1.はじめに かつては精神病症状とうつ症状は病前性格や長期経過の点で同一平面上の対極的な事態と考えられていた。病前性格としては統合失調気質と循環気質が、長期経過としては完全に回復せずに欠損を残す統合失調症型のものと完全に回復する躁うつ病型ものとが対比されてとらえられていた。 しかし最近のとらえ方では、統合失調症の精神病症状と気分障害のうつ症状とは、同一平面上にあって境界線が引けるものではないし、同一平面上にあってなだらかな移行を観察できるものでもない。むしろ上下に重なっていて、同時に観察できるものと考えられている。さらに最近では精神病症状とうつ症状と不安症状とがそれぞれ別の次元のもので、状態により相伴うことがあるとする考えもある。その背景には、それぞれの症状に脳神経回路の中の、ドパミン系回路、セロトニン系回路、GABA系回路などを割り当てる考え方がある。それぞれが認知の回路、感情の回路、不安の回路などと考えられる。 長期経過で疾病分類をしたクレペリンも、状態像として精神病症状とうつ症状が重複することは記述していて、重複した場合に、統合失調症が診断として優先するものであると説明している。そののち、ブロイラー、シュナイダー、コンラート、グロスなど、いずれも精神病症状とうつ症状を同一平面上の対極的な症状と考えてはいない。むしろ、統合失調症が診断として優先されると論じている(針間、五味渕、2005)。 第一世代抗精神病薬で陰性症状によく対処できなかったことから、第二世代抗精神病薬では統合失調症における陰性症状あるいはうつ症状に対して効果的であることが強調された。第二世代抗精神病薬を第一選択として使用する現在では、精神病症状とうつ症状が伴うことにとまどいはないだろう(兼田、2005)。精神病症状を優先して基底の病理と考えるところまではいいとして、うつ症状が反応性のものなのか、あるいは統合失調感情障害としてとらえた方が良いものか、そのあたりの鑑別がむしろ問題となる。統合失調症治療の経過の中で生じる、陰性症状、精神病後抑うつ、抗精神病薬によるうつ症状、アキネジアやアカシジアによるうつ症状などの鑑別と治療については明解な論文があり、参考になる(宮田、2000)。精神病理学としてはいろいろな見解があり結論は得られないとしても、治療としては第二世代抗精神病薬を基本薬として使い、抗うつ剤を付加するかどうかの判断であり、ポイントは自殺を防ぐことである。 最近の話題としては統合失調症を発症する可能性の高い人を、精神病症状発現の前に発見し発病を阻止する取り組みがある。その場合にやはりうつ症状は頻度の高い症状であり、うつ状態があるだけで精神病症状がない場合に、統合失調症の可能性をどのような手順で考えるかが、重要になる。外来精神科クリニックでは精神病症状を呈する前の統合失調症に近い患者さんが数多くいるものと考えられるので、その鑑別を考えてみたい。
2.疫学データ 統合失調症の場合にうつ症状がどの程度の頻度で見られるかについては、それぞれの定義によるのであるが、通常の手順は各種評価尺度によって測定し、数値を出すものである。統合失調症に二次性のうつ症状が見られる割合は、精神病症状の定義についてはDSMやICD以外にもさまざま、うつ症状の定義もDSMのほかにHAM-Dその他さまざま、「精神病後」とはどの期間を指すかについても2ヶ月や1年から数年にわたるまでさまざまであるが、数値としては7から83%まで記載があり、おおむね30から50%程度の報告が多い(Buckley et al 2009、これはSirisらの研究をもとにしたものである)。精神症状後に病識が獲得されればうつ症状を呈することは了解しやすいので、治療がうまく行っていればむしろ一時期にはうつ症状を呈するという事情もありそうである。 統合失調症と自殺については、評価尺度によるうつ症状よりも数値がまとまりやすいが、自殺の統計は正確な数字が出ていない場合があるので、注意が必要である。統合失調症患者の自殺企図の生涯危険率は25から50%、統合失調症患者の4から13%は自殺により死亡、統合失調症患者の自殺のピークは発症後の最初の10年であると記載されている(Harkavy-Friedman et al1999,Mortenson et al 1997)。さらに最初の5年で高いとの報告もある。一般人口に比較して9~30倍といわれている。統合失調症でなくても若年者の死因として自殺が多いことにも配慮が必要だし、統合失調症の場合にうつ症状を呈して自殺するのか、精神病症状から直接自殺するのか、そのあたりは興味あるところであるが鑑別は難しい。
