世界の軋みを聴いている人

世界のきしみを聴いている人がいるもので、
何箇所もの声を聴く。

介護業界の雇われ所長。
利用者からはクレーム、介護士さんからは苦情、経営者からは文句。
誰からも感謝されない。

派遣業界。
企業からも就業者からも、クレーム。
就業希望者と気持ちを分かち合って、就業に奔走したつもりなのに、
3日くらい勤めただけで、もうやめますとあっさり言われる。
田舎に帰るからだと言われる。
自分のせいでもないのに、企業に行って謝罪する。

小学校の先生。
こっちが一所懸命になっても、報われない。24時間ささげて当たり前。

看護師。
もちろん、報われない。燃え尽きる。

妻。
立派にやっているのに、掃除も洗濯も料理も誉められないし感謝もされない。
どうせ何も言ってくれないのなら給料で評価して欲しい。

難病の人
医者に言われるのは治りませんの一言
「病気」は治せない。でもわたしは「こわい、くるしい」。

世界は軋みを立てている。

風土が変わり、世の中が変わり、人間も変わる。
それぞれの立場で、現実と現実がこすれあい、
変化の摩擦熱を発している。

*****
派遣業者ができて、
企業は不当に安い流動的労働力を手にしたと批判されている。
先日は二重派遣をしてしまった企業が摘発されている。

一方、派遣労働者の中には、自分のライフステージやライフスタイルにあわせて
自由に移動できる派遣の形が現代的な働き方にあっていると話す人もいる。
いいところが見つかったら、そのまま就職したいと、自然に語る人もいる。

一方、定職について技能を伸ばしたいのに、
派遣で使い捨てされるからいつまでたっても派遣から抜け出せないと語る人もいる。

とりあえずの使い捨ての仕事で歳をとってしまう。
管理職にはなれないし、定職にも就けない。

しかしまたそれを自由ととらえる人もいる。

昔なら労働組合と経営側が火花を散らして交渉し、
ストライキも辞さず、という緊張した場面を、
いまは派遣会社が、笑顔を作りながら、交渉しているのではないか。
受け入れ会社と派遣会社は、派遣会社がお金をもらえ方だから、ニコニコして話している。
労働者は派遣会社にとって、大切な資源だから、ニコニコ顔で対応する。

給料も労働条件も、昔は直接でけんか腰、今は派遣会社が入ってニコニコ顔。
もちろん、派遣会社の社員が、どんなに頭に来ても、ニコニコ顔でいるように指導されているからだ。
社民党の福島みずほでは、話はまとまらない。

最もシビアな交渉を、
派遣業法のもと、ニコニコ顔で耐え忍んでいる。
ここに社会のきしむ音がひとつ聞こえている。

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制度が安定しないうちは、
個人の努力で、制度の矛盾や欠陥を補うものだが、
それも限度がある。
派遣業、介護保険などは、その矛盾が集約的に現れている分野だと思う。

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議論は堂々巡りで、
最近の若い人は理由もなくすぐにやめる、
だから技術を教えようとしても無駄になる。
派遣は使い捨てだから、まともに教育してくれない。
正規社員と同じ仕事をしているのに待遇が違う。

たてまえの立派な言葉は岩波の「世界」らでも載せてもらって、
現場の人たちは、やはりまともに考えて、自分の将来のために、
いま何を学ばなければならないのかを
真剣に考えよう。
派遣会社の人たちはこんなにも親身になってくれているのだから。
ハローワークでもいいのだけれど、
ほんとうはハローワークの仕事なのだけれど。

巨視的に見れば人材派遣業の急速な拡大は、
企業の雇用形態を劇的に変化させた。
あの松下が、終身雇用をもうやめている。
成果主義と単純作業のパートへの委託である。
短期的に見れば資本のわがままが勝利したのだが、
長期的に見てそれでいいのか、分からない。

また巨視的に見れば、
土建業と農業しかできない人たちが、
たぶん500万人程度いるのだと思う。
農業しながらの季節労働者。
出稼ぎ。
しかし公共事業は減少。
単純労働は中国へ、そしてタイへ。
ワンタッチで開く傘が100円。
100円ショップに行けば、そこに世界市場がある。

何もできない。能力がない。しかし投票権はある。お金は欲しい。
そんな人たちにどのように人生を計画してもらい、どのような努力目標を提示することができるか、
ポイントはここだと思う。
公共事業で道路をつくるのはもうやめたから、
単純製造業は中国とタイとマレーシアに行ってしまった。
それしかできななら移住してもらう。
今度は英語とコンピュータプログラミングを身につけて、
仕事をしてくれ。
アメリカ下層階級とインド人がライバルだ。

そんなことをいわれてもね。
派遣で経理に回されたら簿記の資格をとる、税理士の資格を考えてみる、
不動産部門だったら、やはり資格を取る、司法書士なんかもいい、
労務関係に回されたら、社労士の資格をとる。
自動車工場であるバイトがあったら、自動車整備士。
きっかけをつかまえて、成長していくんだよと、
もちろん、人間として成長しつつ。
そういわれてもね。