12の人格

12の人格を持ち、それぞれが異なるスタイルの絵を描く女流画家 ― その驚きの作品群の画像あり
英国にキム・ノーブルさんという47歳の女性がいる。彼女は14歳のころから20年間にわたり、入退院を繰り返した。精神に不調をきたしたせいだった。しかし、診断は鬱病、拒食症、統合失調症など医師によって異なっていて、根本的な問題がわからないままだった。
1995年になって、ようやくロンドン大学ユニバーシティ・カレッジのジョン・モートン教授が彼女に確定診断を下した。解離性同一性障害(DID)である。現在はこういう難しい名前で呼ばれている心の病だが、以前は「多重人格」と呼ばれていた。
キムさんには12の異なる人格がある。解離性同一性障害では、人格間で記憶が多少共有されていることが多い。だが、キムさんの場合は、それぞれの人格の独立性が強く、いくつかの人格の間では記憶の共有部分がまったく見られない。専門家のモートン教授ですら過去に類似例を見たことがないほど、重度の解離性同一性障害だった。
2005年のある日、キムさんの家に派遣されて世話をしていた介護人のデビー・マッコイさんが「絵を描いてみてはどうか」と提案した。しかし、キムさんは絵を描いてみようとしない。半年が経ったころ、デビーさんは「絵のことをもっと真剣に考えたらいいのに」と、キムさんを連れて画材店に向かう。絵の具やキャンバスの画材を買って帰ってきた。
実際に手元に画材が揃ったことでキムさんに大きな変化が訪れた。絵を描くことに没頭する毎日。なんと10か月後には、個展を開くまでに至った。
ただし、キムさんの中には12の人格が棲んでいる。それぞれの人格が全く異なるスタイルの絵を描き上げるのである。
キムさんは言う。「抽象的な絵を描く人格がある一方で、色遣いに凝る人格もあります。別の人格に切り替わって絵を描いていたときの記憶がないこともあるので、なんだか不思議な気持ちがします」
キムさんは自分の“主人格”をパトリシアと呼んでいる。パトリシアは美しい色彩で穏やかな風景画を描く。次の絵のように。
キムさんはテレグラフ紙の取材を受けて、こう話している。「絵を描くようになったことで、異なる人格が前ほど離ればなれではなくなりました。絵を描くようになって本当に良かったと思います。私の12の人格の多くの間で共通のことが生まれました。人格が1つに融合する道が出来たのです」