3.診断 自我障害、被害的幻聴、被害妄想などの精神病症状の発現後の時期で分けると、1.精神病症状と同じメカニズムで同時に発生するうつ症状。統合失調感情病と診断する場合もしない場合もある。2.精神病後うつ症状(PPD:Post Psychoyic Depression)。これは反応性うつ症状とも消耗性うつ症状とも解釈できる。両者を区別する立場もある。3.抗精神病薬によるうつ症状、これは第一世代抗精神病薬の高用量使用で見られたと報告があり、第二世代抗精神病薬でも見られることがあると言われている。4.アカシジアやアキネジアによるうつ症状様症状。5.残遺期の陰性症状。これは理念的にはうつ症状と鑑別できるはずであるが、必ずしも明確ではない。 一方、精神病症状発現前のうつ症状にも注目すべきである。発病前の介入により発病を阻止できる可能性がある。その中でうつ症状について述べる。 初診でうつ症状を呈している場合、うつ症状は統合失調症を否定しないし、甲状腺機能異常や副腎皮質ホルモン異常などの身体病であることもあり、認知症の始まりであることもあり、脳梗塞の症状であることもある。諸検査で身体病が除外されたら、年齢を目安にして、15から30歳ならば統合失調症と躁うつ病と性格障害の可能性、30-50歳ならばうつ病と躁うつ病の可能性、50歳以上ならばうつ病と認知症の可能性を考える。 統合失調症と感情病の両方の遺伝歴や家族の雰囲気は重要である。病前性格と病前の社会適応についてチェックする。対人距離の取り方は、その人の生来のドパミンレセプターの敏感さを反映しているだろう。敏感ならば対人距離を大きくとる傾向がある。 たとえばひとつのストーリーはこうである。その人は生まれたときからドパミンレセプターが過剰で過敏な性質であった。人と同じ体験をしても過剰にドパミンを伝達してしまい苦しいので、引きこもりがちになる。部屋にいて自然に読書に親しむようになる。成績は悪くないので肯定される。このようにしてドパミンレセプター過敏のままで成長し、過敏さを保ちながら、何とか破綻しないで生活する方法を身につけている。しかし思春期になり、異性に出会い、社会での自分を生きるので、「金、色、面子、健康」などを主題にして過剰なドパミンにさらされ、内面の危機に直面する。性的場面や社会的序列を意識する場面でドパミンは放出され、非常に軽いとしても、自我障害が発生する。 こうした場合に自我障害の発症前に、「超能力で他人に何かされた」「テレビで自分のことが言われている」「おかしな声が聞こえる」などの精神病様症状(発症の10年前くらいに、子どもにおけるPLEs:Psychoyic like experiences、またもう少し後のARMS:At Risk Mental State)を呈するのではないかと提案されている。発症予測についてはあまり精度が高くないとの反省もあるものの、参考になる。
1.治療・リハビリテーション ドパミンD2受容体仮説は1960年代からのもので、中脳辺縁系のドパミン神経過活動が陽性症状と関係し、中脳皮質系でのドパミン神経の抑制が陰性症状や認知機能低下と関係するとする説である。黒質線条体でのドパミン神経抑制はEPSの出現に関係している。第一世代のドパミン遮断薬は中脳辺縁系をブロックして陽性症状を沈静化するが、同時に中脳皮質系をブロックするので陰性症状は悪化し、黒質線条体系のドパミンブロックでパーキンソン症状が現れる。最近の第二世代抗精神病薬の例で言えば、ブロナセリンは中脳辺縁系ドパミン伝達を抑制し、中脳皮質系ドパミン伝達を促進するとの説がある。これは理想的なプロフィールなのであるが実際には期待通りには行かない場合もある。