国際プロジェクトの必然性

国際プロジェクトの必然性
医療法人社団北原脳神経外科病院 理事長 北原茂実

■今こそ立ち上がるとき-世界の現実を知ろう
■日本の医療を皆保険の呪縛から解き放て
■医療・介護は見方を変えれば国を支える基幹産業、戦略産業である
■海外進出が我々にもたらすもの
■高齢化社会の未来は明るい
                                                              
■医療法人法の問題点-利益を上げない組織が本当に世のため 人のためになりうるか


■今こそ立ち上がるとき-世界の現実を知ろう  医療の海外展開は世界の潮流

 医療崩壊が言われて久しいわが国ですが、その原因の最たるものは実は「鎖国」です。

  鎖国の意味は、単に患者や医療者・医療サービスのやりとりを国が制限していることにとどまりません。海外の現状を役人もマスコミも見ようとせず、欧米の医療・医療制度がさも優れているかのような錯覚を国民に持たせて、日本の医療・医療者を悪者にすることによって医療費抑制を図ろうとしていることを指します。

 その浅い似非正義感によって、もくろみ通り医者の地位・収入はさらに低下し、 総医療費は減るかもしれませんが、国民に訪れるのは1億総医療難民化、医療パニックといっても過言ではありません。

 どの先進国も寿命が延びて子供を生まなくなった昨今、世界は医療・介護についても安い人件費を求めて、めまぐるしく流動化しています。

 日本もイギリス型崩壊路線を歩めば(このまま手をこまねいていれば最も類似してくるのはこのタイプです)、日本に命を預けられるようなまともな医療者はいなくなり、国がどんなにがんばってもアジアからの移民がどんどん入ってくるでしょう。

小金持ちの患者はタイ・韓国・ 中国に行くかも知れません。その片鱗は右のサイトを開いてもらえばわかります。

 もう、この辺で日本の医療者自らが国際化に向けて立ち上がらなければどうしようもないところまで来てしまっているのです。

1) 韓国の実情
ついに国家プロジェクトが成立
株式会社が巨大な病院を運営
技術を開発すると同時に効率化を達成


ウリドゥル病院
日本人患者様用 椎間板ヘルニア
施術パッケージ(2泊3日)80万円

2) タイ、シンガポールの実情

医療ハブが120万人を超える外国人入院患者を確保
⇒一大輸出産業に

Bumrungrad病院
phukethospital

3) フィリピンの実情
出稼ぎ医療労働者が外資を稼ぐも国内医療は崩壊
類似の現象はアフリカ諸国にも 

 

イギリス医療供給体制の崩壊
外国人医師・看護師に頼らざるを得ない現実

4) あまりにも資本主義に忠実なアメリカ
その格差をまねる中国

アメリカ:個人破産の半数は高額な医療費が原因

医療を戦略産業と捕らえるキューバ
お金が無いなら知恵をだせ!

■日本の医療を皆保険の呪縛から解き放て
 時代の変化を受け入れよう、問題があるなら何かを変えよう、という動きは必然です。しかし、多くの日本国民や医師会がどうしても固執し、それを守らんがために却って泥沼にはまってしまっているもの、それが「国民皆保険制度」です。

 これが、良い働きをした時代は終わりました。右の図を見るまでもなく、使う人より払う人が少ない保険が成り立つわけがありません。

 今後老人化する 団塊の世代は一学年240万人、対する小学生は一学年120万人、介護も医療もお金・人材ともに間に合うわけがないのです。そして、進む貧富の差、階層化。若者もニートやフリーターが増えて、保険料を払えなくなっています。

 事実、東大阪市では健康保険未加入者は26%に及びます。それなのに、国民の意識は古きよき時代のままです。行き場のなくなった老人患者を、お金も払わずに病院に押し付ける息子・娘の姿は今、日本全国で珍しくありません。

 そして、保険料さえ払っていれば、どんな要求も通ると考えている患者も増えました。高度化・高額化する医療サービスを従来の感覚で当然のように手に入れようとする国民意識を今変えなければ、日本は本当につぶれます。

