今は昔と反対で、情報量が多過ぎるのです。たとえば、「ある新規事業のアイデアがあります」というと、それに関する情報は山ほど集まってきます。「イスラエルにこんな事例がある」、「オランダにこんな事例がある」、「この会社がこんな風にうまくいっている」、といった新規事業をサポートする情報が集まって来る一方で、それに反対する人は、「いや、大変なことが起きている。そういう新しい事業をやって、潰れてしまった会社がある」というネガティブな情報を仕入れてくる。こちらも沢山集まってくるわけです。
昔ながらの管理監督型のリーダーなら、こういう場合「情報を精査し、議論を尽くせば、おのずと解決策は見つかるはずだ」と言うでしょう。昔の日本企業は大得意ですよね。「精査する」という言葉があるくらいですから。僕は、初めて聞いたときに「精査って何だ?」と思いましたけれど。要は、リーダーが判断しなくても、「三人寄れば文殊の知恵」で、何かいいアイデアが出て来るはずだ、ということなのですが、こういう時代はもう終わっている。
そうではなくて、どちらの案も正しいのです。今は情報量が多いので、ある案に対して賛成する論拠も、それに反対する論拠もできてしまう。後は「どちらに決めるか」という意思の問題です。両方の案を足して2で割ったらメチャクチャになってしまう。情報を精査して、議論を尽くしていたら、結論は出ません。
つまり、リーダーがやらなければならないのは、自ら率先垂範して「わかった。俺はこっちの道を行く」と言うこと、自分で意思決定をする、ということです。会社の方向性を決める、そのプロジェクトの方向性を決める、といったときに、リスクをとるか安全策をとるか、それは会社のポリシーや哲学によって違ってくるはずですから、リーダーが自らの責任で意思決定する。それこそが、今、組織のリーダーに求められる役割であって、もはや利害調整と管理監督のためのリーダーはいらなくなってしまった、ということなのです。
今は、ネガティブ情報もポジティブ情報も集まる。何をやるにしても反対する論拠も、賛成する論拠もできてしまう。あとは、国のためにどういう哲学で、どういう政策を行うか。これはむしろ情報の積み上げによって得られるものではなくて、情報を判断材料にして「意思をどう決めるか」の問題なのです。
IT化が進むに従って、企業経営は「テクニック」ではなくなって、「意思」になっているわけです。テクニックの部分、たとえば、会計の仕組みも、社員の給与の支払いも、ITを使えば簡単にできる。いわゆる中小企業と言われるところは、会計の専門家がいないとか、広告の専門家がいないとか、そういう専門家を揃えられないとかいうのが、少々ハンデだったじゃないですか。でも、その部分は全部ITで置き換えが効くわけです。そうなってくると、一番大事なのは「経営者の意思」ということになります。中小企業の場合、大企業以上に意思がなければ生き残れないですから。
経営者としての意思、本人の人間力、あるいは判断力、見識、哲学、こういったものがより重要になってきているのが今の時代です。僕は、中小企業の経営者の方ほど、「そこでは負けてない」という方が、いっぱいいらっしゃると思うんですよ。「大企業のサラリーマン経営者には負けないぞ」、と思っている方がね。ITはそういう方の武器になる。IT化についていけない大企業とか、昔の組織にこだわっている動きの遅い大企業に対して、判断の速い、哲学を持った経営者がITを武器にして事業拡張をしていく、ものすごく大きなチャンスなんです。
今は、テクノロジーの進化が速い時代なので、自分たちの手でできることはすぐに取り入れてみる、新しいものに常にトライする、ということを考えた方がいいと思います。それを使って「自分の夢をどう実現するか」を考えて欲しいですね。