アリピプラゾールはドパミンシステムスタビライザーと言われているが、これもまだ臨床的評価の途中である。両薬とも従来薬に比較すれば、統合失調症の経過で見られるうつに対してはよい対策であると思われる。クエチアピンやオランザピンはMARTAと呼ばれることがあるように、ドパミンとセロトニンだけではなく、さらに多種類のレセプターに作用して効果を発揮するので、患者の特性に応じたものが見つかれば有効である。症状の消長だけではなくQOLを改善する観点に立てば第二世代抗精神病薬を活用し、錠剤数と服薬回数を減らす方針がよいだろう。 第二世代抗精神病薬を基本に使い、SSRIなどの抗うつ剤を加え、アカシジア、アカシジア、薬剤性パーキンソン症候群の場合には抗パーキンソン薬を使う。病理の見立てにより、抗精神病薬を増減するのだが、抗精神病薬がうつを引き起こすかどうかについては、結論は得られていない。しかし、抗精神病薬による悪性症候群は悪性カタトニアと似ているとの議論があり、悪性カタトニアは高力価ドパミン遮断薬の大量投与時に多い。そしてカタトニアの症状としては無動・無言、姿勢固定などがあり、うつと重なる。こうしてみると悪性症候群にならない程度の、マイルドなものの場合、カタトニアとうつは似たものになり、それがうつと診断されている場合があると思われる。その場合の対処は抗精神病薬の減薬、ベンゾジアゼピン高用量の使用、たとえばロラゼパム12~8㎎などの数字が挙げられている。カタトニアは従来、統合失調症の下位分類の一つとして言われてきたが、最近の調査ではうつ病に伴う場合が多いとの報告があり、重症の場合にはECT電気けいれん療法が推奨されている。現在は筋弛緩薬を投与し、麻酔医が呼吸管理をする無けいれん電気通電療法であり安全性が高いとされる。自殺衝動が強い場合や、拒食・拒薬が強い場合などに有効である。 自殺の危険を考えて抗うつ薬よりも気分安定薬としてバルプロ酸などの抗てんかん薬が使用されることがある。しかしFDAは2008年に抗てんかん薬自体が自殺をリスクを高めると注意喚起し、それに対してはアメリカてんかん学会でメタ解析の方法などについて異議が提出された。FDAの注意喚起とは次元の違う問題であるが、私見としては、量によっては意識覚醒状態に影響を与えることにまず注意すべきだと思う。そのほか、炭酸リチウムが推奨されている。 薬剤のアドヒランスを高めるためには漢方薬を併用するのも一法である。精神安定のために柴胡剤(柴胡加竜骨牡蛎湯や柴胡桂枝乾姜湯また加味帰脾湯など)を中心にして、気を補う補剤(補中益気湯や十全大補湯)を用いたり、また不安に対して半夏厚朴湯、女性の場合の生理周期と関係した不調に当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、桃核承気湯など、病期に応じて最適なものを調整する。 精神療法としては、病識回復にあたっての絶望と不安を受容することである。自殺について積極的に話題にし、些細なきっかけも見逃さず、必要があれば入院を勧める。デイケア、通所作業所などの精神科リハビリテーションでは、患者の回復に合った課題を提案し、役割と居場所を提供することで自尊心を回復させることができる。また家族と一時的に距離をとることができる。治療者の方が早足になってはならない。 認知行動療法としては、認知の暗黙の否定的構え(スキーマ)があれば、それに対して働きかける。患者・家族教育も大切である。自分が今回急性期に至ったきっかけを分析することで再発のパターンを知り、次回の増悪を予防する。また、統合失調症の長期経過を説明し、次の急性増悪の予防が大切であること、そのために継続的服薬が大切であることを理解していただく。一方、統合失調症に対しての早期介入が試みられており、その一部として学校でのメンタルヘルス教育が重要である。 また、一定のレベルダウンのあった患者さんには、SSTを用いて、日常生活に支障の少ないよう工夫する。社会に関わり、焦らず着実に治療を進めためには、家族の理解と協力が不可欠である。早い時期に家族に治療協力者としての役割を引き受けてもらう。