こんなに苦しいのになぜ生きるのか

ある人が語る
こんなに苦しいのになぜ生きるのか

もちろん積極的に死にたいとは思わない
いろいろな人にたくさんの迷惑をかけてしまうことも分かっている

分かっているけれど
たとえば
何かの事故があって
それに巻き込まれて死んでしまうなら
それでもいいと思っているという自分がある

そうかもしれない
それぞれの人のいろいろな事情があるから
断定はできないし
慎重に考えなければならない

でも例えばあと一つだけ季節が変わるまで待ってみてもいいのではないか

太宰治だって
夏用の布きれをもらったから夏まで生きてみようと思って
そしたらいろいろとあって
小説だって書いたのだ

例えば源義経だって
幸せに育ったわけではないし
幸せに死んだわけでもない

それぞれの人なりにではあるけれど
人生は相当苦しいものであるらしいことは確かなんだと思う
出る杭は打たれる
嫉妬もされる
苦しい状態がむしろ普通であるらしい

だからというわけではないけれど
たとえばモーツァルトをケッヘル番号順に全部聴いてみるとかどうだろう

バッハをBWVの順に聴いてみてもいい
全部聴きました?

丸山真男はブラームスなどの楽譜を枕元において
必死にメモを書き込んでいたとか
彼が音楽に時間を取られなければ
日本の政治は少しは進歩していたかもなどと冗談を言われる

映画で黒澤とかヒッチコックとかビスコンティとか
全部見ました?
伊丹十三だってなかなか楽しい

あと小説とかなら山本周五郎とかなかなかいいものもある
固めのものが読みたいときは安岡正篤などもいいと思う
社長の訓辞のネタが分かる

中国の古典と日本の古典を読み直すのもとてもよい
とてもよいなどと言うよりは
是非必要と言えるかもしれない

この世界に絶望しきっている人にこそ
末法思想は必要なもののはずで理解可能なものであるはずだ

お酒だっていろんなのがあって
まだまだ飲んだことがないものも多いんじゃないかな
モンゴルの焼酎ってなかなかいいものがあるってさ

あの世はあの世でいいところかもしれない
でもこの世で経験することももう少しあるかもしれない

電車で赤ん坊を抱っこしたお母さんと隣り合わせになった
赤ん坊は小さな足に小さなくつ下をきちんとはいて泣かないでじっとしている
手はあまりにも小さくてぷよぷよしていて
まるで解剖学に反しているようなかわいさだった
頭には帽子をかぶってこの世界を見つめている

いいものだなあとしみじみ思う

ネコだっていいよね
どうしようもないくらい、いい

だからあとすこしだけ
生きるんだよ