☆クライエント中心療法(来談者中心療法) client-centered therapy
ロジャーズによって創始された心理療法で、初めは非指示的精神療法と呼ばれていた。それまでの指示的な療法や、解釈を与える精神分析のような、治療者が一方的に患者の病気を治すという医学モデルへのアンチテーゼとして、「カウンセラーがクライエントに指示を与えない」という特徴からそう呼ばれた。カウンセリングを受けに来る人を”患者”ではなく、”クライエント”と初めに呼んだのもロジャーズであり、医学モデルに対するものである。その後、自らの立場を”クライエント(来談者)中心療法”とした。治療の方針や方向の決定は、クライエントの意志にゆだねられ、クライエントの持つ”自己治癒力”を重視する。治療関係において、クライエントの自己治癒力・自己実現へ向かう力を最大限に発揮させるために、カウンセラーが取るべき3つの基本的態度を提唱した。その基本的態度とは、①共感的理解(クライエントの体験や情動をあたかも自分のことのように感じること)、②無条件の肯定的配慮(積極的関心)(評価的態度抜きでクライエントの立場を尊重すること)、③真実性(純粋性)(カウンセラーが内的な自己の体験と自己表出との間にずれがないこと)である。このカウンセラーの基本的態度は、学派を超えて受け入れられている基本的なスタイルであるといえる。
☆ゲシュタルト療法 Gestalt therapy
パールズの創始した心理療法で、ゲシュタルトとは「全体としての形態」という意味であり、人間存在の全体性と統合性をあらわす概念である。患者の「今、ここで(here and now)」の体験と関係の全体性を重視する。自己の責任をもつことを重視し、自発的な感情や自己への気づきを呼び起こさせながら、自己実現することを治療目標とする。過去の体験が十分に消化されず「未完結な問題」となっているために、自分の全体で自由な体験ができなくなっている場合に、その問題が「今、ここ」に十分わき起こってくるようにし、完結させることを目指す。ロールプレイングやホットシート(エンプティ・シート)などの技法を用いながら、治療者は患者の直接的な行動のほか、非言語コミュニケーション(しぐさ、声の大きさなど)、呼吸、緊張状態の現れなどに注意し、それらを患者に指摘し、その意味を尋ねる。
☆現存在分析 Daseinsanalyse ; existential analysis
フロイトの弟子であったビンスワンガーとボスによって創始された精神医学の学派、およびその理論に基づく心理療法。人間を客観対象化する自然科学的・還元主義方法をとっていた20世紀初期の心理学と精神医学を批判し、世界内存在としての人間を直接にありのままに理解しようとする現象学的立場を強調した。フッサールの現象学やハイデッガーの存在論を基礎として、クライエントのないt形世界を重視し、同じ1人の人間としてみていこうとする。この姿勢は来談者中心療法と共通する。
☆行動療法 behavior therapy
1950年代末から60年代初頭にかけて台頭してきた、学習理論を基礎原理とする心理治療論。1959年にアイゼンクによって提唱された。治療の目標を明確にし、問題となっているものが客観的な測定や制御が可能な行動のみを治療対象とする。たとえば、不安、不登校、チック、神経症、心身症などである。治療の焦点は、過去ではなく現在にあて、症状や不適切な行動を誤った学習あるいは未学習によって習慣化された行動パターンとみなし、その学習内容を消去あるいは再学習によって行動を変容させる。主張訓練法、シェイピング法、自律訓練法、リラクセーション法など技法がいくつかある。
☆交流分析 TA ; transactional analysis
アメリカの精神科医バーンによって開発された人間行動に関する理論体系とそれに基づく治療法。「互いに反応しあっている人々の間で行われている交流を分析すること」を目的としているためこう呼ばれる。心の構造や機能を記号や図式を用いて分かりやすく説明するところが特徴的であり、特に対人関係上の問題解決に役に立つ。構造分析、交流パターン分析、ゲーム分析、脚本分析の4つの分析を行う。
☆精神分析療法(精神分析) psychoanalytical therapy
フロイトによって創始された心理療法で、神経症の患者の治療をするなかで開発された。治療技法として、「無意識の意識化」が第一にあげられ、自然に頭に思い浮かぶものをそのままに言葉にするという自由連想法、無意識下のことを知るための夢分析を主とし、防衛機制や転移の解釈を通して無意識の自己理解を深めていく。フロイトの主要な理論は、局所的観点・構造的観点、力動的観点、経済的観点、発達的観点、適応的観点の5つの観点に集約される。フロイトの提唱した、意識・無意識、イド・自我・超自我、リビドー、エディプスコンプレックスなどの概念は後の心理学界に大きな影響を与えた。