各種の社会福祉制度の利用も大切で、年金や施設の利用、またベテルの会などの自助グループで患者同士が啓発し合うことにより深刻な抑うつから免れることができた例も多い。 統合失調症のリハビリにはジレンマがある。残遺期の陰性症状に対してリハビリを行う場合、治療者は再発・再燃と自殺を恐れるので、薬剤はなるべく維持しようとする傾向がある。ドパミン遮断薬を維持すると、ドパミンレセプターのアップレギュレーションが起こる。つまり、薬剤で蓋をしているけれども、実際のレセプター量は増えてしまい、潜在的な過敏さを作り出す。デイケアなどの場面においては、刺激はコントロールされているものの、生活刺激が増えることで少しずつドパミン放出が増える。そのなかで決意して服薬を中断したりすると、レセプターは増えていて同時にドパミンは増えているので容易に再発再燃に至る。治療者はそれに対してさらに薬剤を増量することがある。するとまた蓋をされるレセプターが増えて、レセプターのアップレギュレーションが起こり、潜在的な過敏さが増大するという悪循環が形成される。この悪循環を回避するには、まず薬剤を少し減らして、かつ、デイケアでの活動量を増やして、ドパミンレセプターのダウンレギュレーションを目標にしなければならない。しかしながら、薬剤を減量することも、活動量を増やすことも、再発再燃につながるので、慎重かつ細心のプログラムが必要であり、容易ではない。
5.病態仮説 ここでは統合失調症の特徴的な症状である自我障害について考えてみる。一般的に考えてみると、動物の神経系は「感覚器で刺激受容」→脳の処理(無意識に反応している部分)→筋肉の反応→現実の結果→「感覚器で刺激受容」というように現実と脳を両側においてループを形成している。これだけならば自意識は発生しない。自我の能動感という人間にとって極めて当然の経験を説明できない。 人間の場合、刺激を受容し、その出力としての筋肉の反応の間にまず「第一の世界モデル」があり、これは他の動物と同様であるが、さらにもう一つ脳内に「第二の世界モデル」を並行して発生させ、「第一の世界モデル」から出力された信号と、「第二の世界モデル」からの信号を、比較照合する。両者に違いがあれば「第二の世界モデル」を訂正することによって、一致させることができる。「第二の世界モデル」が「第一の世界モデル」を比較対照し転写する機能は、運動において小脳が大脳の運動信号を複写する様子に似ている。 「第二の世界モデル」からの出力と「第一の世界モデル」からの出力は、時間差があり、常に「世界モデル」からの出力が、比較照合部分に一瞬早く届くように調整されていると考えると、能動感や行為の自己所属感、つまり自我意識が生じると仮説を考えている(「時間遅延理論」)。たとえて言えば、二台の並列されたコンピュータがほとんど同じ結論を出すのだが、二つ目の、進化的に新しい方のコンピュータが一瞬早く結論を出して、古いコンピュータがそのあとに同じ結論を出す。それが能動感や自己所属感の本質であると考える。 人間は「第一の世界モデル」部分だけで生きて行くには充分であり、それは他の動物と同様であるが、「第二の世界モデル」部分があることによって自意識が発生する。これは人間を強く特徴づけるものであり、進化の最後に発生した部分であるから壊れやすい。壊れたときにはジャクソニスムの原則に従い、壊れた部分の陰性症状と、それによって抑制を失ったために発生する陽性症状が観察される。これは、一般に言われる「あるはずのものがない」陰性症状と「ないはずのものがある」陽性症状と似ているが、原理的に異なるものである。 人間は言葉で内省を表現できるのではっきりと自我意識の存在を確認できるが、他の動物の場合も程度の差はあるものの、進化の過程で似たようなメカニズムを持っているのだと思う。たとえば動物にも原初的な形での能動感や自己所属感はあるのだろうと思う。人間はうわの空でいるときには、全く無意識のうちに改札で定期を出して通っていたりもする。これは「第二の世界モデル」からの信号が弱くなり「自動運転」に近くなった状態である。