 パチンコや、葬式、アウ
トレットモール、ディズニーランドにはお金を惜しまず落とすのに、何よりも大切な命に出し惜しみをすることの愚を、悟るべき時がきたのです。

 
■医療・介護は見方を変えれば国を支える基幹産業、戦略産業である

 これまでイスラエル製品が多かったジェネリックは最近インド製が非常な勢いで伸びています。とうとう日本のメーカーでインドの会社に買収されるところも出てきました。

 一見国産の機器・材料も、生産拠点を中国に移していたり、部品のほとんどをカンボジアで作っていたり、もはや完全輸入産業化しつつあるわが国の医療。起死回生の対策は、単純な製品ではなく技術や制度の輸出しかありません。

 実は、日本の医療費は欧米のみならず北京やバンコクに比べても低価格。MRI一つとっても撮影料は日本のほうが安いのです。

 優れた医療技術、患者に対し平等にていねいに接する態度、間違いが少なく行き届いた管理、こういった日本に居れば当たり前のように思っている医療者の素晴らしさを、システムごと輸出すれば海外に高く評価され喜ばれるのは確実です。

 これまで莫大な費用をかけてきたODA、しかし人を送らずその後のめんどうを全く見なかった政府と国内大手医療機器メーカーの罪は重大です。どこの国も日本製品を買わなくなりました。お役所の常で、誰も責任をとろうとしませんが、考え方さえしっかりしていたら、今、原油高に悩む日本ではなかったかもしれません。

 今後は、同じ轍を踏んではいけません。相手国・人々に喜んで買ってもらえる製品のみならず、技術とサービス、信頼を輸出していきましょう。そして、医療福祉がお荷物の立場から外貨を稼ぐ戦略産業へと変わっていかなくてはならないのです。
 


■海外進出が我々にもたらすもの

 今、当法人は中国を足がかりとして、アジアを中心に海外進出の活動を開始しました。

 具体的な案としては、在留邦人向けの診療所から始まり、大手私立病院との提携、新規リハビリ施設の開設、現地病院への医療コンサルなどです。

 活動が実を結べば、利益は一法人の自己完結に終わらず、日本の医療を関係者みんなが、現実を見つめなおすきっかけを作ることでしょう。

 また、相手国との良好な関係は真の民間外交になるに相違ありません。事業が成功すれば、一部の富裕層のみならず、アジアの一般的な人々を手助けすることもできるはずです。

・海外の現実的情報が広がることにより、医療を「限りなくタダに近いもの」と思うとんでもない間違いにみんなが気がつく

・日本の医療の良い部分を世界に広げることができる

・医療を産業としてとらえることにより、日本は外貨を稼ぎ、国内外に雇用が生まれる

・各国が高齢化社会を支えるための、知恵と得意分野を出し合える

・時代遅れになった国内の医療制度の改革、自由化、公平化を図れる

■高齢化社会の未来は明るい
 日本の上空をおおう閉塞感、その正体は“自立して人の役に立つ喜び”を見出せない人、奪われた人のなげきです。

 バングラデシュのNGO BRACをご存知でしょうか?貧困層にお金をばらまいても、何も生まれません。自立して稼ぐことにこそ喜びがあり、生きる意欲がわくのです。

 日本の高齢者は、今後自力のある生産消費者として社会を支えるべきです。 医療・福祉の市民運営化・国際化はその第一歩となるでしょう。

 日本の未来は明るい、と私は信じて疑いません。

 

施しは感謝や満足を生まない
   -コンプレックスの裏返しとしての開き直りやつけあがりを生むだけ

・ 「明るく楽しく前向きに」、「独立自尊の精神を」、が国を救うキーワード

・日本の老人は世界より15歳若い!

・供給者と受給者の垣根をなくす-国際化は助け合いと自立を育む

■医療法人法の問題点-利益を上げない組織が本当に世のため 人のためになりうるか

 さて、「稼いでこそのやりがい、誇り、社会貢献」ですが、この考えと真っ向から対立するのが医療法人法です。これがあるがために、病院は企業としての自覚と主体性をなくしてきました。

 病院は利益をあげてはならない、この考えを曲解したのかほとんどの公的病院では赤字経営です。しかし、赤字経営の組織がはたして人々に満足の行くサービスを提供できるものでしょうか?

 これから、多くの病院が、IT化と同じくらいの必然性を持って、国際化に立ち向かわざるを得なくなるでしょう。そのときには医療法人法の改正が必要になってくるかもしれません。

 いずれにせよ、避けられない波をどう乗り越えるか?官民合わせた協力が必要になってくることでしょう。


医療法人社団北原脳神経外科病院 理事長 北原茂実

医療法人社団北原脳神経外科病院