”予備軍”155万人 新たな引きこもり

ひきこもり関係の記事
ーーーーー”予備軍”155万人の衝撃!「趣味のときだけ外出する」新たな引きこもりが急増中
 「自分の趣味に関する用事のときだけ外出するが、外でコアな人間関係を持つことはない」――そんな人たちが、いまの日本で新たな引きこもりの中核を占めつつあるという注目すべき調査結果が発表された。
 すでに各紙で報道されているが、内閣府「若者の意識に関する調査(ひきこもりに関する実態調査)」よると、日本の「引きこもり」群は、推計で70万人。その「潜在」群は、推計で155万人に上ることがわかった。これは、内閣府が7月23日に公表した実態調査のデータだ。
 調査は、無作為抽出された15歳以上39歳未満の5000人に、調査会社のスタッフが質問書を預け、受け取りに行く方法で今年2月に実施。面接で直接聞きとりすることがなく、回収率も高かった。
 ちなみに、今年2月に厚労省も「引きこもり」のいる家庭を26万世帯と推計しているが、これは世帯別の面接調査。本人が回答したわけではなく、面会で正直に答えていない可能性もあり、実態を正確に反映しているとは思えない。そういう意味では、より実勢に近い日本の引きこもり層を把握する上で、国の行った初めての大規模調査といえる。
 そこで、筆者は調査を手がけた明星大学院人文学研究科長の高塚雄介教授(臨床心理士)に、再びインタビューした。
「準引きこもり」が推計46万人生の実感を求めて趣味を見出す
 その前に、データを見てみたい。推計70万人の「引きこもり」群は、統合失調症などの病気ではなく、家事や育児をしているわけでもなく、6か月以上にわたって「趣味の用事のときだけ外出する」「近所のコンビニなどには出かける」「自室からは出るが、家からは出られない」「自室からはほとんど出ない」状態のいずれかの人たちと定義づけている。
 なかでも、「趣味のときだけ外出する」状態の人たちが推計46万人に上り、日本の「引きこもり」の中枢を占めたことに、高塚教授は「準引きこもり」群として注目する。
 「趣味なら出かけられる人たちも、基本的に、働いていないし、勉強もしていない。家族以外との交流も避けていて、6ヵ月以上経っているとなれば、少し健康度の高い引きこもりなのではないか」
 そう高塚教授は説明する。
 「どこかで生の実感を欲しがっている。それが行きつくところは、旅行や自分の趣味などであって、辛うじてそういう趣味的なものを見出しているのです」
 一方で、「家や自室に閉じこもっていて外に出ない人たちの気持ちがわかる」「自分も、家や自室に閉じこもりたいと思うことがある」「嫌な出来事があると、外に出たくなくなる」「理由があるなら、家や自室に閉じこもるのも仕方ないと思う」の4項目すべてに「はい」、または1項目のみ「どちらかといえばはい」と答えた人から「引きこもり群」を除いて推計したところ、155万人に上った。
 高塚教授は、この一般群と引きこもり群の中間にいるケースを「親和群」と名付けているが、わかりやすくいえば“潜在群”だ。しかも「潜在」群は、男性の多い「引きこもり」群とは逆に、女性の割合が高かった。暴力的な傾向も多いことから、女性のリストカットや過食症、拒食症の傾向と重なっているのではないかとみている。
 「6ヵ月以上、何もしないわけではない。時々、アルバイトに行ったり、派遣会社に登録して、気に入れば仕事を引き受けたりする。友人もいないわけではない。ただ、ふと会社を休んで、1ヵ月以上何もしない状態でいる。彼らは、これまでの厚労省の引きこもりの概念からズレています。しかし、意識傾向をみると、限りなく引きこもりに近いものを持っているのです」
 歳をとって、社会で何かつまずきを覚えたときに、一気に引きこもりになっていく可能性がある層でもある。
人づきあいが苦手だと“欠陥商品”と 放逐されかねない社会に
 話を戻すと、「引きこもり」の人たちの年齢は、30代が46%。30代で「引きこもり」状態になった人も、24%に上った。
 また、「引きこもり」状態になったきっかけを聞くと、「職場になじめなかった」が「病気」と並んで24%、「就職活動がうまくいかなかった」が20%と仕事に関するきっかけが多く、必ずしも「不登校の延長」(12%)とは限らない実態が、ここでも浮き彫りになった。
 さらに、「引きこもり」の人たちは、8割近くが「初対面の人とすぐに会話ができる自信がない」と答え、「自分の感情を表に出すのが苦手」な人は71%。「自分の生活のことで人から干渉されたくない」かどうかを聞くと、「引きこもり」潜在群の人が最も多く、9割を占めた。
