心療内科からみたテクノストレス症候群 ネット社会

心療内科からみたテクノストレス症候群 村林信行・筒井末春 1994

・環境が共通ならば、同じ病気になりやすい。たとえば交代勤務による睡眠障害その他の症状。
・職場のハイテク化とストレスについて以下の指摘
○知的労働負荷の増大
○合理化が仕事を増やす
○ミスが許されない
○創造的であることが要求される
○納期が厳しい
○個人の能力差が結果に出やすい
○機械主導のペースになりやすい
○作業が単調になる
○職場内で人間的な対話がなくなる
○派遣の増加などで労働条件が悪化
・残業増、通勤時間増で、不眠。
・VDT作業従事者の心身不調が多い
・その場合、発症後おおむね一年程度と受診まで時間がかかる
・初診時にすでに欠勤や遅刻が多くなっており、職場不適応を呈している。
・不安性障害やうつ病が多い。
・症状が移動して変化する場合が多い。
・性格傾向としては自己愛性が多い。ついで、統合失調症質、依存性、回避性と続く。(注-ICDに準拠している。)
・自己愛性格とは
○プライドが高い
○他人に共感するのが苦手である
○他人の評価に敏感で、絶えず人の注目や賞賛を求めたり、逆にねたみの感情にとらわれやすい。
○昔職人気質と呼ばれた性格は、これに近い。
・コンピュータ作業は、能力があれば万能感を持ちやすいため、自己愛性格者が集まりやすいとも言われている。
・統合失調症質性格は他人と親しく接するのが苦手で、これもコンピュータ業界には多い。
・ストレス要因が内的にも外的にも解決されていない状態で、「症状を取り除いてください」と来院するケースもある。
・Brod C:Technostress.1984

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最近はテクノストレスという言葉はあまり使われていない。
コンピュータを使うことが非常に一般化しさらにネット社会が進展し携帯の爆発的普及もあり、むしろテクノストレスを免れている人のほうがまれになったことも状況としてはあると思う。

ネット・携帯社会が自己愛性格者の割合を増やしているのではないかとの考察には賛同する。

誰の心の中にもある、自己愛性成分や回避性成分、依存性成分、強迫性成分、演技性成分、衝動型成分、境界性成分、統合失調症質性成分、受動・攻撃性成分などの中で、ネット・携帯社会が特に自己愛性成分を拡大させているのだと考えられる。
だから、個人の中でも、自己愛性成分は強まり、社会全体としても、自己愛性性格者の増大をみていると考えられる。
コンピュータの特性、ネット社会の特性の両面から考える必要がある。
コンピュータと携帯との毎日は、幼児的な自己愛の保存と強化を可能にするだろう。欲求があれば、キーを押すことで即座に満たされる。それは幻想的万能感をもたらし、自己愛性性格の保存と進展に寄与する。
ネット社会は自分の内部にある幼児的プライドや非現実的な自我理想の保存に働き、自分に都合のいい情報しか見ないという意識的無意識的検閲によって自我の傷つきを回避している。
自分は素敵という人たちも自己愛性であるが、アイドルを素敵と崇拝する人たちもまた、自己愛性である。崇拝されるべきアイドルを、正しく崇拝している自分たちは、これまた崇拝に値するのである。自己愛は延長する。
アイドルサイトに集合する人たちの独特の性格傾向は、自己愛性といっていいものだろうと思う。

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つまり、ネット・携帯社会は、個人においても社会においても、自己愛性成分を増大させる。そのときにうつ病が発生すれば、当然、自己愛性性格傾向を基盤としたうつ病像になるはずであって、その特徴もいくつか抽出されていて、昔のメランコリー親和型うつ病に代わって、種々の新型うつ病で議論されている。ディスチミア親和型うつ病、未熟型うつ病、神経症性うつ病、職場結合性うつ病、逃避型抑うつ、退却神経症、現代型うつ病、このそれぞれと関連の深い現実的社会的要素は何であるか、もうひとつは性格的要素は何であるか、そのあたりを整理できればよいと考えている。

たとえば
http://shinbashi-ssn.blog.so-net.ne.jp/2008-05-15

まとめると、
ネット・携帯社会は、自己愛性格者を主に増大させた。そのことがうつ病の病像の変化をもたらし
治療にも影響している。2008年的に言えばそうなるだろう。