セレギリンのドーパミン代謝抑制作用
ドーパミン代謝の第一段階は、3位水酸基のmethoxy化と、アミノ基の酸化的脱アミノの2方向がある(図1)。酸化的脱アミノ反応を触媒するモノアミン酸化酵素(MAO)はMAO-AとMAO-Bに分類され(表1) のMAO-Bはセレギリンにより阻害される。ノルアドレナリン、セロトニンはMAO-Aで,ドーパミンはMAO-A、MAO-Bの両酵素で代謝されるが、線条体ではMAO-B活性が優位に存在するため、線条体におけるドーパミン代謝はセレギリンにより抑制される。
なお、セレギリンは1mg/kg以上の高濃度ではMAO-A, MAO-Bの両酵素を阻害する。高濃度のセレギリンでcheeze effect(高血圧発作)を引き起こすことがあるのは、MAO-A阻害によりノルアドレナリンの分解が抑制されるためで、常用量のセレギリンではその恐れはない。
セレギリンのその他の抗パーキンソン作用
症候上の抗パーキンソン作用に関わるセレギリンの作用として、ドーパミンの代謝抑制作用の他に、神経活動に伴うドーパミンの遊離亢進、神経終末へのドーパミン再取り込み抑制などがあり、これらの作用によりシナプス間隙におけるドーパミン濃度の上昇と持続を高めている。
セレギリンはニューロン興奮に伴う神経終末からのドーパミン(DA)遊離を高め、MAO-Bによる酸化的脱アミノ反応を阻害し、再取り込みを抑制する。結果としてシナプス間隙でのDA濃度を高く持続させる。DCはDAの代謝物である3、4-ジヒドロキシフェニルアセテート(3、4-ジヒドロキシフェニルアセトアルデヒドから自動酸化で生じる)。Xは阻害部位
◆セレギリンの体内動態
セレギリンの消化管からの吸収や脳への移行はきわめて速く、その脳内分布はMAO-Bの活性が高い視床、線条体、大脳皮質、脳幹などに高い。またセレギリンはチトクロームP450(2D6と3A4)によって、主にデスメチルセレギリン、L-アンフェタミン、L-メタンフェタミンに代謝される。デスメチルセレギリンはセレギリン同様MAO-B阻害作用を有するが、L-アンフェタミン、L-メタンフェタミンの作用は覚醒剤であるD-体の約10分の1であり、ヒトへの投与量では抗パーキンソン作用には寄与していないとみられる。
◆セレギリンのMAO-Bを介した神経保護作用
近年、セレギリンの神経保護作用に関心が集まっている。パーキンソン病における神経変性機序に関する仮説の一部に、フリーラジカル説や神経毒素説があるが、いずれの説でもMAO-Bによる酸化が細胞障害機序に重要な役割を果たしており、セレギリンはその活性を阻害することで細胞変性を抑制している可能性が考えられている。
・フリーラジカル説:ドーパミンがMAO-Bにより代謝される際に発生する過酸化水素から、非常に反応性の高いヒドロキシルラジカルが形成され、細胞を障害する説
・神経毒素説:1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6- tetrahydropyridine (MPTP)などのドーパミン神経毒素の存在を仮定し、MAO-Bがこれらの毒素の活性化に寄与するとする説
◆セレギリンのMAO-Bを介さない神経保護作用
・SOD誘導作用:ミトコンドリアおよび細胞質に局在するSODを誘導し、フリーラジカルを介した細胞障害機序に対して保護的に作用する。
・アポトーシス抑制作用:黒質神経細胞死がアポトーシスによるとする説は有力であるが、MAO-B抑制作用の出現しない低容量のセレギリンによりアポトーシスが抑制される。
・神経栄養因子産生促進作用:動物実験や培養細胞を用いた実験では、セレギリンがグリア細胞を活性化させ、神経栄養因子の産生を高めて細胞保護的に作用する。
セレギリンの神経保護作用に関する実験データは多く、それらは必ずしもMAO-B阻害作用によるものではない。セレギリンによる神経保護の機序が解明されることにより、新たな神経保護薬が開発される可能性もあると考えられる。