 「不安要素の中であなた自身に当てはまるもの」については、「家族に申し訳いない」と感じる人が、「引きこもり」の人に最も多く、71%に上った。これは、彼らが不安に思っているし、家族にも迷惑をかけていると日頃痛感していることの裏返しである。この結果だけを見ても、彼らは「異常な存在」ではない。
 そして、意外なことに「他人がどう思っているかとても不安」「絶望的な気分になることがよくある」「パソコンや携帯がないと落ち着かない」「壁を蹴ったり叩いたりしてしまう」などと回答した人は、それぞれ「引きこもり」潜在群が突出して多かった。
 こうしたデータを総合的に分析すれば、職場に出ることが不安。あるいは人間関係に抵抗感のある人たちが増えていると、高塚教授は指摘する。
 「学校時代は、何事もなく過ごしてこられたのに、学校を卒業し、社会に出てから初めて、自分の限界に気づいたり、不安に怯えるようになったりして、引きこもりのきっかけが始まるのです」
 学校時代は、非行に走ったり、不登校になったり、勉強ができなかったりといった行動が露呈すれば、問題になる。ところが、引きこもり系の人たちは、勉強ができないわけではない。非行にも走らない。学校にも頑張って登校してくる。
 ただ、おとなしめで、あまり注目を集めず、1人でポツンとしている。教師たちも、何とかしなければという意識を感じても、とくに問題が表面化しなければ、優先順位も低くなり、放ったらかしにされる。
 「現代社会は、人間関係を重視し、実態はどんどん希薄化しているにもかかわらず、スムーズに実践できないことを異常とみなしてしまうところがあります。内的世界を適切な言語に置き換え、他者を説得できるコミュニケーション能力を育むことが当然視されてきました」
 結果的に、すべからくディベートをもなしうる人間にならなければならないかのような雰囲気が生まれている。つまり、人間関係をうまく構築したり、きちんと言葉で意思表示できなかったりすることは、欠陥商品として放逐されかねない社会環境が進行していると、高塚教授はいう。
 いくら努力して頑張っても、ディベートもコミュニケーションも苦手な人たちがいる。言語的能力や、周りとの人間関係を重視する、いまの社会の評価システムそのものを変えていく必要があるのかもしれない。
 それでも昔は、「ちょっと変わってる」とか、「おとなしい」とかいわれながらも、何とかやってこれた。受け入れられる社会は存在していたし、1人でもコツコツ真面目に働いていれば、周りから認められるような仕事の場もあった。
 「いまは、組織管理社会の中で、合わなければどんどんスポイルされていく。就職面接で、皆、落とされてしまう。その中の一部に、発達障害の人たちも属しています。こういうタイプの人たちが、社会の中で行き場を失っている。それが、いまの日本の状況であり、必然的に、引きこもり化していかざるを得ないのです」
 90年代以降、引きこもりが急増している背景には、こうした社会の価値観の変化があると、高塚教授はみる。
対人関係に不安のある人々も働ける職場が創造できるか
 こうした人たちが数多くいることが、今回の調査で明らかになった。このことは、弱肉強食や、勝ち組と負け組といった構図だけでは説明できない。
 一方、「ふだん自宅でよくしていること」を聞くと、「本を読むこと」が78%、「新聞を読む」が32%いて、それぞれ一般の人たちや潜在群よりもずっと多かった。「活字離れ」が叫ばれている中にあって、いい意味でも現代の潮流に乗れない時代遅れの人たちといえるのかもしれない。
 「いままでの日本社会は、イケイケの元気なエネルギーのある人たちを教育でも社会でもモデル化してきた。その流れの中で、取り残されてきた人たちなのです」
 引きこもりの人たちは、まじめで、融通が効かない。臨機応変に泳いでいくことができないのだという。
 「教育現場などで、コミュニケーション能力を高めるトレーニングが重視されています。しかし、それに乗れない子どもたちがいるという視点を見失っているのです」
 もちろん、特別な才能に恵まれていれば、その世界でやっていける人もいる。一方で、アーティストや学者などは、一般の企業社会の中でやっていくのは難しいと指摘する専門家もいる。
 対人関係に不安がある。緊張感が強い。そんな人たちであっても、もしかすると、集団生活の中で人間関係を訓練するべきだという話でもないのではないか。実際、事業仕分けで廃止された厚労省の「若者自立塾」などは、あまり利用希望者が集まらなかった。
 こうした行き場のなくなった人たちの働ける場をどのように創出していけるのかが、これからの日本の国に問われている。