非定型うつ病最近増加

<うつ病>非定型が最近増加 感情の起伏激しく 対応は
7月31日11時57分配信 毎日新聞
 ◇感情の起伏激しく--ささいなことで落ち込み/好きなことでは気分改善
 ◇仕事は続け、規則正しい生活や運動を
 外資系証券会社で働いていた女性(31)は入社2年後、出勤前になると体が重く、休みがちになった。きっかけは上司に言われた「最近、仕事が遅いぞ」の一言だった。友人や同僚との飲み会は楽しいが、上司の評価が気になり、誰かのささいな一言で激しく落ち込む。寝ても寝たりなくなり、パークサイド日比谷クリニック(東京都千代田区)を訪れた。
 「『こころの病気』から自分を守る処方せん」(毎日コミュニケーションズ)の著者で同クリニックの立川秀樹医師は「非定型うつ病の典型例」と話す。クリニックではここ数年、同じ症状で受診する20~30代の女性が増えているという。
 うつ病は大きく(1)メランコリー型(2)非定型(3)その他(季節性、産後など)に分類できる。うつ病と聞いて一般的に浮かぶタイプは、食欲不振や不眠などの症状が著しいメランコリー型だ。対照的に、非定型は過眠や過食が多く、ささいなことで急に落ち込むが、自分の好きな事では気分が良いなど、感情の起伏が大きい。
 メランコリー型とは違う薬が効くうつ病として半世紀前に認識されたが、世界的な診断基準に明記されたのは94年。「単なるわがままとも受け止められ、医師の間でも病気という認識が広まらなかった」と立川医師は解説する。
 患者の特徴として「幼少期に満足できる愛情を受けられず、自信がなく不安が強いタイプと、親の過保護の下でストレスなく育ち、社会に出て落差につまずくタイプが多い」という。近年目立ってきたのは「現代は、IT(情報技術)が浸透し、顔を合わせたコミュニケーションが少なくなっている。こうした社会の影響も及んでいるのではないか」と話す。
 冒頭の女性は抗うつ薬や感情調整薬を服用し、何事も極端に否定的にとらえる考え方を改めるような「認知行動療法」を行った。転職を繰り返しながら昨年末には国内の証券会社に就職し、今は通院しながら仕事を続けている。立川医師は「メランコリー型は休職も必要だ。しかし、非定型の場合、多少つらくても頑張って仕事に行き、規則正しい生活を送ることが重要。周囲には優しい言葉で接してほしいが、本人が悪い場合はきちんと指摘し、時には励ますことも大事だ」と話す。
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 NPO法人「不安・抑うつ臨床研究会」代表の貝谷(かいや)久宣医師は「非定型うつはパニック障害と併発したり、その後に症状が表れることが多い。パニック障害の増加に伴い増えているように感じる」と話す。自らの診察経験では「うつ病患者の約4割が非定型ではないか」と推測する。
 非定型の人は、対人関係で拒絶されたと感じると、過敏に反応してしまいがちだ。例えば上司に「この文章を少し直して」と注意されただけでひどく落ち込み、社会生活に支障をきたす。夕方以降に激しい不安や孤独を感じ、涙が止まらなくなったり、リストカットなどの行動に出る人も多い。この「不安・抑うつ発作」の時に、過去に傷ついた経験などがよみがえることもある。
 どんな治療が効果的なのか。貝谷医師は非定型うつ病の人とそうでない人に同じ作業を行ってもらい、思考の中心となる前頭葉の働きを調べた。すると、非定型の人は血流があまり増えないことが分かった。このため「前頭葉の働きを高めることが有効と考えられる。認知行動療法に加え、運動や腹式呼吸をする瞑想(めいそう)なども効果的」という。