線維筋痛症(FM)は、広範な部位の慢性疼痛とこわばりを中心症状とする機能性リウマチ性疾患。理学的所見、一般的臨床検査、画像検査では異常を認めず、発症原因も分かっていない。50代前半の女性が発症することが多く、患者の男女比は1対5程度と考えられている。疫学調査の結果から、国内には200万人のFM患者がいると推定されるが、03年時点で推定受診者数は約6000人にとどまっている。
診療ガイドラインでは、国内外の文献を、日本人対象の研究とそれ以外を対象とした研究に区別した上で、エビデンスに基づいてI、IIa、IIb、III、IV、Vにランク付け。それに基づき、個々の治療について、「行うよう強く勧められる(A)」から「行わないよう勧められる(D)」まで4段階で推奨度を決定した。
FMの診断基準は、広範囲にわたる疼痛の病歴を持ち、指を用いた触診で、18カ所の圧痛点のうち11カ所に疼痛を認めること。欧米の患者と日本の患者の症状を比べると、日本の患者では、強い疲労感やドライアイ、ドライマウスなどの症状が多く、手の腫脹は少ない傾向があるという。関節リウマチなど、何らかの基礎疾患に随伴する続発性、2次性のFMも多い。
FM患者には、疾患についての教育、薬物療法、非薬物療法を行う。FM患者は筋緊張亢進型、うつ型、筋附着部炎型、重複型に分類され、必要な場合は、そのタイプに応じて痛みを緩和するための薬物療法を実施。治療に使われる薬剤は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI、推奨度B)、セロトニンノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI、推奨度B)などの抗うつ薬、抗不安薬(推奨度C)など。非薬物療法としては、認知行動療法(推奨度B)や有酸素運動療法(推奨度B)などを行う。
2006年、FMと診断された266例の臨床経過を調べたところ、1.5%は治癒、51.9%は軽快していた。診断が付かないまま何年もドクターショッピングを続けていたような患者の中には、診断が付き、疾患についての教育を行うと、症状が軽快するケースもある。
課題は、疾患の周知と患者の拾い上げだ。現在のところ、国内でFMの診断、治療を行っているのは100カ所弱の医療機関。松本氏は、「ガイドラインが広がり、患者の拾い上げが進んで、日本人のエビデンスが蓄積されることを期待している」と話している。
厚生労働省の線維筋痛症研究班(研究班長:聖マリアンナ医大教授の西岡久寿樹氏)は、2月11日、線維筋痛症の診療マニュアルの概要を公表した。
線維筋痛症は、40~50代の女性に多い全身性の慢性疼痛疾患。国内の有病者数は200万人と推定されているが、疾患の認知度が低く、検査所見なども乏しいことから適正な診断や治療が行われていないのが現状で、2004年の1年間で診断・治療を受けた患者数は約4000人にとどまっている。
研究班は、日本人でのエビデンスに基づいた診療ガイドラインを作成するため、診療マニュアル作成委員会(委員長:藤田保健衛生大学教授の松本美富士氏)を組織。委員会は、09年春にも診療マニュアルをとりまとめる。その後、「研究期間が終了する2011年から2012年ごろまでに、研究班で診療ガイドラインを作成したい」(松本氏)としている。
今回公表された概要では、診療マニュアルの診療基準に、1990年に策定された米国リウマチ学会(ACR)のものを採用することを明記。広範囲の疼痛の既往があり、触診で18カ所の圧痛点のうち11カ所以上に圧痛を認める場合に、線維筋痛症と診断する。
鑑別が必要な疾患としては、(1)脊椎関節炎、シェーグレン症候群、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、慢性疲労症候群などのリウマチ性疾患、(2)複雑性局所性疼痛症候群などの整形外科疾患、(3)過敏性腸症候群、自律神経失調症などの心療内科疾患、(4)うつ病、身体表現性障害、不安障害などの精神科疾患――が列記されている。
治療については、重症度や進行度、病型分類に応じたマニュアルが作成される。治療薬には、現在も適応外で線維筋痛症治療にしばしば使用されているワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液(商品名:ノイロトロピンほか)のほか、カルバマゼピン(商品名:テグレトールほか)やガバペンチン(商品名:ガバペン)といった抗けいれん薬、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)などの抗うつ薬が挙がっている。「それぞれ単独でも有効だが、これらを併用するケースも多い」(松本氏)。
またマニュアルでは、薬物療法だけでなく、鍼治療や運動療法など補完・代替医療の効果などについても解説される。治療の評価には、米国で開発された線維筋痛症質問票の日本語版である「J-FIQ」が使われる予定となっている。
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治療はうつ病治療と共通していて不思議な話。