「努力すればスキルが向上して上に昇れる」というのは幻想

「努力すればスキルが向上して上に昇れる」というのは幻想 

なんですよ。

まさか、面白い仕事とおいしい年収をもらえるポジションにいる人たちが、豊かな才能と地道な努力によってそれを獲得したなんていうインチキを信じている人なんて、まずいないと思いますけど、念のため補足しておきます。

夢のない話なんですが、実際には、どんなに努力しても、人が育ってポジションにふさわしい人材になるということはほとんどないんですよ。現実はその逆で、「ポジションが人を育てている」というのが実態です。

プロジェクトリーダーの能力を身につけるには、実際にプロジェクトリーダーというポジションにつけられ、プロジェクトリーダーの権限と義務と責任を持ち、それに適応するために悪戦苦闘するのが、圧倒的に能率がいい。

平社員というポジションのまま、プロジェクトリーダーの能力を身につけようと努力する場合の数十分の一の努力と、数十分の一の時間で、プロジェクトリーダーの能力を身につけられるんです。下積みの苦労なんて無意味なんですよ。

だって、プロジェクトリーダーになると、プロジェクトの目的、目標、方針、ビジョン、ロードマップを練り上げ、それに沿って、それぞれの部下の仕事の目的、目標、仕事内容、スケジュールを定義する作業をし、プロジェクトリーダーとして、経営会議に予算を要求し、目標とスケジュールを約束し、今後の戦略や具体的な施策についての質疑応答に答えるわけですよ。やってる仕事内容が、平社員と、ぜんぜん違うわけです。平社員が、平社員の仕事をしながら、プロジェクトリーダーの仕事を手伝うくらいで、身につけられるような薄いスキルじゃないんですよ。

だから、現実には、平社員としての基本スキルがある程度身についたら、目標とする仕事をするためのスキルを身につける地道な努力なんかしてる場合じゃなくって、さっさと自分のなりたいポジションを強奪する狡猾な作戦をたてて、実行しなきゃならない。そうしなきゃ、自分のやりたい仕事をできるようになるころには、ジジイorババアになってしまってるわけで。だから、それは、もう、きれいごとなんか言ってる場合じゃなくって、ちょっとでも隙ができたら、徹底的につけこまなきゃ、いつまでたっても下っぱから抜け出せないわけで。

たとえば、売れっ子のプロジェクトマネージャーが、たくさん案件をかかえすぎて、手が回らなくなっているなんて、よくあることで、そんなところを見つけたら、すかさず、腹の中で乗っ取りを企てる。たとえば、どれかのプロジェクトが問題をかかえているまま放置されていたら、すかさず、その問題を分析・整理し、解決策の案を3つぐらい作成して、それを簡単なドキュメントにまとめて、プロマネのところにもっていき、「どの案でこの問題を解決しましょうか?」って指示を仰ぐ。そして、プロマネがどれかの案を選択したら、それを実行するために、だれに、どのような指示を出すのかを考え、「じゃあ、それをやるために、この人にはこんな指示、こっちの人にはこういう指示でいいですね? 期限は、この日ということで、いいですね? じゃあ、プロマネから、そういう指示があったって、ぼくのほうから伝えておきますね。」というふうにやる。これを繰り返す。いくつものプロジェクトをかかえる売れっ子プロマネは、忙しいものだから、そのうちめんどくさくなって、そのプロジェクトにおけるかなり重要な意思決定まで、ほとんど任せっきりにするようになったりする。そうすると、そのプロジェクトメンバーへの指示だしは、どんどん自分が肩代わりするようになり、また、プロジェクトメンバーも、どんどん自分のところに相談しに来るようになる。それを繰り返すと、そのプロジェクトに関する重要な情報は、ほとんど自分が握れるようになり、その売れっ子プロマネは、そのプロジェクトに関する意思決定をしようにも、細かいところの感覚がいまいちわからず、逆に、こちらの方に、どのような意思決定をすべきか、聞いてくるようになる。そうなると、もう、どちらがリーダーだかわからなくなってくるわけで。

そのうち、「あのプロジェクトを実質的に動かしているのは、○○さんらしいわよ。」という噂が社内に蔓延し、それが会社の上層部にもつたわる。そして、その売れっ子プロマネに、さらに新しい案件がふってきて、そのプロマネがオーバーフロー気味になると、耐えられなくなって、「このプロジェクトの実質的なリーダーは、いま、この子がやってるし、もう、このプロジェクトのリーダをこの子に移管しちゃおうと思うんですけど。それが、この新しいプロジェクトをわたしが引き受ける条件です」などと上層部へ言いにいくというわけだ。

で、ほかにも、プロジェクト乗っ取りの手口はいろいろあるんだけど、とにかく、戦国大名のように、確信犯的に、計画的に、プロジェクトの乗っ取りをがんがんしかけて行くべきなんですよ。泥仕事を地道にやっていれば、おいしい仕事が回ってくるなんてウソは、絶対に信じちゃいけません。この世界では、こういう「たくらみ」を腹にもって行動するやつが、ずっと少ない努力で、ずっとおいしいポジションを独占するようにできているんですよ。

もちろん、安易に「努力さえすれば報われる」なんてことを信じてる人なんて、いないとは思うんだけど、人が育ってポジションにつくのではなく、ポジションが人を育てるのだというシビアな現実があるということすら知らない世間知らずなニート君がいる可能性もあるので、念のため、補足しておきました。