また人間は極度に集中しているときや熟練した技を発揮するときなどは、「第二の世界モデル」からの信号が「第一の世界モデル」と精密に一致しているので、逆に「第二の世界モデル」からの信号が遮断されているように感じることがある。何も考えないでとか夢中でとか感想を語るようである。「時間遅延理論」でいうと、自由意志は錯覚であり、自我障害は錯覚が失われる苦しみということになる。これに関連して、受動意識仮説の「リベットの実験」について多くの論文がある。 そもそも考えてみれば、各感覚器から脳の処理部位に信号が伝達されるのは同時ではない。しかしそれを同時であると見なすように到着時間の調整をして現実を構成している。各感覚器官からの信号を同時と見せるように時間調整をしている部位があると考えられる。同じようなメカニズムで、「第一の世界モデル」からの信号と「第二の世界モデル」からの信号を一つの場所に集めて比較照合し、時間調整をしている部分の障害を考えて、自我障害のモデルとできるのではないか。 「第二の世界モデル」からの出力が「第一の世界モデル」からの出力に遅れると、自我障害となり、遅れの程度によって、遅れが大きい方から、させられ体験、強迫性体験、幻聴、自生思考と並べることができて、自生思考ではほぼ同時となるだろう。これが統合失調症の急性期の事態である。例えば、幻聴は、自分で話そうと思ったことの出力が「第一の世界モデル」側が先になり「第二の世界モデル」側からがあとになるので、他人が話している、聞かされていると知覚することになる。 ドパミン遮断薬はその特性によって、「第一の世界モデル」からの出力と「第二の世界モデル」からの出力のそれぞれを違う程度に遅延させる。もっとも強力な薬剤は、両方とも大きく遅延させる。これが薬剤過量によるうつである。ある程度マイルドな処方にすると、「第一の世界モデル」からの出力はやや遅延させ、「第二の世界モデル」からの出力は遅延させない程度になる。こうなると、自我障害は改善する。逆に、薬剤の特性によっては「第一の世界モデル」からの出力を遅延させず、「第二の世界モデル」からの出力を遅延させる。この場合は自我障害は改善しない。ブロナセリンのプロフィールはこの理論によく一致していて、中脳辺縁系と中脳皮質系への効果の差と考えても、さらに前頭前野などへの効果の差もあるのかと考えてもよさそうである。アリピプラゾールも同様に中脳辺縁系でドパミンを抑え、中脳皮質系でドパミンを増やすと言われていて、これも時間遅延モデルをよく補強する。 自我障害が続くとうつ状態になるが、その事態の説明としては反応性および疲弊性うつになるだろう。例えば、精神病極期にはドパミンなどのモノアミン系が使い果たされて、モノアミン系枯渇状態にあるのだと説明することはできる。そのことを疲弊の実体だと考えてもいいだろう。そうであれば、ドパミン遮断薬はマイルドに使い、セロトニン系抗うつ薬を重ねて使用しても意味がある。時間遅延性の症状にはドパミン系を、疲弊性うつの回復にはにはセロトニン系をと考える。 自我障害が発生した場合の心理的外傷は大きく、充分に抑うつの原因となりうる。また、自分の現在と未来を考えて、悲観的になることも理解できる。こうした事情を含んで精神病後疲弊性抑うつと呼んでいる。この場合には、心因反応として、悲哀のエピソードのあとの抑うつともメカニズムは似ているし、躁うつ病において、躁状態のあとの疲弊性うつ状態ともメカニズムは似ている。しかし躁うつ病の場合には、疲弊性うつが終わったあとに、本質的なうつ病が進行すると考えられている。自我障害のあとには疲弊性うつが前景に立つ時期があり、そのあとは陰性症状が主となる。このあたりを微細に診察することで症候学としての収穫があるかもしれない。治療としては、この場合もセロトニン系の調整を眼目とする薬剤を用いてよいが、自殺には充分注意し、面接の間隔を1週間程度に短めに設定する。場合によってはさらに短くし、家族と連携し、必要に応じて入院治療も考慮する。認知療法を考える場合、治療で働きかけているのは行動から「第一の世界モデル」にアプローチしているのか、認知から「第二の世界モデル」にアプローチしているのか、治療者が意識するといいかもしれない。