働くナビ:労働相談の受け手向けに、マニュアルができました。
心の健康保つ方法指南 精神的不調な人の相談増加で
職場のトラブルで、うつなどの精神的な不調を訴える人が増え、労組のほか、上司や人事担当者らが労働相談を受けるケースが多くなってきた。メンタルヘルスの素人が、精神的不調を抱える人の相談を受ける際には注意が必要だ。相談者への配慮だけでなく、自分も心の不調に陥る恐れがあるからだ。個人加盟労組「東京管理職ユニオン」(東京都新宿区)は、相談の受け手向けに無料の相談マニュアル冊子を作った。企業側にも役立ててほしいという。
職場の変化が原因
厚生労働省によると、精神障害による労働災害の請求や認定件数が増えている。同省は、06年に「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を作り、職場のメンタルヘルス対策を促してきた。昨年10月には、同省のホームページ上に、労働者、家族、上司・同僚、産業医それぞれに向けた情報をまとめたコーナー「こころの耳」を設けて情報発信している。
原因の一つに、職場の変化がある。以前は年功序列の中で、班単位の仕事をして仲間意識も強かった。しかし、成果主義の導入で部下もライバルになるなど、職場が分断されているという。
同ユニオンには昨年1年間に約330人が労働相談に訪れた。相談担当者の実感として、3人に1人になんらかの精神的不調が見られたという。この傾向は、関西の個人加盟労組でも同じ割合だった。
相談マニュアルは、同ユニオンの担当者の相談経験をはじめ、判例、国の制度などを基にして作った。精神的不調の当事者向けの手引本はあるが、相談担当者向けは珍しいという。
実践的な内容に
内容は11章で構成。相談を受ける側の心構えをはじめ、「長時間労働」や「いじめ」「セクハラ」などの問題に対処する基礎知識、職場復帰の際の労使双方に求められる配慮――など実践的な内容を盛り込んでいる。
例えば、自殺願望者からの労働相談では、頭ごなしに「自殺をやめなさい」などと言わないように注意を促す。相談者は「自分の気持ちを理解されなかった」と受け取りがちなためだ。聞いた上で「よく自分の思いを話してくれた」などと、受け止める言葉を、あっさり言うのが秘訣(ひけつ)だと紹介している。
相談担当者の心の健康に触れた部分も特徴だ。例えば、相談者が職場の上司への暴言を繰り返した場合、そのまま聞き続けると、聞く側にストレスがかかり、体調を崩しやすくなる。このため、「相談者と距離を置く」「携帯電話番号を教えない」などの心の守り方も助言している。
同ユニオンの千葉茂書記次長は「行政や企業の人事担当者から相談方法について助言を求められることもあり、使用者側もメンタルヘルス相談に苦闘しているようだ。労使が共通のマニュアルを使えば、休職した人をスムーズに復職させられるなど利点がある」と呼びかける。96ページ。問い合わせは同ユニオン(03・5371・5170)。【遠藤和行】
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労働相談マニュアルの主な内容
【相談を受ける心構え】
・話は白紙から聞く
・一番大事なのは、本人の一言目
・分からないことは「分からない」と言う
・相談は、相談者の自信を回復させること
【トラブル対応の基礎知識】
・勤務から解放される時間の不足が精神的健康を破綻(はたん)させる
・上司は業務量を適切に調整する措置を取らねばならない
・労災申請や裁判提訴は、「悔しさの再現」になるため慎重な判断が必要
【職場復帰の注意点】
・会社が「ゆっくりやすんでください」というのは要注意
・会社と一緒に復職プログラムを作る
【相談の受け手の心を守る】
・相談者と距離を置く。自分で考えてもらうために場合によっては突き放す
・相談者の上司などへの暴言は黙って聞かず、指摘して批判する
・相談活動とプライベートは時間的にも空間的にも分ける