精神病の高リスク者は言語的セルフモニタリングに障害がある
Psychol Med 2010; 40: 1433–1442
英語版 配信日 2010-08-17
MedWire News:精神病の発病リスクが高い人々は、言語的セルフモニタリングに障害があることが、英国の研究結果で明らかになった。
「統合失調症患者は、さまざまな認知運動課題においてセルフモニタリングに問題を示す」と、キングズカレッジロンドンのLouise Johnsらは説明している。
精神病の前駆症状を示す人々にも、こうした障害が認められるか否かを明らかにするために、Johnsらは、Outreach and Support in South London(OASIS)を受けている患者31例と、年齢およびIQを一致させた同地域の精神的健常者31例を対象に研究を実施した。OASISは、精神病の発病リスクが高い若年者を対象とした臨床サービスである。
被験者全員に言語的セルフモニタリング検査を実施した。検査では、被験者に形容詞1語を音読させ、オンラインによる聴覚言語フィードバックの出所および音の高低を3段階(著しい歪曲・中程度の歪曲・歪曲なし)に操作した。そして、フィードバックの声の出所(自分、他人、わからない)を直ちに答えさせ、反応時間を測定した。
その結果、高リスク群は対照群に比べて、音読の際に自分の声が歪曲されていると、声の主を正しく答えられないことが有意に多かった。
「わからない」という答えを除いても、高リスク群の方が誤答が多かったが、これは声の歪曲が著しい場合に限られていた。またいずれの歪曲レベルでも、肯定的または中立的な単語を提示した場合には、高リスク群の方が誤答が多かったが、否定的な単語を提示した場合には違いは見られなかった。
全体として、反応時間は対照群に比べ高リスク群の方が遅かった。音読の歪曲レベルにかかわらず、高リスク群では、明らかな帰属の誤りの数と、誤答の反応時間(中央値)の間に逆相関が認められた。対照群ではこうした関係は見られなかった。
陽性・陰性症状評価尺度(Positive and Negative Symptom Scale)およびハミルトン不安評価尺度(Hamilton Anxiety Scale)の得点と、誤答数の間に有意な相関は認められなかった。しかし、帰属の誤りの数と精神病陽性症状の得点の間には、逆相関が認められた。
さらに、精神病高リスク(At Risk Mental States:ARMS)に対する包括的評価尺度であるComprehensive Assessment of At-Risk Mental Statesによる知覚異常の重症度と誤答の反応時間の間には、有意な関係が見られ、反応時間が長いほど症状は重症であった。
Johnsらは、Psychological Medicine誌の中で次のように結論付けている。「本研究結果が示唆するように、精神病の前駆症状が見られる発病リスクの高い人々には、セルフモニタリングの障害が存在する」。
「我々は現在、セルフモニタリング能力の経時的変化、セルフモニタリング能力とその後の精神病発症との関係を明らかにするために、本研究の被験者の追跡調査と再検査を実施している」。