ネット上で起こる困った事態に対処米国で脚光浴びる「評判防衛」とは
インターネットのどこかで、あなたは中傷されているかもしれない。だが、そんな中傷のすべてを自分で見つけられるだろうか。また見つけたとしても、それを削除させる手段をご存知だろうか。
人々のおしゃべりと主張と表現の場になったインターネットだが、ご存知の通り、いいことばかりが起こっているわけではない。ちょっとした仕事での失敗を、どこかで暴露されていたり、別れた女性が2人の間で起こったプライベートなあれこれを、ツイッターでつぶやいていたりするかもしれないのだ。
そんな困ったことに対処してくれるサービスがある。「ReputationDefender(レピュテーション・ディフェンダー)」である。ずばり、「評判防衛」という名前のこのサービスは、インターネット上で、そのユーザーがどのように言及されているか、どんな写真がアップされているかを突き止め、場合によってはそれを削除させたり、検索結果の上位に現れないように処置してくれたりするのである。
設立のきっかけはあるティーンエージャーの死
レピュテーション・ディフェンダーが設立されたのは2006年だが、同社が話題を呼んだのは2007年、ある交通事故でティーンエージャーが死亡した後のことだった。
ロサンゼルスで不動産会社を経営する父親の黒いポルシェを持ち出し、時速100マイルを超えるスピードで運転していた18歳の少女、ニッキ・カツラスはコンクリートの壁に激突して即死。ところが、数日以内には見るも無残な彼女の事故現場の写真が何枚も、インターネットに出回っていたのだ。
それだけではない。その写真はSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)のマイスペースのニッキのページに勝手に掲載され、父親の元には事故を笑いものにしたメール・メッセージが何通も届いたりした。
すべては事故現場に駆けつけたハイウェイ・パトロールのスタッフが、親戚の子供に戒めのために画像を送ったことに、端を発しているとされている。だが、その写真は関係者の手を離れ、インターネッット上で暴れ馬のように駆け回り続けたのだ。
娘を亡くして嘆き悲しんでいるところへ、人びとの悪意が追い打ちをかける。耐えられなくなった家族が助けを求めたのが、レピュテーション・ディフェンダーだった。
こうした時、レピュテーション・ディフェンダーは、画像を上げているサイトを突き止めて、削除の依頼を行う。依頼しても対処されない場合には、法的手段に訴える旨を記した警告状を送り、それでも削除されないケースには弁護士を紹介する。
ニッキ・カツラスの事件では、インターネット上の悪意を100%削除することはできなかったものの、家族が自分たちではとうてい到達できないインターネットの奥地まで踏み込んで、悪意を退治したことは確かだ。
レピュテーションを向上させるサービスも提供
レピュテーション・ディフェンダーが行うのは、悪意のあるポスティングや評判に対処するだけではない。インターネット上の「見かけ」を少しでも向上させるような処理も可能だ。つまり、望ましい評判を前面に押し出し、望ましくないものについてはなるべく隠れるようにする。専門家が略歴や職歴を書いてくれるサービスもある。
まるでインターネット上のPRを請け負ってくれるようなものだが、医者や弁護士、小売店、建設業者など、個人経営のビジネスにとっては、重要なサービスだろう。
それ以外にも、プライバシー情報がインターネット上に流れ出すやいなや、それを食い止めてくれるサービスもある。自宅の住所や電話番号、かつて住んでいた家のありか、親戚の名前など、現在は「人検索」という特殊なサイトでかなりのプライベート情報が、他人の目に触れるようになっている。それをレピュテーション・ディフェンダーが警官のように見回ってくれるというわけだ。
加えて、自分の子供に関する情報をインターネット上でモニターできるサービスも揃えている。変な写真がポスティングされていないか、インターネット上でいじめに会っていないかといったことが、このモニタリングでわかるというわけだ。
こうしたサービスはすべて有料である。タダの多いインターネットとは言え、こと自分の評判や会社の評価、子供の安全には納得して金を払うユーザーも多く、レピュテーション・ディフェンダーは設立後まもなくから黒字経営を行っている。
ちなみに、自分の評判をモニターするサービスはひと月14.95ドルから。プライベート情報削除は、同じく9.95ドルから。そして、PRに類したサービスは、年間99ドルから599ドルまで、複数のタイプを揃えている。もっとプロ仕様になると、10万ドルのプランもある。
ところで、自分でグーグル検索すれば、自分について書かれたものくらい探し出せるだろうと思われるかもしれない。だが、ことはそんなに単純ではない。検索で自分の名前を入力しても、そこに出てくるのはほんの一部に過ぎない。他方、レピュテーション・ディフェンダーは、特殊なプログラミングによって、さまざまな条件を交錯させ、さらにユーザー自身から提供される情報も加えて、インターネット上をくまなく探せるのだ。
レピュテーション・ディフェンダーは、有力ベンチャー・キャピタルのクライナー・パーキンズ・コーフィールド&バイヤーからのものを含めて、これまで2400万ドルの資金を受けている。この手の「プライバシー情報モニター」サービスは、今後ますます注目される技術分野と言われ、ベンチャー・キャピタルがこぞって投資を行っているところだ。
インターネットの無法ぶりが手に余れば、いずれわれわれはこうしたサービスに金を出さざるを得なくなるのだ。