また会うために

あたしが自分の人生のために活用できるリソースは限られている
この頭とこの体しかない
家柄悪い、友達いない、親戚あてにならない、コネはない、
習い事はしたけれど特殊な才能はなく、学校の勉強もスポーツも普通程度。
どうやって生きていけというのかと思ったけれど
あたしは少しかわいい。
おとうは潰れそうなスーパーの魚の仕入れ係。おかあはやはり潰れそうな会社の経理担当。
どちらに似ても、この先の人生は暗い。
キャバでバイトしたら結構評判よくて何だかちょっとだけ成り上がり双六みたいでいまは銀座8丁目勤めだ。
お客は大企業社員が集団で来て宴会をやって帰って行くのが多い。
だからあたしもお姉様方の末席に連なってお勉強中だ。
お肌の張りとぷりぷり感が自分としては売りだと思っている。
いやな奴と言えばマネージャーがそうで、あたしをスカウトしたんだけど、
自分の女とか思っているのか知らないが、月に一回か0.5回くらいつきあわされる。
この間、いつもの大企業さんの若い子から誘われた。あたしはお店でしかつきあわないと決めているから、何とか傷つけないように言い逃れをするんだけれど、この子はなんだかナルシスナルくんのようで、思い込みが激しすぎる。お姉様方はこのあたりはさすがに上手いのだけれど、あたしはまだそこまでのテクニックはない。
と思っていたらラブレターだ。
また、会えるといいね
嘘ついて、ごめんね
彼女が、できたというのは、嘘
あなたの気を、引きたかったんだ
許してくれる?
許してくれるなら、もう一度だけ、会ってもらえないかな?
もし、会えたら、とびっきり、やさしくするからさ
もう、あなたに、会えないなんて、考え出したら
わたしの気が、めいってしまいそうで
この人ナルくんで「わたし」なんて言ってるし。彼女ができてもできなくてもあたしは全然気にしないし、第一そんなことであたしの気が引けるはずはないし、とびきりやさしくするなんて意味も分かんないけど、そんなこと全然して欲しくないし。あんたの気がめいるから、あたしが会ってあげなくちゃならないなんて、全然もう話が逸脱してませんか?ただお店に通って欲しいんだけど。そのためにもしっかり稼いでね、坊や。あなたは先輩方のご機嫌取りは苦手な様子。
あたしと会うことなんか簡単だよ、ちゃんと稼いでお小遣い貯めて、プレゼント持って、会いに来たらいいじゃない。あたしはきちんといい気分にしてあげるよ。あたしのきれいを見せてあげるわ。ゴルフも始めたし、コースに誘ってくれたら行ってあげてもいい。
とまあ、こんな感じのことを無駄話で話していたら、お姉様の一人が、みんな最初はそんな意気込みよ、でもそのうち寂しくて、誰かに頼りたくなったり、誰かに頼られたくなったりするの、それでややこしいことになって、結局みんな同じようなコースなのよ、時間が経てばすべての特殊は普遍に変化するのね、なんて言っている。この手紙の人、悪い人じゃないよ、経験は少ないかも知れないけど、誰でも最初はそうでしょう、少なくともこの人は、まっすぐな気持ちだと思うな。こんな人が最後はいいんだよ、一緒の年をとるにはいいんだよ。そんなことも言う。
そうか、そうなンだ、こうしているうちに次の展開を考えなくちゃ。あたしは歌が好きで自分で作詞作曲できるしレコーディングして自分でCDを作れるからその線でしばらく幸運を待つことにしよう。
自分では全アジアで通用するロメディラインだと信じている。