☆認知行動療法 cognitive behavior therapy
行動療法が外に現れた行動を問題にして治療を進める方法であるのに対し、認知行動療法は本人の思考や認知が病気や症状を引き起こす原因となっている場合に、その思考や認知のパターンを問題とし、その認知的な問題を解決することによって問題の改善をはかる、行動的技法と認知的技法を効果的に組み合わせて治療を行う心理療法である。行動変容だけでなく、その行動を支配する内的な認知過程の変容も等しく重視するという折衷型アプローチである。ベックによる認知療法、A.エリスの合理情動療法のほかに、スインの不安管理訓練、ネズの問題解決療法、マイケンバウムのストレス免疫訓練、ベックの認知療法、A.A.ラザラスの多面的行動療法などの技法があり、最近の認知行動療法は、ある特定の症状や特定の状況に対して焦点化が進み、症状に応じて上記の治療プログラム(治療パッケージ)をサービスとして提供する方向に向かっている。
☆フォーカシング forcusing
E.ジェンドリンの体験過程療法における主要技法。体験過程に注目し、それに触れながら進行していく一連のプロセスをフォーカシングという。体験過程とは、漠然として言葉に表現することができないような身体感覚(悲しいときに旨が押しつぶされる感じなど)のことであり、ある特定の状況における身体的感覚をフェルトセンスとよぶ。フェルトセンスが志向しているものに気づき、それを手に入れると体験が変化する。
☆問題解決療法
日常生活のなかでの問題解決能力を高め、自己効力感を強化することで心の問題の解決を図る治療法である。T.J.ズリラやA.M.ネズらによって体系化された治療法で、①何が問題になっているかを明らかにする段階、②問題を評価する段階、③多様な問題解決方法の検討、④実現可能な解決方法を探索する段階、⑤問題解決方法を実行、効果を確認する段階の5つの段階を経て、クライエントが自分自身で問題解決できるという自己効力感を増大させ、問題解決をセルフコントロールできるように指導していく。
☆実存分析 exitential analysis ; Logotherapy
フランクルによって創始された心理療法で、人間は自分の生き方を決定する自由を持ち、人生から投げかけられた課題に対して、誠実に答える責任があるとする考え方に基づき、クライアントの人生の意味と価値を分析していく。実存分析は、フランクルのアウシュヴィッツ強制収容所での体験が基盤となっている。
☆家族療法 family therapy
家族療法は、家族集団を研究・治療の単位とし、個人の問題行動や症状は過去の生育歴に由来するものではなく、現在の家族システムのゆがみに由来すると考え、個人の問題を家族という脈絡のなかで捉えようとする。その理論の出発点は、主に精神分析や家族力動理論を根拠としていたが、やがて一般システム理論(生物学者ベルタランフィが提唱した概念で、システムを「相互作用しあう要素の集合体」として捉え、上位システムと下位システムが入れ子状に構成されているとみなす)や対人関係論、学習理論、行動理論などさまざまな理論を取りいれ、現在では多種多様な理論的枠組みをもった治療的アプローチがある。個人面接における直線的因果律(原因と結果を特定することで事象を理解しようとする)の限界から、円環的因果律(システムの要素は互いに関係を持ち合っているので、原因を1つに特定することはできないとする)としての見方から家族療法は生まれた。
☆箱庭療法 sandplay therapy
イギリスのローエンフェルドが考案した技法を、スイスのカルフがユングの理論をベースとして発展させた心理治療技法。日本では河合隼雄が1965年に紹介した。砂の入った木箱(72cm×57cm×7cmで内側は青色に塗られている)とさまざまなミニチュア玩具(人形、動物、植物、怪獣、乗り物、建物、装飾品、家具など)を用意し、クライエントは箱の砂の上にミニチュアを並べたり、砂で山を作ったり、水を使って川を作ったりと自由にイメージ表現を行う。もともとは子どもを対象としていたが、現在では大人にも適用されている。クライエントの自由意志に基づいて作成されるべきで、カウンセラーが強要したり、作らざるを得ない雰囲気にしたりしてはならない。言葉では表せない象徴的な表現が見られ、強い情動体験を伴って治療を展開することができる。カウンセリング・心理療法の中で適宜用いられ、箱庭単独で治療できるものではない。