頭痛の原因を漢方で治療する 頭痛のほとんどは、頭部CTなどの画像検査で器質的異常が認められない機能性頭痛です。通常は対症療法的に消炎鎮痛薬などで対応しますが、症状がある限り薬を飲み続けることが多く、消化器症状などの副作用が心配されます。
漢方における頭痛の原因
しかし漢方では、頭痛の原因を、冷え、むくみ、血行障害、ストレスなどによる感情の変化にあると考え、これらの原因を治療します。例えば、冷えが原因で生じる頭痛の場合、漢方では体を温める治療をすべきだと考えます。対症療法ではないので、ある程度治療すると薬を飲まなくてもよくなり、副作用の心配もありません。
【冷えの症例】 患者さんは23歳の女性事務員です。高校を卒業して現在の会社に就職しましたが、2年前から時々頭痛が起こるため、市販の頭痛薬を服用していました。夏になって頭痛が頻回に起こるようになったため心配になり、精密検査を希望して大学病院総合診療部を受診されました。生理は順調ですが、時に生理痛を認めます。身長は164cm、体重52kg、やや痩せていて色白な印象があります。身体診察上は、血圧 102/68 mmHg、脈 66/分整、体温 35.6度と、血圧と体温は低めですが、その他、心肺腹部を含めて異常を認めませんでした。
通常、若い女性の頭痛が器質的疾患である可能性は低いので、画像診断を行わず、片頭痛などと診断して治療することがあります。私も以前は患者さんのためにと考え、極力無駄な検査をせずに診断し、薬を出す努力をしていました。
本症例についても、初診時に検尿、血算、生化学検査を行って異常のないことを患者さんに説明し、次回の診察の前に頭部MRIの予約をした上で、漢方薬を使いたいと伝え、同意を得て漢方診察を始めました。
漢方的問診を進めていくと、寝苦しくてクーラーをつけっ放しにしたら、翌朝、頭痛で起きられなくなった、仕事中にクーラーが効き過ぎていると感じた日は、午後2時頃から頭痛が始まった、などのエピソードがあり、頭痛の原因はクーラーによる冷えと推定されました。
そのため、冷えから来る頭痛と考え、呉茱萸湯(ごしゅゆとう、ツムラTJ-31)3パックを毎食前に処方しました。この患者さんはもともと低体温であり、そこに寒冷刺激が加わって頭痛が起こったものと思われます。約1カ月の治療で頭痛は起こらなくなり、体温も上がって冷えの自覚もなくなりました。仕事中につらかったクーラーも気にならなくなったということです。体が冷えると頭が痛くなることがあります。冷えに気をつけ、身体を温めるように助言しました。
【むくみ(水毒)の症例】 患者さんは56歳で身長152cm、体重70kgの肥満体型で、どちらかといえば水太り体型の主婦です。頭痛を訴えて当科を受診されました。既往歴に特記すべきことはなく、現在、高血圧などの治療も受けていません。西洋医学的な診察と検査に異常は認められませんでしたので、同意の上、漢方診察を始めました。
漢方的な問診では、以前から曇りの日には頭が重いと感じていたこと、最近、暑いのでクーラーの効いた部屋にいることが多く、冷たい飲み物をよく飲んでいること、夕方になると体が重くなり、頭痛がするようになったことが聴取されました。診察上では、舌縁に歯型の合ったギザギザが認められました(歯痕)。これは舌がむくんで腫大したために舌縁にギザギザが生じたもので、漢方ではむくみ(水毒)を表す重要な診察所見です。
これらの診察から、この患者さんの頭痛はむくみ(水毒)に冷えが加わって生じたものと考え、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん、ツムラTJ-23)3パックを毎食前に処方しました。約2カ月の治療で舌のむくみ(歯痕)が取れ、夕方に体が重くなる感覚がなくなり、頭痛も消失しました。
この方は後日、「最近、冷えが気にならなくなりました」と話しておられたので、もともと冷え性があったのだろうと推察されます。体を冷やす生活習慣(クーラーや冷飲食)でむくみ(水毒)と冷えが増悪したために頭痛が生じたケースと考えました。つくづく、冷えとむくみは女性の大敵だと感じます。余分な水分は体を冷やします。むくみやすい人はしばしば冷えを伴っています。
この患者さんは、当初はまじめに1日3回服薬していましたが、徐々に回数が減り、通院を終了する時期には、1日1回飲んだり飲まなかったりという状態でした。治療を終了するタイミングは、このように、症状がなくなって体調が良くなるため、患者さんが自然に服用しなくなる時期が適しています。
症状が消失し、来院しなくなった患者さんが、半年後、1年後に再来するケースがたまにあります。元気になったため、クーラーのつけっ放し、冷たい飲食物の摂り過ぎなど、具合が悪くなった時と同じ生活習慣に戻ってしまった場合がほとんどです。治療には薬だけではなく「養生」、すなわち病気にならないように生活に気をつけることも大切です。
なお、二日酔いの頭痛は軽い脳のむくみによるものと言われています。むくみの治療薬である五苓散(ごれいさん)は二日酔いの特効薬で、宴会シーズンには欠かせません。
以下では、その他の頭痛症例を簡単に紹介します。
【ストレス(気逆)の症例】 患者さんは42歳、やせ型の神経質そうな女性で、頭痛を主訴に来院されました。西洋医学的に異常を認めなかったので、漢方的診察を行いました。問診上、小学校6年生の娘が夏休みに入って家にいることが多く、受験生なのに塾の成績が下がってイライラしていることが分かりました。頭痛は発作的に生じているようですが、精神的な要因が関係しているようです。ストレス(気逆)による頭痛と考え、加味逍遥散(かみしょうようさん、ツムラTJ-24)3パックを毎食前に処方しました。
約2週間の治療で症状は改善し、以後の来院はありません。お母さん方にとっては夏休みに子供たちが1日中いることはストレスのようです。同様に、夫が退職後、家で毎日ゴロゴロしているのも、妻にとってストレス要因になります。「58歳の女性が頭痛を主訴に来院した」という場合、ご主人が退職して家でゴロゴロしていないかどうかを問診してみてください。
【ストレス(気うつ)の症例】 患者さんはおとなしそうな36歳の男性公務員で、頭痛を主訴に来院されました。今まで病気をしたことがなかったそうですが、1カ月前に部署が変わり、慣れない仕事と対人関係で、気疲れなど多くなって、月曜日の朝になると頭痛が頻回に起こり始めました。
以上の問診から、西洋医学的にはうつ病と診断し抗うつ薬などの適応になるのでしょうが、症状も軽く、発症からの期間も短いため、患者さんと相談の上で漢方治療を始めました。ストレスによる気うつと考え、柴朴湯(さいぼくとう、ツムラTJ-96)3パックを毎食前に処方しました。治療開始後2週間で徐々に頭痛の回数も減り、3カ月後には軽快しました。
漢方では症状が異なっていても原因が同じであれば、同じ治療薬を用います。同じストレス刺激でも、人によって症状として出てくる表現が異なることがありますが、これは性格などの違いで、ストレスの受け止め方が異なるからだと思われます。