多国籍軍の空輸について違憲の傍論

伊東 乾氏の最近の文章から。2008年5月

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 自衛隊イラク派遣をめぐる集団訴訟の控訴審判決で、名古屋高裁(青山邦夫裁判長)は航空自衛隊によるバグダッドへの多国籍軍の空輸が「憲法9条1項に違反する活動を含んでいる」との判断を示しました

 行政は米国などの働きかけで、政治的動機から多国籍軍の空輸を続けたい。実際、今回の判決にも福田首相は「傍論でしょ」と空輸自体は続ける姿勢を示しています。しかし、原告団が国に損害賠償を求めた訴訟そのものは、国が勝訴していますから、国側から最高裁に訴える権利がありません。

報道によれば、原告側は上告しないということですので、今回の「違憲判決」は確定する見通しが高い。

今回の画期的な判決も、青山裁判長が今年3月に依願退職したため、組織内での今後に縛られずに下すことができたものでしょう。官僚機構の内在論理から自由に「司法の独立」を決然と守ることができたのだと思います。

 「傍論」ということで下級審を拘束することがなく、司法現場に残る同僚への影響も考慮されている、国は訴訟自体では勝っているから、文句を言うことができない…見れば見るほどよく考えられた判決だと思います。青山さんは歴史に貢献する判例を残して判事を退かれました。

今回の判決にはポイントが2つあります。

 1つは「自衛隊の活動は非戦闘地域に限られ、武力行使と一体化しない」という「イラク特措法」の規定に鑑みて、国際的な武力紛争の一貫として人が殺傷されモノが破壊されているバグダッドを「2003年3月当初のイラク攻撃の延長で、多国籍軍対武力勢力の国際的な戦闘が行われている場所」と認定して、そこへの兵員の輸送が自衛隊の活動が「国際的な紛争の解決手段として武力行使を放棄」した憲法第9条第1項に違反すると明言したこと。

 もう1つは、原告側が請求の根拠とした「平和的生存権」に関して「憲法9条に違反するような国の行為、すなわち戦争の遂行などによって個人の生命、自由が侵害される場合や、戦争への加担・協力を強制される場合には、(国=行政による)その違憲行為の差し止め請求や損害賠償請求などの方法により、(国民が)裁判所(=司法)に救済を求めることができる場合がある」との見解を示したことです。

 この第2の見解は、「平和的生存権」に具体的な権利性があることを初めて判示したものと評価されています。ボーダーレス化の進むグローバル社会で、個人の社会的な責任と権利を得る時、この意味は非常に大きいと私は思います。

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日米関係や安全保障外交について、「平和的生存権」の観点から国民が裁判所に救済を求めることができる可能性があるということになるのだろうか。
外交交渉や条約と憲法の関係はいろいろな議論がある。

いずれにしても、画期的らしい。