二重人格メール女子の話

引用採録
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「二重人格メール女子」が思い出深いです。コラムでは悪い文例しか出さなかったのですが、読者の方から「このメールのどこが悪いんですか?」というご意見が何件か届きました。ああいったメールを実際によく書いていて、違和感を覚えなかった方も多いようなんです。思った以上に、二重人格メールで損をしている人が多いってことですよね。私も、反面教師にして気を付けないと……。このように、女性特有のビジネスメール作法についても、引き続きウォッチしていきます。
直井:さっきうちに来ていた氷室雪子さんからお見積もりについてメールが来ました。
平野:もう連絡が来たんだね、クイックレスポンスとはいいじゃないか。
直井:でもぉ~~。こんなメールなんですよ……。
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直井:さっき、「製品○○の導入を検討したいので、お見積もりをくださいね」ってお願いしましたよね。氷室さんは「会社に戻ったらすぐにお送りしますね」って笑顔で言っていたのに、このメールです。
平野:相変わらずメールが冷たいねぇ。氷室さんってうちの担当になってから長いよね? メールだと印象がずいぶん違うよ。
直井:そうなんですよ……メールもらうたびに、違う人からじゃないか? もしや別人? って疑ってしまいます。まさに、これは「二重人格メール女子」です。実際にお会いしたイメージは大和撫子って感じで、蚊も殺せないようなはかなさすら感じるのに、メールだと全く別人です。毎回ガツンとくるメールを送ってきます。
平野:確かに、さっきの打ち合わせからは想像すらできない文面だね。
直井:二重人格メール女子って、なぜか地味系な女性に多いですよね。だから強気なメールとのギャップに驚くんです。
平野:……地味系な女性に多いかは、僕の口からはなんとも言えないなぁ。でも、直井さんは、このメールをもらってどう感じたかな?
直井:氷室さんを怒らせるようなことをしてしまったのかなぁ? って心配になりました。だって、さっきまで、あんなに仲良くお話ししていたのに、どうしてメールはこんなに冷たくて怖いんですか?
 氷室さんのメールにはいつも、文末に「以上」って書いてあるのですが、冷たい感じがして苦手です。さらに本文の表現も冷たくてへこみます。それなのに、下を見ると「♪」マークがちりばめられているテンションの高い署名が付いていて、違和感があります。氷室さんが何を考えているのか、さっぱり分かりません。
平野:そうだね。情報としては適切だけど、ある程度、人間関係が構築されている仲にしては表現が冷たいよね。どこもかしこも受信者をイラッとさせる表現が満載だ。
 まず、お客様に送るメールとしては不合格だね。「もしご不明点があれば、明日も午前中会議ですので午後一でお電話頂くかメールにてご連絡ください」という対応は間違っている。確認が必要なら、お客様を動かすのではなく自分から連絡をするのがマナーだよ。
 「急ぎの対応が必要な際は、社内調整も必要ですのでご理解ください。」という表現も不適切だな。社内調整が必要なのは氷室さんだけじゃないよね。お客様への配慮より自社の都合を優先した表現は誤解を与えがちだ。
 しかも、ビジネスメールの署名なのに「♪」マークが満載。危険なメールだ。
直井:そういえば、こんなメールがきたこともありました。
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直井:以前、製品○○の調子が悪いっていう話をしましたよね。保証期間中だったような気がしたから無償で修理してもらえますか? って相談したんです。それで、このメールですよ。
平野:困ったメールだね。「保証期間が過ぎているために無償で修理することができない」と知らせるのは間違っていない。ただ、その代替案の提示の仕方が冷たいね。「~できません。」と断言すると、相手を突き放しているようにも受け取られかねないよ。また、「よろしいかと思いますので、よろしくお願い致します。」というような断定的な言い方も冷たく感じるな。
 おそらく、本人は自分のメールが冷たいだなんて自覚していないだろうし、指摘されても納得しないと思うよ。氷室さんのような人は、典型的なメール苦手人間なんだ。自分は正しいと思ってメールを送っているんだからね。
 ここであえて指摘をして事を荒立たせるよりは、こちらからはメール以外の手段を使ってコンタクトを取るようにするのが賢明だ。メールの返信に悩んだら、電話で話せば即解決さ。
直井:分かりました。じゃあ、ちょっと氷室さんに電話してみますね。所長、そこで聞いていてください。
平野:お、おう。わかったよ。電話してごらん。
直井:……、氷室さん、先ほどはありがとうございました。早速、お見積もりありがとうございます。…あ、はい。……そうなんですよ。………そうですね。よろしくお願いします。え? …へぇ~。いいですね! じゃあ今度うちにいらした時はぜひ! ……はい! では失礼します。
平野:どうだったかな?
直井:うちの研究所の近くにイタリアンのお店がオープンしたらしいんですよ。雑誌に載っていたようで、今度一緒に行きましょうって。
平野:え? お見積もりの件は? メールが冷たいって件は?
直井:あ! そうでした。ついつい、いつもの調子で食べ物の話に飛んでしまいました。
平野:コラ! 直井さん!
直井:でも、ちゃんとお話しましたよ。「対応可能な最短スケジュールを確認するので少しお時間ください」と明るい声で言われました。いつも通り、感じの良い対応でしたよ。怒ってなんかいませんでした。
平野:ほらね。氷室さんみたいな人とは予防のためにもメールを使わないようにするのがベストだよ。
直井: そうですね。美味しいお店の情報も、メールじゃなくて電話で聞
くようにします。
平野:そういうことじゃないだろう……。
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なるほど
そうなんだろう