人は認知障害のリスクが高く、APOE2をもつ人は予防効果があることが明らかにされた。著者らは現在、言語能力とこのような特定の遺伝子との関連を検証しているという。
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「認知的予備力(cognitive reserve)」仮説の話