信の構造 坂口ふみ 

信の構造 坂口ふみ 岩波

2000年にわたってヨーロッパの精神史を駆動したキリスト教の愛の教理──旧約新約から中世神学の生成までに供給され続けたエネルギーの源はどこにあったのか.イエスに象徴される,範疇化も概念化も不可能な〈個〉の発見と,そこに起点を置く,「知と信」「合理と非合理」のダイナミックな分裂と再統合のドラマを叙述する.

 序にかえて マリアのはなし
I 信の構造――キリスト教文化の古層についてのエッセー
    間奏曲 信じる人々
 第1章 信の対象――ペルソナと化したイエス
 1 愛を説いた人
2 愛の要求の現在化・公理化――パウロの物語
3 パウロの公理からの演繹――三位一体論とキリスト論
4 キリスト教存在論の誕生――ペルソナの登場
    間奏曲 信じない人々
 第2章 信という働き
 1 信の定義――知と信
2 見えないもの
3 他なるものへの開き――世界と神へ
4 受肉の認識論
   むすび
II ヨーロッパ思想の根――旧約と新約
   間奏曲 人の形
 第1章 旧約聖書の世界
 1 虜囚民の思い
2 テキストとしての旧約聖書の中核
3 文書と事実
4 選民の歴史
5 預言者たち
6 共通に人間的な世界
7 個性的な作家たち
 第2章 旧約から新約へ
 1 イエスを準備した諸思潮
2 ガリラヤのイエス
3 パウロ
III 愛と理性――キリスト教の思想
 第1章 キリスト教思想は哲学か
 第2章 愛の教説と救済史のドラマ――キリスト教の核心をなすもの
 1 愛の教説――イエス
2 救済史のドラマ――パウロ
 第3章 合理と非合理のたわむれ――教義の成立
 1 正 統
2 概念をのがれるものの魅惑
3 東方の光
 第4章 王権と教権と弁証法の世紀――胎動の時代
 1 中世世界の主導権
2 信仰と理性――普遍論争と正統性
 第5章 豊かな朝――西欧の開花
 
 1 多様な学芸のめざめ
2 象徴主義
3 キリスト、現世の神秘――象徴主義と福音運動とアリストテリズムの共通項
 第6章 トマスとフランチェスコ派――総合の時代
 1 ギリシャ思想とキリスト教を結んだ楔
2 トマスの総合
3 その他の流れ
 第7章 ドゥンス・スコトゥスとオッカム――分裂の時代
 
あとがき

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これはもう確実に読む。
「キリスト教の愛の教理」について、いまさら、内容について新しいこともないだろう。
しかし、何度でも、愛について学ぶことが必要だ。
人間は愛に無限に遠いからだ。

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「キリスト教の愛の教理」について、時代ごとに様々に言葉が綴られる。
どの時代にどんな言葉が綴られてきたか、
そして逆に、いまどんな言葉が綴られ、そこから見れば現代はどんな時代なのか、
そのような観点から読むことも楽しみのひとつである。

解釈や強調点の変化を唯物論的に歴史解釈することができる。
これは見事な視点で、かなり成功する。たとえば、ハンスキュング。
現代社会の下部構造(経済物質的条件)の変革がどのような上部構造(精神構造)の変革をもたらしつつあるか。
興味はそこにある。
「キリスト教の愛の教理」をどのように解釈し、どのような観点で強調するのか、
それが知りたい。